四年に一度の女神様

四年に一度と言われて、思い出すものは何だろうか?

 オリンピックやサッカーワールドカップ。はたまた、去年日本を大熱狂させたラグビーワールドカップを思い起こす人も多いと思う。


 そして今日は二月二十九日。四年に一度のうるう年の日。

 今日で二十歳になる僕大輝だいきは、人生で五度目のうるう年を迎えた。


 正確に言えば、うるう年は100で割り切れる年はうるう年ではなく、平年の365日であるなど、例外的なものはあるが、一般的にはうるう年というものは四年に一度来るものだと、世間的には考えられているだろう。


 僕は四年間、この日を待ちわびていた。



 ◇



 あれは、八年前の二月二十九日。僕が十二歳の誕生日を迎えたある日の夜の事。

 その日は、両親が生憎の出張で、家には誰もおらず、俺は一人で誕生日を祝う代わりに、近くの河原で一人ぼおっと水面を眺めていた。


 すると、月明かりに照らされて、突如として僕の隣に一人の少女が現れた。


 銀色の真っ直ぐとした髪が、月明かりに照らされて輝いており、真っ白なワンピースを身に纏い、真っ白で純白な肌は、冬の寒さを象徴しているかのような美しさと儚さが覗える。


 突然隣に現れた美少女に、僕は慄いたが、思い切って声を掛けてみた。


「あのぉ……あなたは?」


 冬の寒い風に銀色の髪が靡いて、彼女は髪を耳に掻き分けながら、ちらっとこちらを向いた。

 青い瞳は純朴で美しく、僕の身体の奥まで見透かされているような感じさえ受け取れる。


 そんな彼女に僕が見とれていると、きょとんと首を傾げた彼女が声を上げた。


「こんばんは大輝。あなたの誕生日を祝いに来ました」

「……へっ?」


 唐突に『誕生日を祝いに来た』と言われ、とにこっと優しい微笑みを浮かべる彼女に僕は混乱した。僕は彼女のことを全く見たこともないし、彼女がどうして僕の名前を知っているのかすら分からなかった。


「あの……あなたはどうして僕の名前を知ってるんですか?」


 僕が恐る恐る尋ねると、彼女はにこっと微笑みながら天空を見上げた。


「私は、貴方のことをずっと、大空から見てましたから」

「へっ? 空から!?」


 僕は彼女が指さす空を見上げる。雲一つない夜空に浮かぶ星々の中で、彼女が指さしていたのは月だった。


「これを受け取って、大輝」


 そう言って、彼女は手を差し出してくるが、見たところ何も持っていない。

 僕はそっと手を出して彼女の手の下に置くと、突然猛烈な光が彼女の手と僕の手の間に浮かび上がり、あまりの眩しさに目を開けていることが出来ない。


 ようやく光の波動が消えたところで、僕の手には、何やら冷たい感触が……。


 瞼を開いて、手元を見ると、そこにはキラキラと輝く黄金のブレスレットが乗っていた。


「これは……?」


 顔を上げて彼女に尋ねると、彼女は一言だけ口にした。


「それを持って、また四年後。ここへ来てください。その時に、またお会いしましょう」


 彼女はそう言い残して、いきなり地面に現れた光の紋章に吸い込まれていくように、姿を消してしまった。


 僕は一人冬の風が吹きつける河原に佇み、目の前で起こった幻のような出来事に、呆然と立ち尽くすことしな出来ない。

 ただ、僕の手にはしっかりと先ほどの彼女からもらった光り輝くブレスレットが、月明かりに照らされるように光り輝いていた。



 ◇



 四年後の十六歳の時も、僕は河原で彼女と再会した。そして、彼女は今度は金色に輝くネックレスをプレゼントしてくれた。

 そしてまたすぐに、彼女は光に包まれてどこかへ消えて行ってしまった。


 ◇



 また四年後、迎えた二月二十九日。

 二十歳になった僕は再び、あの河原へと足を運んでいた。

 手にはもちろん、四年前不思議な女神のような彼女からもらったブレスレットとネックレスを手の中に握りしめて……。


 しばらく川辺を眺めていると、周りの草木が風に揺られてザワザワっと波打った。

 そのさざめきが消えると、ふっと光り輝くような気配を感じて、僕は振り返る。


 そこには、四年前と変わらぬ、白いワンピースに身を包んだ。銀色の髪を揺らした美少女が目の前に現れた。

 彼女は口元をほころばせて、ニコッと微笑んだ。


「お誕生日おめでとう。大輝」


 四年に一度の僕と彼女の不思議な誕生日会。

 これは僕だけしか知らない、四年に一度だけの、とっておきの秘密の祭典だ。

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