番外編 ハロウィンでも同居先生はやはりポンコツだ

 このお話は、限定公開1話完結のハロウィン特別編です。


 さて、今回は穂波さん特別編と題して、恭太と穂波のハロウィンでの日常を書いてみました。もちろん他のメンバーも登場しますよ?(多分……)


 このお話は、本編の内容と直接的には一切関連はありません。お気軽にポンコツな穂波さんをお楽しみください。



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 ハロウィン……元々は古代民族が行っていた、悪霊を追い払う儀式だったそうだが、今はその名残は跡形もなく消え失せ。現代の日本では、仮装をしてお菓子を貰うために楽しむイベントのようなものへと変貌を遂げてしまっている。


 いまやハロウィンも、クリスマスへ迫る勢いで知名度が急上昇し、各都市でハロウィンイベントや仮装イベントなどが行われていたりする。


 中には、学校行事として取り入れられているところもあるそうだ。


 その影響が、波及したのかは知らないが、俺が通う県立下野谷高校でも、『今日は祭典だ!』っとかこつけて、ハロウィンの仮装をワンポイント施してきていたり。『この機会を逃すな!』と言わんばかりに、お菓子を持ち込んできていたりと、ハロウィンを各々が楽しんでいるようだ。


 俺のクラス、2年3組の教室も例外ではなく、女子たちがパンプキンのお菓子を買ってきたり、自分でかぼちゃ味のクッキーを作ってきたりと、わいわいがやがやと朝から騒がしかった。


 だが、そのどこか浮ついた雰囲気も、朝のSHRを知らせるチャイムが鳴ると一斉に鳴りを潜める。


 その元凶ともいえる、いつもと変わらない凛々しい佇まいで、紺色のスーツを身にまとい教室に入ってくる、俺の担任教師で、ひょんなことから絶賛訳あり同居中の菅沢穂波先生は、鋭い眼光を飛ばしながら、俺たちを見渡した。


「起立!」


 日直が、お決まりとなった軍隊のようなフレーズを口にして、全員が一斉にピシっと立ちあがる。


「礼!」


 日直の合図とともに、全員が角度30度。1・・・2・・・3・・・っと礼儀正しくお辞儀を交わす。


「着席!」


 そして、出来るだけ椅子の引く音を立てずに素早く座り、姿勢を正す。

 穂波先生は、全員の視線が自分に向いたことを確認すると、ようやく重い口を開く。


「おはようございます。今日は、10月最終日です。来週から文化祭の準備などで、イレギュラーな時間割の日が続いていきますので、遅刻などが無いよう気を付けてください。そ・れ・と、今日がハロウィンだからといって、くれぐれも浮つかないように」



 そう言われて、ギクっと自覚のある者たちの身体がビクっと跳ねた。

 穂波さんは、その反応をした者たちを一通り見渡す。


 クラスの誰もが、『うわぁ~ さすが、鬼の穂波、容赦ねぇ』っと思っていることだろう。

 そりゃそうだろう。もし他の先生なら、『トリック・オア・トリート!!』とか適当に言って、強引にお菓子を手渡して押し切ってしまえば、なんとか鵜呑みにすることが出来るだろうし。

 穂波違いで、保健の先生である保奈美先生なんて、『うわぁ~美味しそう! ありがとう~』って言いながら、あざとくそのお菓子を受け取っている姿が容易に想像できる。


 だが、皆が思っているほど菅沢穂波という人物は単純でないことを、俺は知っている。


 この人……本当はみんなが机の下に隠しているお菓子を、本当は貰って食べたいんだろうなぁ……。

 おそらく眺めているのも、そのお菓子を見定めているのだろう。


 あれ? むしろ、その方が単純なのでは?? 


