第53話 春の息吹を感じて

ドワーフの集落を離れ、帝都に向かう街道を荷馬車の後ろに座って移動して

いる俺とティーナ。


いつもは徒歩での移動なのだが、丁度近くの町からドワーフの集落に買い付け

に来ていた商人が、買い付けが終わって町に帰ると言うので、同行させて貰い

荷馬車の後ろで景色を眺めながら座っていた。


“ジョン。 ドワーフの集落、面白かったわね”

“そうだね。 ロジャーさんのお兄さんにも会えたしね”


騒動が終息した後、集落を是が非でも案内すると言うベイツさんの意気込みに

押されて、ベイツさんと一緒に俺は色んな工房を、そして坑道の中を沢山見て

回った。


“金属製の生活用品も沢山作っていたわね”

“剣が主流かと思っていたけど、どちらかと言うと生活用品の方がメインだった”

“買い付けに来ていた商人さんも、生活用品の方を沢山買っていたものね”


ティーナと会話していると、景色は岩場から青々とした草原へと変わってきた。


「ジョンさん。 この辺で馬を休ませるので、荷馬車を停めますね」

「はい。 大丈夫ですよ、エディさん」


俺が返事をすると荷馬車はゆっくりと停止した。


停止した荷馬車の後ろから降りて周りを見渡すと、季節もめっきり春の

息吹に染まり草原の草花も元気いっぱいだ。


エディさんは荷馬車から2頭の馬を解放すると草原の方へと放す。

馬たちは気持ち良さそうに駆け出し、場所を決めると直ぐに草を食べ始めた。


「のどかですね、エディさん」

「そうですね。 この辺は盗賊の心配もありませんし、のどかですよ」


「ジョンさん、お茶でもしませんか」

「そうですね。 馬たちもまだまだのようですし」


草原に吹く爽やかなそよ風を頬に感じながら、お茶を頂く。


「ラズーニェの町までは、あとどれ位ですか?」

「この草原が丁度中間地点です。 ですから、あと1時間位ですね」


エディさんと会話をしていると、満足したのか2頭の馬たちが帰ってきた。


「では、出発しましょうか」


エディさんが馬達を荷馬車に繋ぎ終わり、手綱を操作すると馬達がゆっくり

と荷馬車を引き始める。


そこから、また通り過ぎて行く景色を、荷馬車の後ろから俺はのんびりと

眺めていた。



「ジョンさん、ラズーニェの町に入りますよ」

「はい」


俺はエディさんに返事をすると、荷馬車の後ろから飛び降りて御者台の方へ

駆けて行き御者席に飛び乗った。


「はっは~、ジョンさんは身軽ですね」

「いやぁ~、これぐらいは動けないと剣の師匠に怒られますから」


俺はエディさんと荷馬車の御者席に座ったまま、町の入口の門でギルドカードを

提示する。 そして、何事もなくそのまま街の中へと荷馬車を進めた。

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