第36話 冬が本格的に始まる前に “戦”

ベルツァーの街を出て三日目、丁度中間地点まで商隊は到達した。

ただ、この辺りが一番危険が多い地域になるらしい。


ベルツァーの街からも、首都ライプリッヒからも応援が来るのに時間が掛かるのが

最大の理由だ。 なら、途中に要塞でも造ればと思うのだが、そこまで予算と人員は確保出来ない様だ。 その分、冒険者に仕事が有るのだが、盗賊や魔物との戦闘になると、命懸けとなるのでリスクは大きい。


草原が拡がる中を抜けていく街道。

見晴らしは良いのだが、小高い丘の反対側は様子を確認するのが困難だ。


俺は馬車の横を歩きながら、そう考えていると......。


“やっほ~。 旅を再開したんだね”

“あっ、フェアリー。”

“チョット気を付けて、左前の丘の向こうに大鬼が現れそうよ”

“マジですか‼”

“本当よ。 それを、伝えに来たの、頑張ってね! チュッ‼”


そう言うと、フェアリーはフレンチキスをして帰っていった。


手伝う気は、サラサラない様だった。



それから直ぐに、丘の向こうから大鬼の咆哮が響いて、3体の大鬼がやって来た。


直後、護衛の冒険者達のリーダーが商隊の隊列を止めて、高ランクの冒険者達に

指示を飛ばす。


そして、商隊の50m位先で、冒険者達と大鬼3体の戦闘が始まった。


今回の護衛は、4パーティ20人に俺のようなソロの冒険者が5人参加していた。

今は高ランクの3パーティが其々1体を相手に戦っている。


残った俺達は盗賊の襲撃にも備え、周りの警戒をしていた。


その中で俺は隊列の前に出て、周辺の警戒をしながら、戦闘の方も気にしていた。


均衡を保っていた戦いでは有ったが、右側のパーティの剣士が一人草原の方へと吹き飛ばされていった。


「あのパーティー危ないですね」

「そうだな。 ジョン、済まないが加勢に行ってくれるか」


リーダーの言葉に頷くと、俺は直ぐにパーティーの方へと駆け出した。


「加勢します」


そう声を掛けると、俺はロングソードを鞘から抜き、大鬼と対峙した。


“前回よりも動きが速くなっている。 やはり、経験値を稼いでいたようだな”


だが、まだまだ俺からすると、のんびりとした動きではある。


大鬼が振り下ろす棍棒を避ける。

動きが速くなった分、威力も上がっている。 地面の陥没度が深くなった。


その分少し驚きはしたが、俺は冷静に棍棒を振り降ろした腕の肩の方から、地面に向かって袈裟斬りにした。


腕を切り落とされ、咆哮をあげる大鬼。


すかさず、俺は対峙していたパーティーに声を掛ける。


「後をお願いします」

「おぅ」


パーティーの返事を受けて、俺は草原の方へ吹き飛ばされて行った剣士の下に急いだ。


剣士の方は、腕の骨が折れていたが、生命の危険はない様だった。

俺は剣士を背中に背負うと、隊列の方へと急いで戻った。

治療師に任せる為だ。


俺がその場で治療してやっても良かったのだが、目立ちたくはないからね。

任せられるところは、専門家に任せよう。


他の2パーティーは、少しの怪我を負いながらも大鬼を倒すことが出来たようで、

助けに入ったパーティーも、残りメンバーで無事に倒し切ったようだ。


そして、倒された大鬼3体の亡骸は、商人が全て買い取るようで、後から精算するそうだ。



そこから、三日後......。


商隊は無事に、首都ライプリッヒへと到着した。

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