2番目のストライカーが真のエースになった日
俺、
全国高校サッカー選手権大会県大会決勝戦。今日勝てば全国高校サッカー選手権兼本大会への出場が決定する重要な試合。
会場は地元のプロチームが使用しているサッカー専用のスタジアム。スタジアムには、満員とまではいかないものの、多くのお客さんが足を運んでいた。
そんな中、第二高校のエース
一年前は、俺があの舞台でエースとして輝いていた。しかし、その日は突然訪れた。
何者入りで入って来た新一年生の浜澤に、俺はポジションを奪われてた。それ以降、俺はベンチを温める日々が続き、注目されていたスカウトからも目を見離されてしまった。
そして3年生で迎えた最後の大会。負けた時点で高校でのサッカー生活が終了する。
試合は一進一退の攻防を見せていたが、後半中盤、相手がパスカットからゴール前にロングボールを供給した。これが味方の頭にドンピシャに合い、ボールはゴールネットに吸い込まれ先制される。
時間は後半35分、このままいけば敗退が決まってしまう。
その時だった…
「間島!」
監督に大きな声で呼ばれ、ウォーミングアップをしていた俺はすぐにベンチへ向かう。
ジャージを脱ぎ捨て、監督の指示を聞く。
やっと出番が回ってきた。ピッチの端にスタンバイして交代を待った。
後半38分、試合時間残り2分というところで、ディフェンダーの選手と交代し、俺はピッチに送りだされた。
俺はこの時、研ぎ澄まされた集中力でボールとゴール以外の物はすべて目に入っていなかった。
投入された直後、こちらのコーナーキックからプレーが再開される。
見方の選手がボールをゴール前へと送る。
ボールは見事な軌道を描きながら俺の元へと飛んで来た。俺は相手のディフェンダーの上からジャンプしてボールの芯をしっかりととらえるようにヘディングシュートを放った。
ボールは一直線にゴールへ向かったいった。
「決まった」
心の中でそう思った。
ガン!
しかし、無情にもボールはゴールポストにはじかれる。
俺は倒れ込みながらボールの軌道を追った。
すると、ボールに走りこんでくる影が1人、浜澤だった。
浜澤は跳ね返ったボールにいち早く反応して、ダイレクトでシュートを振り抜いた。
ボールがゴールネットを揺らして同点に追いついた。
「よっしゃぁぁ!!!」
チームメイト達が浜澤と抱き合いながら喜んでいる。
俺はその姿をよそ目に、ゴールに入ったボールをすぐさま立ち上がって回収して、センターサークルへと持っていった。
まだ、同点。このままでは、試合は終わらない。
俺は無言でボールを持ちながらセンターサークルまで走りボールをセットして自陣に戻った。
浜澤達全員が自陣に戻り、試合が開始される、時間は後半40分を回った。
アディショナルタイムは2分の表示。
相手チームは同点にされた焦りからか、単純なミスを連発し、簡単にボールを奪い去る。
奪った選手が浜澤へパスを送った。
俺は相手選手の裏を取った。
「パス!」
浜澤にパスを要求する。
浜澤は俺の姿を確認して、ボールへと目を向けた。キックモーションをしてパスを出そうかというところで、浜澤はパスの選択をやめ、ドリブルを開始した。
クソ!なんでパスを出さねぇんだ!
俺はピッチの上で怒りをあらわにした。
あいつはいつもそうだ、そうやって人をあざ笑うかのように一人で何でもやってしまうんだ。
思った通り、浜澤はドリブルで1人、2人と抜き去りゴール前へと向かっていく。
ゴール前で待ち構えていたディフェンス3人も全員が浜澤の突破を阻止しようと、近づいていく。
浜澤は、その3人も華麗にいなすかのように、柔らかいタッチで交わしていく。
最後の3人目がスライディングで浜澤の体ごと削りにかかった。
しかし、それを待っていたかのようにボールを浮かせ、スライディングを交わすようにジャンプして避ける。
全員が抜かれ、慌てて飛び出してきたゴールキーパーも浜澤は冷静にシュートフェイントを一つ入れて交わした。
誰もいない無人のゴールにあとは流し込むだけ。あぁ、やっぱりアイツがうちのエースだ…そう確信して浜澤の実力に舌を巻いて、ゴール前へ走りこむのを諦めかけた時だった…
ポンっと浜澤は横へ優しいパスを出した。そのボールは俺の方へと向かってきた。
思わず俺は浜澤の方を見る。
浜澤はクールな表情ながらも、口角を上げ、確信のようなニコっとした笑みを浮かべていた。
俺はそれを見て、フっと苦笑いを浮かべる。
本当にこいつは…やっぱりうちのエースだぜ。
俺は転がってきたゴールを思いっきりゴールネットへと蹴りこんだのであった。
結局試合はこのゴールが決勝点となり、全国高校サッカー選手権大会本戦へと駒を進めたのであった。
◇
その後、俺は浜澤と共にダブルエースとして再びスタメンの座を勝ち取り、浜澤のお膳立てもあり、この大会で得点ランキング1位タイ記録を打ち立てた。
この活躍が実り、プロチームからのオファーが殺到。俺は高校卒業と共にプロサッカー選手としてのキャリアとスタートさせたのであった。
そして、5年後…
◇
全国天皇杯サッカー選手権大会決勝。俺は、再びあのサッカー専用スタジアムのピッチでスタメンとして試合に出場していた。
スタジアムは満員に覆われ、多くのサポーターが優勝を見ようとスタジアムを埋め尽くしていた。
勝てばタイトル獲得の重要な一戦、試合は拮抗したまま続き。後半アディショナルタイムを迎えた。
ここで、うちのチームはエースの10番の選手と投入した。
その選手は登場するなり、いきなりボールを触ると一気にドリブルを開始した。
相手選手をどんどんと置き去りにして、ゴール前へと向かっていく。
相手ディフェンダー3人が一斉に突破を阻止しようとする。
その10番は、3人を華麗にいなすかのように、柔らかいタッチで交わしていく、3人目のスライディングも待っていたかのようにボールを浮かせ、ジャンプして避ける。
全員が抜かれ、慌てて飛び出してきたゴールキーパも10番の男は、冷静にシュートフェイントを一つ入れて交わした。
誰もいない無人のゴールにあとは流し込むだけ、だが俺はパスが来ると信じてゴール前に全力で走る。
「パス!浜澤!」
俺がそう叫ぶと、浜澤はニヤっとした笑みでポンっと優しいパスを渡してきた。
そうして俺は、またそのボールを思いっきりゴールネットへ蹴り込んだのであった。
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