第48話 帝国の乙女達 “了”

警戒を始めて四日目、ここまでのところ下着ドロボーは現れてはいない。


ただ、最終公演が明日に迫り、人の出入りが多くなって来た。


“狙い目としては、今日あたりが一番だと思うのだが”


午後の公演開始に合わせて、俺も仕事を始める。


“ティーナ。 浴室の方は、よろしくね!”

“は~い! 了解よ”


女性だけしか居ない劇団なので、流石に俺は浴室を見に行くのはこの警戒中

ずっと遠慮しておいた。


“ティーナがいるからね、そこはお任せしておいた”


*******


演目の幕間に入って、演者も観客も一息入れる。


舞台の袖から、客席の方を注視していると、ガタイの良い人物が目に留まった。

濃い化粧を施して、女性物の衣服を身に付けている人物だ。


“これは、所謂オネェと呼ばれる人種だろうか?”


それと、もう一人。


こちらは、男性で正装を身に纏い、どこかの貴族のような雰囲気を出していた。


“気になるけれど、見た目では判断出来ないな。 しても、いけないけれどね”


*******


幕間の休憩が終わり、第二部の演目が始まる。


舞台袖で客席を一席づつ確認していると、客席に一つ空席があることに気が

付いた。


座席の場所から、先程気にしていたオネェさんの席だった。


俺が舞台袖から楽屋の方へ移動しようと視線を替えた時に、もう一箇所空席

があることに気が付いた。


“如何やら、二人組のようだ”


俺は急いで裏に回ると、念話でティーナに状況を説明して、気を付けるよう

に頼んだ。



第二部が始まった事で、裏には人が居なくなっているので、犯人を見つける

事は容易だった。


「そこで、何をしているのかな」


俺の声掛けにビクッと反応して振り返る正装をした男。


すかさず、胸元から取り出したナイフを手に、俺に向けてナイフを突き刺し

てきた。


俺は、相手がナイフを向けて来たので、遠慮なく履いていたハイヒールで

腹部に蹴りをお見舞いした。


九の字に曲がり、“ベフッ”と言葉を発して壁まで飛んで行く正装の男。

そして、壁にぶつかり、後はそのまま壁際で動かなくなった。


“ジョン。 後ろ”


ティーナの呼びかけに、俺は後ろを振り向かずに前方へと飛んだ。


すると、俺の居た場所には、剣が振り降ろされていた。


そこから、剣を引き抜き、俺に追いすがるオネェさん。


俺は、オネェさんの追撃を躱しながら、ロングソードを空間から取り出した。


“ガキッ......ガキン”


と、鍔迫り合いの剣技を繰り返しながら対峙する、俺とオネェさん。


“傍から見ると多分、美女と野獣なのだろうが。

実際には、女装とオネェさんの図式が正解かな。”


そんな中、終わりは唐突にやって来た。


俺のロングソードがオネェさんの剣を真っ二つに切ったからだ。


その瞬間、俺はオネェさんにもハイヒールで蹴りをお見舞いした。


正装の男と同じように壁際で気を失ったオネェさん。



俺は二人組に猿轡を噛ませると、後ろ手に縛り床に転がして置いた。

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