 そんなことを俺が考えているうちに、穂波さんは一通り見終えたのか、一度せき込んでから鋭い声を出した。


「以上、日直」

「気を付け、礼!」


 日直の合図と共に、生徒が一斉に頭を下げる。だが、俺は考え事をしていたせいか、一瞬反応が遅れてしまった。

 しまった! っと思いながら穂波先生を見ると、視線がぶつかった。


 穂波先生は、俺以外の生徒が頭を下げているのをいいことに、破顔してニコっと頬笑みを浮かべて、キランっと効果音が鳴るのではないかというくらいのウインクを俺に向けてきた。


 あぁ……分かりましたよ。ちゃんと貰っておきますよお菓子。


 最近はアイコンタクト一つで、先生が何を要求しているのかが分かるようになってきていた。もしも、菅沢穂波検定試験があったら、間違いなく2級くらいは取れる自信がある。


 俺はそのアイコンタクトに答えるように、コクリと小さく頷いた。

 それを見て安心したのか、穂波先生はいつものキリっとした表情へと戻り、教室を出て行った。


 足音が遠くなり、教室の空気が一気に弛緩する。


「ふぅ~……危なかったねぇ。没収とかされなくてよかったぁ~」


 お菓子などを持ち込んでいたクラスメイト達が、安堵のため息を漏らしていると、俺の元へ一人の少女が駆け寄ってきた。


「おはよ恭太! トリックオアトリート――――!」


 そう元気よく挨拶してきたのは、幼馴染でクラスメイトの京町瑠香きょうまちるかだ。いつもより浮かれているのか、より一層鬱陶しい。

 瑠香は俺に両手を差し出して、何かを期待するように、ニコニコと羨望の眼差しを向けてきていた。


「と、トリック・オア・トリート……」


 俺が苦笑いを浮かべながら挨拶を返すと、瑠香ははぁ?っというような表情を返してくる。


「違うでしょ。トリック・オア・トリートだよ恭太? いたずらされたくないならお菓子をちょうだい! っだよ。バカなの?」

「それくらいの意味は分かっとるわい。生憎だが、俺はおまえの分のお菓子を持ってきてない」


 本当は持っているが、瑠香絶対に何も持ってきてないしな……対等な対価が無ければ、俺はやらん。


「えぇ!? じゃあ仕方ないなぁ……そんな意地悪な恭太には、い・た・ず・ら、しちゃうぞ?♪」


 人差し指を立てながら、可愛らしく言ってくる瑠香。

 なんか、嫌な予感がする。


 そんな空気を察したのか察してないのか知らないが、クラスメイトの市場大和が俺たちの元へ声を掛けてきた。


「おっす、恭太! トリック・オア・トリート」

「お前もかよ大和。トリック・オア・トリート。ほらよ」


 呆れながらも、俺は机の中から飴玉を一つ取り出して大和に手渡した。大和も代わりに、キャンディーを一つ俺に渡してくる。って、同じじゃねーか。


「って、飴持って来てんじゃん恭太! なんで私にだけくれないの?! はっ……もしかして、私のいたずらご要望だったとか!?」

「ちげーよ……ちょっとからかってただけだ。ほらよ」


 俺はあしらうように、瑠香に飴玉を一つ手渡した。


「ちぇーつまんないの。ま、いいや、ありがとさん!」


 飴を貰って満足したのか、瑠香は次のお菓子を貰いにどこかへと向かっていってしまった。

 ってかアイツ、貰う気しかないな??



 ◇



 家に帰ると、案の定思っていた通り、ポンコツ穂波さんが開口一番に元気よく挨拶をしてきた。


「トリック・オア・トリート!! お菓子をくれないと殺しちゃうぞ~!!」

「殺されちゃったら洒落になんないっす……」

「ま、まあそんなことはどうでもよくて! 仕事で疲れ切った私の身体に今必要なのは糖分! そう! お菓子なのよ!」

「お菓子ばかり食べてたら太りますよ」 

「むぅ……そうやって減らず口を叩く~。 くれないとお仕置きするぞ?」

「はいはい、わかりましたから」


 俺は調理の手を一度止めて、リビングに置いてあったスクールバッグの元へと向かい、中からもらった大量のお菓子を取り出して、リビングのテーブルの上に置いた。


「うわぁ~美味しそう! ありがとう恭太!」

「まあ、俺だけじゃ食べきれない量だったんで」

「またまた~ホントは私のために貰って来てくれたくせに」

「そ……そんなことないですよ?」


 本当だよ? いつもほとんど話さないクラスの子に『トリック・オア・トリートー』って言いながら特攻して、『はっ?』とか冷たい視線食らったりとかしてないんだからね?



