機械仕掛けの少女のメモリア【オロロジリア】

プル・メープル

第1話 少女との出会い

俺は火神かがみ 裕也ゆうや、高校二年生だ。

父親の残した借金1億を、返せるはずもないのにバイトでちまちまと返していく生活を送っている。

ある日のこと。

そんな俺の元に、借金取りから一通の手紙が届いた。

そこには意外ときれいな字で、『この場所に来い』と書かれていて、地図も同封されていた。

行かなきゃ向こうから来るだろうし、怖いから行くけど。

新年早々、嫌なことに巻き込まれなきゃいいけど。

ま、借金の時点で嫌なことだし、それ以上の嫌なことといえば、命を狙われることくらいか。

俺はそんな軽い気持ちで、指定された場所へと向かった。


「おせーぞ!」

「す、すみません……」

指定された場所は借金取り達のアジト。

入口の警備をしていた男にいきなり怒鳴られた。

かと言っても、この人たち、そんなに悪い人じゃないんだよな。

利息だって、『高校生だからそんな稼げない!』って言ったら無しにしてくれたし。

誰かに暴力を振るったりする訳でもなく、ただお金を貸して、返してもらうのを待つだけの人達だ。

いくら親父の残したものと言っても、1億の借金がある俺を普通に学校に行かせて、自由に暮らさせてるんだ。

そんな人達が悪い人なわけがない。

まあ、たまに見張りに来たりはするけど。

ここのおさの顔は見た事ないけど、きっと超金持ちなんだろうな。

絶対返せないけど、1億返し終わったら顔を見せてもらおう。

周りの人達はみんなイカツイ顔をしているし、きっとその類なんだろうけど。

俺は男に案内されて奥の部屋に招かれた。

ドアには『長の部屋』と書かれたプレートが貼ってある。

「失礼します」

そう言いながら、ドアを開いて中に入る。

「遅かったじゃないか、道端に犬のクソでも落ちていたのか?」

暗闇で何故か顔だけ見えない長の低音ボイスが骨に響く。

「い、いや、その……」

ちょっと怖くて、足がすくんで家から出るのに時間がかかったなんて言いにくい……。

俺の気持ちを察してか、長は「まあいいだろう」と言って話を進めた。

「お前には今、1億程度の借金があるな?」

「は、はい……すみません……」

「なに、謝ることはない。父親の残した借金を肩代わりするなんて、偉いやつじゃないか」

そう言って長は豪快に笑う。

あれ、なんか褒められてる?

肩代わりじゃなくて、押し付けられたんだけどな。

「それでだ。なあ、お前」

「なんですか?」

一瞬、暗闇の中の長の目が怪しく光ったような気がした。

「1億の借金がチャラになると言われたら、どうする?」

「……へ?」

ついマヌケな声を出してしまう。

1億がチャラに?

そうなるならなって欲しい。

そうすれば、俺は普通の高校生として生活ができるんだから。

「その目はやる気という事だな?」

俺はウンウンと頷く。

もちろんやる気満々だ。

これでさらばだ1億!

お別れだ父親の借金地獄!

「そんなお前に任せたい仕事があるんだ」

長はそう言うと、両手を2回叩く。

すると、奥の扉から男が台車を運んでくる。

その台車には人型のものが乗っているように見える。

長と同じで、シルエットしか見えないんだよな。

「ん?見えにくいか?もう少し前に運んでやれ」

男が言われた通り、台車を少し前に動かす。

ライトが台車を照らし出した。

「……女の子?」

「ああ、そうだ。と言ってもロボットだがな」

「ろ、ロボット……?」

俺の視界に映る少女、歳は俺と同じくらいに見えるし、背丈も俺より少し低いくらいだろうか。

どこからどう見ても、立ったまま眠っている女の子にしか見えない。

「信じられないか?なら、触って確かめてみてもいいぞ?」

「で、では……失礼します……」

俺は恐る恐る少女の頬を人差し指でつつく。

「……」

ぷにぷにとした感触だ。

女の子らしい柔肌と言うやつだろうか。

ただ、人間としての体温を感じない。

腕を触っても、足を触っても、もう一度頬をつついても、体温を感じなければ、目覚める様子もない。

「まあ、触るより見てもらった方が確信が持てるんだがな」

そう言った長は立ち上がって少女に近づき、首の裏を軽く叩く。

すると、音も立てずに首の裏がパカッと開かれた。

「……え?」

よく見えるように俺もさらに近づいて、首の裏を覗き込んでみる。

「どうだ?信じたか?」

俺のすぐ横にいる長が怪しく笑ったような気がした。

ていうか、なんでこんな近くに居るのに長の顔は見えないんだ?

もしかして、長の顔は18禁の規制でもかかっているのだろうか。

来年になれば見えるようになるだろうか。

ただ、今はそんなことより少女の首の裏の話の方が大事だ。

そこには薄っぺらい電子回路板のようなものが埋め込まれていた。

それは時折、青色の光を放っている。

こんなものを見せられたら、いくら非現実的なものでも信じるしかなくなってしまった。

俺がうんともすんとも言わないのを見据えた長は、相変わらずの低い声で俺に告げた。

「お前の借金をチャラにする条件、それは、これから巻きこまれる色々な出来事から、こいつを守り抜くことだ」

「…………」

理解できなかった。

「やってくれるよな?」

理解できない……だけれど、闇の中から発せられる威圧感が、無意識の内に俺の首を縦に振らせた。


こうして、俺は機械仕掛けの少女を守る生活が始まった。

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