第10話 真夏の夜は眠れない
ギルドでの話し合いから、早くも五日が過ぎようとしていた。
だが、まだまだ取り締まる為の準備が整わないようで、日中の俺は近場の依頼を受けることに留めて、夕方からは緊急招集が出た時に対応出来る様に宿の部屋で待機状態となっていた。
そして、俺はいま深夜の宿の部屋の中で、一人......真夏の蒸し暑さと闘っていた。
日中の暑さでこの宿の冷却の魔道具が機能停止してしまい、各部屋とも蒸し風呂状態となっているのだ。
窓を開放しても、今夜は風さえも吹いていない。 “地獄だ”
寒ければ服を着込めばいいが、暑さでは服を脱ぐにも限界がある。
裸でうろついて、みんなからの変質者扱いには、まだされたくはないからな。
そんな事を心の中で、一人葛藤していると......。
風通しの為の開けておいた窓、そこからみえている通りから脇に入る小道に、何やら大きめの袋のような物を担いだ二人組が消えて行くのが視界に映った。
俺は急いで身支度を整えると、開いた窓から通りへと飛び降りた。
気配を消すための魔法を自分に掛ける。
そして、脚を魔法で強化すると二人組の後を追った。
小道に入ると、街灯の魔道具も付いていないので真っ暗の中を進む事になるのだが......。 二人組は暗視のスキルでもあるのか歩くスピードを落とさずに進んで行く、俺も目に魔力を纏わせてその後を付かず離れず一定の距離を保ちながら追いかけて行く。
意外に長い小道を進んだ先は行き止まりになっていて、何か空間が揺らいだのを感じた瞬間の一瞬の内に二人組の姿が小道から消えてしまった。
このまま二人組が消えた所まで進んでしまうと、追跡していたのがバレてしまう恐れがあるので、俺は一旦引き下がる事にした。
但し、この場所に追跡の為のマーカーだけは残して置いた。
翌朝......。
結局、蒸し暑さの為にぐっすりと眠れなかった俺は、宿の食堂で朝食を済ますと
冒険者ギルドへと急いで向かった。 昨夜の事を報告する為であり、決して早く
涼みたい訳ではない......多分⁉
ギルドに到着すると受付へと向かい、ギルド長のラッセルさんと話が出来るか聞く事にした。
ギルドカードを取り出して、受付嬢へと見せながら問いかけた。
「ジョンと言いますが、ギルド長のラッセルさんとお話がしたいんですが」
「あら、ジョンさん。 こんにちは。 大丈夫よ、ついてきて」
俺が声を掛けた受付に座っていたのは、エレーナさんだった。
タイミングが良すぎない......?
疑問は残るが、素直にエレーナさんの後について行く。
“コン、コン”
「エレーナです。 ジョンさんがいらっしゃいました」
“大丈夫じゃ、入ってくれ” と、扉の向こうからギルド長の返答が聞こえて来る。
入室の許可を貰ったので、エレーナさんが扉を開けて中に入って行く、俺もその後に続いて入室した。
「そこのソファに腰掛けてくれ、エレーナ君お茶を頼む」
「はい」
エレーナさんがテーブルにお茶を用意すると、ギルド長が問いかけて来た。
「ジョン君、何かあったのかな」
「実は昨夜なんですが......」
俺は昨夜の出来事を、自分で見たまま感じたままの事をギルド長へと説明した。
「そうか、その小道が怪しいのじゃな」
「はい。 それで、ギルド長に報告してからと思いまして」
「うむ、助かったのじゃ。 実は昨日の夜、ある貴族の子息が誘拐されたようなのじゃ。 多分、そいつらじゃろう」
「どうしますか?」
「午後にも緊急の会議を開いて、対応を決めようかの。
ジョン君、済まんが午後1時にもう一度ギルドまで来てくれ。 よろしくな」
ギルド長との話の後、俺は一旦宿に戻ろうと思ったが、冷却の魔道具が壊れていることを思い出し、ギルドの酒場で時間を潰す事にした。
その時間、何故かエレーナさんも俺の隣の席に座って紅茶を飲みながら本を読んでいた。 ?????
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