 ◇



 晩飯も軽めに済ませた後、穂波さんは、ベッドの上でくつろぎながら、俺が貰ってきたお菓子を美味しそうに食べている。


「んん~美味しい……!」


 頬に手を当てながら幸せそうな表情を浮かべている穂波さん。そんな表情を見ると、貰ってきた甲斐があったと常々思う。


「あっ……! そうだ!」


 すると、何かを思い出したように穂波さんがベッドから起き上がって、仕事用の鞄を持ち上げた。


「恭太がせっかくお菓子をたくさん貰って来てくれたんだから、お礼しないとね。ちょっと待ってて!」


 そう言いながら、お風呂場の方へと向かっていってしまう穂波さん。

 なんだろうとしばらく首を傾げて待っていると、穂波さんが戻ってきた。


「じゃじゃーん!」

「なっ……」


 俺は絶句した・驚愕した。というよりも見とれてしまった・見惚れてしまったという方が正しいのかもしれない。


 穂波さんは、黒のワンピース状のナース服コスプレをして出てきた。頭に十字の入った帽子をかぶり、手には大きな注射器を持っている。そして、サイズが合っていないのか、穂波さんの身体のラインがはっきりと分かるほどに強調されており、胸元が大胆に開かれたコスチュームは、大きなふよよんと柔らかそうな胸の谷間がくっきりと見えており……というか、クロスしている紐が今にもはち切れそうなくらいピンと張っている。太ももも、付け根ギリギリまで露出しており、少しでも動いたらパンツが見えてしまいそうだ。


「どうかしら?」

「どうかしらって……」


 それは、エロイの一言に尽きるけども……


 なんて返せばいいのか返答に困っていると、ふふっと艶めかしい視線を向けながら穂波さんがこちらへ近づいてくる。

 だが、その格好で近づかれるのはまずいので、俺は手で制止する。


「ちょっと待って! ストップ!」

「えぇ~どうして?」


 不満そうな表情を浮かべながら、むぅっと唸る穂波さん。


「色々と聞きたいんですが、その衣装はどうしたんですか?」

「えっ? これは栄っちに貰ったものよ。週末ハロウィンイベントにこの衣装着て参加したんだけど、全然男が群がってこなかったから、波ちゃんにあげるって」


 あの人の仕業だったのか……

 ってか、あの人のサイズじゃ、穂波さんに合うわけがないだろうが……

 しかもなんでそれを穂波さんは着ちゃうわけ? バカなの? ポンコツなの? いやっ、この人元々ポンコツだったわ。


「どうかしら? 私似合ってるかしら?」


 そんなことを俺が頭の中で考えていると、穂波さんは気を取り直すようにして、上目づかいで尋ねてくる。

 そんな穂波さんの姿に、俺はもちろん視線が釘付けになってしまう。

 すると、ふふっとまたもや穂波さんが挑発的は微笑みを浮かべる。


「何も言わずにじぃっと熱い視線を送ってくるってことは、言葉も出ないくらいに興奮してるって事かしら?」

「いやっ……それは、そのぉ……」


 俺が視線を泳がせていると、じわりじわりと穂波さんは俺に一歩、また一歩と近づいてくる。


「いいわよ。これはお礼だもの、恭太が見たいところ、満足するまで見ていいのよ? なんなら、触っても……」


 そう言いながら、胸を強調するように前に出してきた。


 その時だった、ブチッという音と共に、胸元の紐が切れた。そして、シュルルっとその胸元が大胆に開かれて、穂波さんのその暴力的なまでの胸が大胆にも御開帳!って……


「きゃあぁぁぁぁ!!」

「うわぁぁぁ!!」


 お互いに叫び声をあげて、俺は咄嗟に視線を逸らす。

 見てないぞ、俺は穂波さんの頂点のピンク色の部分なんて、はっきりと見てないぞ??

 穂波さんは、自分の胸を手で覆い隠しながら、俺を睨みつける。


「み、見た?」

「み、見てないですよ……」


 俺がそう言うと、穂波さんはすっと目を細めて、じとぉっとした視線を送ってくる。


「な、なんですか……?」

「鼻血、出てるわよ」


 俺は手で鼻の下を拭うと、べっとりと血が手に付着した。


「やっぱり見たんじゃない! エッチぃ!」

「ご、誤解です!!!」


 こうして、俺とポンコツ穂波さんのハロウィンは、嬉しいハプニングがありながらも、いつも通りのポンコツっぷりで過ぎていった。

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