第105話 さなぎが羽化するように

最北の港町ラッシオに向かって吹いてくる潮風も暖かく感じるようになってきた。


そしてその風は、俺とティーナに対して旅立ちを促す風ともなっていた。


“ティーナ。 風も暖かくなったから東に向かって旅を再開しようか”

“そうね。 いよいよジョンの故郷に向かっての旅になるのね”


季節は、いよいよ本格的な春の到来となった。



その頃、王城内の地下牢では......。


「何なんだ、この黒い紋様は胸元から日ごとに少しづつ広がっているじゃないか」



同時刻、闇の商人の屋敷では......。


やっと覚醒の兆候が表れて来ましたかね。


今回は王族の子息ですからね、生まれ持った資質が平民よりも優れていますから、

夫人達よりも強力な個体に変化するのではないでしょうか。



ゆっくりとではあるが、確実に運命歯車どうしが嚙み合う時がそこまで迫っていた。



“ティーナ。 北回りで王都を避けて東に向かうから、途中で山の温泉に行こうかな”

“あ~、いいわね。 前回は海の温泉だったから、どんな処か楽しみだわ”


俺とティーナは港町ラッシオを出立して北東に向かって歩き始めた。



一方、王国騎士団は再編を行っていた。


「オスカー団長、絶対的な人数が足りていません」


「地方の遠征に出している中から、即戦力になる騎士を各方面から100名ずつ呼び

戻すしかないないだろうな」


「しかし、地方が手薄になりませんか?」


「いまこの大陸内は、平穏に保てれているから多少は大丈夫だろう。

それよりもこのところ、王都内の方がきな臭くなっているから、こちらに人員を

集めておく必要があるんだよ」


「そうですね。 大鬼しろグールにしろ全ては王都で起こった事件ですからね」


「まぁ、地方に関しては、東西と北は安心できるから良いとして、南も当主の首を

を挿げ替えたから当分は大丈夫だろう」


「では、遠征隊に通達を出しても大丈夫ですね」


「あぁ、それで頼む」


壊滅に追い込まれた騎士団を立て直すのには、まだ時間が必要なようだった。


果たして間に合うのか......。



修道院では、春の訪れを感謝する“春の花祭り”を行っていた。


「みなさん、用意はいいですか?」


「はい、大丈夫です」


教会の建物前の庭には、市民が持ち寄った沢山の花を咲かせた鉢植えが処狭しと

並べられていた。


そして、その置かれた鉢植えの周りをみんなで一緒に奏でられる音楽に合わせて

踊りながら回って楽しむのだ。


音楽の演奏は修道女達の役目でもある。



今日、私ララは演奏を担当しました。


花祭りの前から練習はしていたのですが、当日の本番まで上手に弾けるか心配で

心臓がドキドキしていました。


それでもいざ演奏が始まり、目の前で踊っている市民の皆さんを楽しげな顔を見

ていたら心が落ち着てきて、最後までしっかりと演奏する事が出来ました。



やはり、心からの笑顔は大事だなと、私ララは改めてそう思いました。

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