紙とペンとセキセイインコ

 昼食を食べ終え、鳥籠の扉を開けると、勢いよく羽ばたいて一羽のセキセイインコが出てきた。

 

 そのセキセイインコはグルっと部屋の中を一周して俺の肩へちょこんと着地した。


 クリっとした可愛らしい目に、青と白の混ざった羽に黒い斑点が催されたそのインコの名前は「マリ」。メスのセキセイインコである。


 しかし、メスとは思えない凶暴な威嚇と、食欲旺盛なことから最初の頃は、オスと間違えられていたので、親父からは「マリくん!」と呼ばれている。

 その呼び名が定着してしまい、俺も呼ぶ際は「マリ男!」と呼んでしまっているので本当につけた名前で呼ばれることは少ない、少しかわいそうな奴だ。


 俺はマリを鳥籠から出して、やることもないので、いつものように原稿を書くため、原稿用紙とシャーペンを用意して仕事に取り掛かった。


 俺がスラスラと原稿を書きはじめると、スタスタと腕をつたって、マリが机に降りてきた。

 マリはピョンと腕から飛び降りて、机に降り立ち、俺が書いている原稿用紙を首をかしげながら見つめていた。

 

 すると、原稿用紙の上にチョコンと乗ってきたかと思うと、スタスタと小走りして、今度は手に持っているシャーペンに矛先を向ける。

 

 マリは口を大きく上げ、


「キッキ…キキ…」


 と威嚇をしていた。


 俺が原稿に文字を書くたびにシャーペンが動くのがどうやら嫌なようだ。


 マリは威嚇を何度か繰り返したあと、思い切ってペンを持っている俺の指をつついて攻撃をしてきた。


 一瞬チクンと指に痛みが走り、ピクっとペンが震え、文字が枠からはみ出した。


 俺は、ため息をついてマリを睨みつける。


 マリは、『??』と言ったような表情で、あっけからんとしていた。


 シャーペンを机の上に置き、消しゴムを取りだして、はみ出してしまった箇所を消した。

 

 消しゴムを机の上に投げて置き、再びシャーペンを手に持ち、達筆を続ける。


 すると、今度は原稿用紙の端のようにマリはチョコチョコと歩いていき、原稿用紙と机の木の面との境目でターンをした。


 そして、じぃっと下を見つめながら何かを考える仕草を見せたかと思うと、一気に頭を上げて原稿用紙の端の部分を口ばしで掴んで引っ張った。力強くぴっぱられたため、原稿用紙がスっと動いた。


 そして、また原稿用紙のマス目から書いていた文字がずれた。

 俺は再びシャーペンを机にコロンと置いてマリを睨みつけた。


 マリは、『何??』と言った表情で俺を見つめていた。


 俺は怒りを抑えて再び机に放り投げた消しゴムへ手を伸ばした。消しゴムを手に取ってマス目からはみ出た文字を再び消す。

 

 すると、消している最中にガリっという音が聞こえる。


 慌ててマリの方を見ると、今度は原稿用紙の端を口ばしでかじって破いていた。

 むしゃむしゃとかじり切った切れ端を口で加えている。


「こら、マリ男くんダメ!」


 俺は透かさずマリを捕まえにかかる。


 しかし、ペっと切れ端を吐き捨てたマリは、俺の手に気が付いてヒュっと飛び立ち、俺の手は空を切る。

 飛び立ったマリは何事もなかったかのように俺の肩へとチョコンと再び着地した。


「…」


 俺が黙って顔をマリへ向け、じぃっと睨みつける。

 

 マリは首をキョトンと傾げたまま、全く悪気のない表情を見せていたのであった。



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