第3話 走れいい女
*タイガースファンしか、こんな詩は書けまい!
女は走った。走りに走った。
メロスだって こうは走れまい。
「今晩残業で遅くなる」
「何時頃?」
「最終電車で帰れると思う。先に寝てて、チュー(kissの音)」。
ビールかっくらって、ドラマを見てたけど面白くない
阪神どうなってるかな?9回裏2対1。
逆転の応援、バックスクリーン横のビスチェの娘二人
しきりに写ってる。カメラマンお気に入りかな。
横を映した。いるではないか わが亭主
横には美人の若い娘。ズームアップ。
このカメラマンよっぽど女好き
アップされたその横はまさしく マイダーリン。
「あいつ今日こそは現行犯捕まえてやる」
駅に行ってたら間に合わない。甲子園までひと駅もない。
女は走った。靴を履く間も惜しかった
ネグリジェの上からジャンパー羽織って
乱れる裾も 人目も気にせずに…
ひとり5分 バッター3人 合わせて15分
間に合う、間に合う。女は走る。
切符買ってるヒマもない。9回だからなんとか言って入れるだろう。
歓声!歓声!「ワー・・・!」同点かな。延長や!
いいぞ、いいぞと女は走る
今日こそ、今日こそと走る。
いつも上手いこと言って誤魔化す。あいつは嘘の天才
現行犯、現行犯。それしかない。
陶芸習いに行った。初めての作品
「誕生日おめでとう」とプレゼント。
湯呑…?なんでかな?
YOU ONLY ユー・ノミだってさ。
それでイチコロ アホな私
許してしまった。今度はそうはいかんわよ。
球場についた。人がゾロゾロ
「終わったの?」「せや、新庄の逆転サヨナラや」。
いい気になって 六甲おろし歌ってるかも
入れてもらったが、バックスクリーン横には姿なし。
がっくりこん、こんなに走ったのに
やけ酒やと近くの居酒屋に入った。
「新庄バンザイ!バンザーイ!」虎キチたちの合唱。
「よう~!ねーちゃん。色っぽい格好やな。誰を追っかけて来た?」
しまった、しまった。島倉千代子。
この格好。靴だって履いてない
何しろ一目散だったから…恥ずかしがっても仕方ない。
私だって バブルの頃はディスコで鳴らした美人。
「おおきにお兄さん 座っていい」
そいつらと一緒に飲んで騒いだ。
送ると言ったけど また今度とタクシーで帰る
行きはよいよい 帰りはこわい。
亭主が先に帰っていて 渋い顔でビール飲んでいた。
「なんじゃお前!」
〈なんじゃとはなんじゃ。こっちが言いたいわ。ヒック(ゲップの音)〉
「これ見てみろ」。テレビのスイッチ。
居酒屋の私が写っているではないか。
「逆転に沸く甲子園近くの居酒屋からお送りしました」。
カメラが入ってたんや。亭主はそれをビデオに撮った。
「なんじゃお前。その格好は。横の男たちはなんじゃ」
「・・・・・・・」
「なんか言えよ」
「・・・・女はつらい」。
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