第54話 ティーナのお願い

パコパコッ...パコパコッ


石畳の道をゆっくり進んで行く、馬の蹄のリズミカルな音が耳に心地良い。


「ジョンさん、そろそろ私の店に着きますよ」


間口の大きな、立派な建物が見えてきた。


「目の前のあのお店ですか?」

「はい、そうです」


「立派な店構えですね。 それに歴史を感じさせる佇まいです」


「ありがとうございます。 私の祖父の時代に建てたお店なのですよ。

私で、三代目になります」

「いいですね。 長く続く事が大事ですから、商才に恵まれているんですね」


「いや~、ありがとうございます。

ジョンさんは、この町まで来ましたがこの後は如何されるんですか?」

「二日ほど滞在して、また旅を続けます」


それならと、エディさんが安心して泊まれる宿を教えてくれた。


「では、ここ迄ですね。 ではお体を大切に......」

「はい、ありがとうございました」


俺はエディさんと別れの挨拶をして、教えて貰った宿屋へ向かう事にした。



午後4時......。


エディさんに教えて貰った宿の部屋を無事に確保出来た俺達は、この町では

有名だと言うお菓子屋さんに足を運んでいた。



それは......。


宿の部屋で着替えを終えて、さぁ寛ごうかと俺が紅茶を淹れ始めた時だった。

“ねぇ、ジョン。 お菓子が食べたいの、何か有る⁉” と、ティーナの問い

かけが切っ掛けだった。


ティーナのその問いかけに、食材用のマジックバックの中身を確認すると......。


そのマジックバッグの中には、お菓子は一つも残っていなかった。


そう言えば......。


ライプリッヒの街を出てから、一度もお菓子の補充をしていなかった事を思い

出したのだ。


“ごめん、ティーナ。 お菓子は一つもないよ”

“え~、何で⁉”

“この町に来るまでライプリッヒの街から一度もお菓子を買っていないからだよ”

“そうかぁ。 じゃぁ、直ぐにでも買いに行こうよ”


珍しくティーナが欲しがるので、俺は宿のご主人にお菓子屋さんの場所を聞いて

やって来たのだ。


“ティーナ欲しいお菓子が見つかったら言ってね”

“もう、あり過ぎて......どうしよう”

“一度に食べないんだったら、沢山買い置きしておこうか?”

“ん~、それは止めとく”

“えっ、如何して”

“だって、有ると......食べちゃいそうだから”


ティーナは、キチンと自己制御が出来る様だ。


“後で、褒めてあげよう”


その後は、一つひとつの分量を少なめにして、10種類位のお菓子を買い込んだ。


そのまま宿に戻り、ティーナの為におやつタイムにしようと思っていたのだが、

丁度夕食の時刻に重なってしまったので、食堂で食事を先に済ませて、部屋に

戻ってからおやつタイムにする事にした。



食後......。


“ん~、甘~い。 美味し~...嬉しい~...‼”


ティーナの喜ぶ声が、宿の部屋に満ちていた。

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