第34話 猪哀れ、鍋の素

村に到着したその日は、被害に合っている畑とその周辺の状況を把握する作業で

日が暮れてしまった。


宿泊をどうしようかと、村長さんに相談したところ、役場の奥に簡易宿泊所が備え付けて有るので、そこを利用してくれれば良いとの返事を貰った。


秋も深まってきて、寒さも増して来たので、非常に助かった。

外にテントを張って、中で寝るのには辛い季節になったからね。



翌朝......。


身支度を整えると朝霧の中、一人で畑の方へと向かった。

昨日、見付けていた大猪の足跡を追跡する為だ。


大猪の行動パターンは、夜中に食べ物を物色して日中は寝ているのが定番らしい。

そこで、足跡を追跡して大猪の巣穴を探す事にしたのだ。


しかし、昨夜も作物を物色しにやって来たのか、新しい足跡が出来ていた。

俺は早速、その新しく出来た足跡の方を選択して、林の奥の方へと足を進めた。


林の入口付近から30分ほど山に分け入った所で、小高い崖に進路を塞がれてしまった。 それでも、取敢えず周りの状況を確認していく。

すると、断層になっている場所があり、その一画に穴の開いた場所を確認する事が出来た。


風下からその穴の方へ、足音を立てないように近づいていく。

そして、途中からは崖の壁沿いを慎重に歩きながら、入口まで近づくと穴の中の様子を伺った。


“うっ、臭い”


余りにも強烈な獣臭に、その場で卒倒しそうになった。


“消臭剤が欲しい”


無いものねだりはできないので、魔法で清浄な空気の膜を作り身に纏わせる。

何とか匂い対策が出来た所で、大猪が寝ているであろう穴の中へと踏み込んだ。


ついでと言ってはなんだが、魔法で暗視と気配隠蔽も掛けておいた。


静かにゆっくりと穴を奥へと進んで行くと、急に広間のような空間が出現した。


暗視で広間を確認すると、確かに大猪が番で一番奥の壁際で寄り添うように

寝ていた。


“さて、どうやって駆除するのが良いだろう”


二匹を同時に相手にするのは流石にしんどい。

出来ないわけでは無いが、怪我を負うリスクの方が高いのが難点だ。


“さて、どうしよう”


確か獣除けの、煙玉の買い置きを持っていたはず。

視界を邪魔できれば、何とかなるだろう。


広間の大きさに合わせて、アイテムポーチから煙玉を4個取り出すと、広間の中央へと放り投げ、拳大のファイヤーボールで着火した。


広間に充満する獣除けの煙と匂い......。


大猪の番はまずその匂いに目を覚まし広間の中を暴れ回る。

そして、白煙で視界が塞がれている為に、何度も壁にぶつかっているようだった。


15分後、獣除けの効果が切れると、あちらこちら傷だらけでよろよろ歩いている番の姿を確認した。


そんな、満身創痍の大猪の番に近づくと、ロングソードを一閃してその首を撥ねた。


やり方としては、少し引くところではあるが、怪我をしないのが一番大事な事なので、そこは許してほしい。


********


駆除に成功した大猪の亡骸は、村人達に頼んで運んで貰い。


その日の夕食は、村をあげての獅子鍋大会となり、夜遅くまで盛り上がっていた。

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