第49話 騒動の終結と麻袋

騒動の翌日。


帝國劇団・華組の最終公演は無事終了した。


“お疲れ様でした......お疲れ様でした......お疲れ様でした”


あちらこちらから、公演の終わりを告げる言葉が楽屋で聞こえていた。


********


その日の夕方......。


「さぁ、打ち上げを始めるわよ」


団長さんの掛け声と共に、演者と裏方の劇団員達が思い思いに用意された

料理や飲み物に手を伸ばしていく。


“ティーナ。 なんで俺は、ここにいるんだろう”

“さっきまで、警戒の仕事をしていたからでしょう”

“まぁ、それはいいんだけど......なぜ、女装のままで参加しているのかが?”

“女性だけの劇団だから、外聞的に男はダメなんじゃない”

“ん~、そうかな”


「ジョンさん、打ち上げなんだから、そんな辛気臭い顔をしてないで、

楽しんでいってね」


ティーナと念話で会話していると、団長さんが気になったのか声を掛けなが

ら通り過ぎて行った。


********


二日後の朝8時......。


帝國劇団・華組の公演が行われていた劇場の楽屋口に俺は立っていた。

帝都に向けて出発する華組の見送りをする為だ。


大道具、小道具&衣装などを乗せた馬車迄合わせると、全部で馬車10台にも

なるという大所帯での移動、改めて移動公演が大変な事なんだなと理解した。


まぁ、これも辺境を守る兵士達の士気を高めるために必要な事柄だから仕方

のない所ではあるのかも知れない。


「ジョンさん、お見送りありがとう。 今回は下着ドロボーを捕まえてくれ

て感謝しているわ。 帝都に来たら、是非とも劇団の本部にも顔を出してね」


「ありがとうございます。 帝都まで辿り着いたら、一度顔を出してみます」


団長さんが先頭の馬車に乗り込むと、先頭の馬車からゆっくりと動き始める。


そして、後方にいた衣装を積んだ馬車が、俺の目の前を通り過ぎる時に、

馬車の御者台に座っていた衣装担当の人が......不意に、大きな麻袋を放り投げ

てきた。


その袋を、受け取った俺に御者席から一際大きな声で......


「ジョンさ~ん、私達から感謝のプレゼントです。

後で、開けて見てくださいね。 絶対、似合うと思います。 バイバ~イ‼」


と、別れの挨拶の言葉を言いながら、馬車と共に通り過ぎて行った。



そして、最後の馬車を見送ると、俺も次の目的地に向かって歩き始めた。



“ねぇ~、ジョン。 その麻袋の中身は何かしら”

“あの様子だと、多分あれでしょう”

“そうよね、それしかないわよね。 着てみる......?”

“いや、遠慮しとくよ”



********


捕まった、下着ドロボー達の顛末は......。


その日の公演が終了して、楽屋へと戻って来た劇団員達は床に転がされている

二人組を見て、驚愕の表情を浮かべていた。


それは、この二人組がこの街の衛兵の隊長と副隊長だったからだ。


このまま、衛兵の詰所に連れていっても、何の問題の解決にはならないだろと

いう事で、その上の帝国騎士団の方へ引き渡す事になった。


それを聞いた二人組は必死になって謝っていたが、決定が覆る事は無かった。


“女性の、本気の怒りは怖いよね”


帝国騎士団に引き渡された二人組は、余罪を追及されそのまま投獄と相成った。


それと、衛兵達への監督不行き届きという事で、この街の領主も帝都に戻され

ると、辺境伯爵から男爵まで降格されたらしい。



“ご愁傷さま、合掌‼”

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