第3話 18歳の夏、旅立ちの時 2

薬師ギルドより指定されていた一週間をフルに活用して、採集の仕事を無事に終わらせる事が出来た俺は、いよいよ旅立ちの為の準備を進めていた。


「父上。 今迄ありがとうございました」

「何を今更、畏まっているんだ。 旅を終えたら帰って来るんだろう」

「ですが、旅の途中で倒れてしまうかもしれません。 無事に帰って来ることは目標では有りますが、もしもと言う時もあるかも知れませんから」

「まぁ、そうだな。 だが儂は、お前が逞しく成長した姿で帰って来るのを待っているぞ」

「はい、父上。 期待に沿えるように頑張ります」


屋敷に居る家族と使用人たちに挨拶を終えた二日後......

ついに俺は、旅へと出発した。


********


俺はいま王都に向かう駅馬車ではなく、辺境伯爵領が隣接しているメルセーデス公国に向かう駅馬車に乗車している。

そして、のんびりと車窓から外の景色を堪能していた。

この年齢になるまで他国に行くことが無かったので、ウキウキと心は弾んでいた。

まぁ、王都に向かってララに会ってしまうのを避けたかったというのもある。

そして、顔見知りの貴族に何を言われるか、分かっていたのもある。


「お兄さん、お兄さん」

「はい、何でしょうか?」


向かいの座席に座っている商人風の女性が手招きをするような仕草で、小声で話掛けて来た。


「お兄さんは、冒険者かい?」

「えぇ、一応そうですけれど......」


俺が、そう答えると。

その女性は座席から少し腰を浮かせると、俺の右の耳元に口元を寄せて小さな声で呟いて来た。


「護衛の冒険者には気を付けなよ」


俺は、その言葉に一瞬目を見開いたが、冷静に小さく頷いて返事を返した。

何やら不穏な事が起きそうな状況のようだ。


そしてそれは、街道沿いの木々が途切れて、草原に差し掛かる間際でついに起こってしまったのだった。


“取り囲め”


駅馬車の外、幾分離れた場所から男のダミ声が響き渡る。

その声を合図に、護衛の冒険者の中からも離反する者が3名ほどいた。


御者が駅馬車を急停止させる。

馬車の中では、その反動で幾人かが床に転がったり、荷物が通路に散乱したりしていた。


“ひゃっ、はぁ~”

“さぁ、狩りの始まりだ~”


待ち伏せていた盗賊達が、奇声を上げながら駅馬車を取り囲み始めた。

残った護衛の冒険者と盗賊の睨み合いが始まる。


盗賊側は離反した冒険者を含めると30人ほど。

こちらは、残っている護衛の冒険者が5名という状況になっている。


「お兄さんは出ないのかい」

「いま出て行くよりも、戦闘が始まってからの方が立ち廻りしやすいですから、少しの間周りの戦闘力を把握して様子を見てから行動します」


「こういう状況でも案外冷静なんだね」

「そういう訓練もしっかりと積んできましたから」


「なるほど、納得だね」


それから10分ほどして、ついに盗賊と護衛の冒険者達との戦闘の火ぶたが切って落とされた。

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