目覚めた時の奇跡の一枚

俺はふと目を開けると、そこには彼女が菜の花畑に立っていた。

 彼女は俺の方を振り返りニコっと微笑んだ。

 白のワンピースを着こなし、麦わら帽子を被った彼女は、裸足で菜の花畑に囲まれており、とても絵になる立ち姿であった。

 俺はその姿を写真に収めようと、カメラを構えた。

 しかし、俺がカメラを構えた途端、強風が一気に吹き荒れた。菜の花は一瞬にして吹き飛ばされ、辺り一面が真っ暗になった。



 俺が再び目を開けると、今度は水族館でイルカが泳いでいる水槽を眺めながら楽しそうにはしゃいでいる彼女がいた。

 彼女は「見て見て!」と声を上げ手招きをしていた。

 すると、彼女の前に一匹のイルカがやってきた。

 イルカは彼女の前までやってきて、まるで彼女を待っていたかのように穏やかな表情を浮かべていた。

 それを見た彼女は、イルカの方へ手を伸ばした。

 ガラス越しのため、イルカに触れることは出来ないものの、彼女の伸びた白くて細い綺麗な手は、水槽の中へと吸い込まれていくような幻想的な姿であった。

 俺は、再びその情景をカメラに収めようと、構えた。

 すると、イルカが泳いでいるはずの水槽にバキバキっという音と共に亀裂が入った。

 その亀裂は、見る見るうちに大きくなり、最後はバリンっという大きなガラスの割れる音と共に水しぶきが彼女もろとも飲みこんだ。

 そして、俺はその濁流にのまれ、再び暗闇の中へと吸い込まれた。


 濁流から逃れ、なんとか食いしばり、目を開けると、そこは東京スカイツリーの展望台であった。

 雲一つない晴天の空の向こう側には、富士山などの山々が見え、下を眺めれば、おもちゃのように小さい地上の建物が所狭しと一面を覆っていた。

 そんな情景を、彼女はもの珍しそうに目を輝かせて眺めていた。

 彼女は再び俺を手招きして呼んでいた。


 俺は彼女の姿を今度は逃さまいと一気にシャッターを構えた。

 しかし、無情にも次はあったはずの展望台の床がスっとなくなり、重力の赴くままに地上へと落下していく。

 展望台にいた人々は、いつの間にか姿を消し、俺と彼女だけが地上に落下していった。

 俺は考える暇もなく、ものすごいスピードで地面が近づいていき、叩きつけられる寸前で目を閉じた。



 ※※※



 痛みなどは全くなかった。

 俺は食い縛っていた歯を緩め、再び目を開けた。

 目を開けると、いつもの天井が目に写った。

 どうやら椅子に座りながらうたた寝をしてしまっていたようだった。

 すると、カッカッカッというリズミカルな音が部屋に響き渡っていた。

 俺は顔を下げると、そこには手際よく包丁で野菜を切っているエプロン姿の彼女がキッチンに立っていた。

 

 俺は首から何かを下げていることに気がついた。首もとに掛かっているゴム紐を下に辿っていくと、紐の先には、俺が愛用しているカメラがぶら下がっていた。

 俺はそのカメラを両手で掴んだ。

 そして、料理をしている彼女の方へレンズを向けて構える。


「おーい」

 と俺は彼女を呼んだ。


「何?」


 と振り返った瞬間、俺は彼女の姿をカメラのシャッターをパシャリと切り撮影した。

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