陽動返し

敵討ちは果たされた。


しかし名無しの権兵衛とは何者だったのか。

月影を暗殺したのは何故なのか。


何となく察しはつく。

江戸に嫌われている。


千里眼で大阪城下を見渡す。


打ちこわし現場に首なしの田吾作。

その自宅前には田吾作の首が落ち、屋内には妻お竹の死体。

身重だったお竹の腹はへこんでいる。

背後から毒殺された月影は赤子を連れてきた。

時系列は繋がる。

今夜の死体は他にはない。


東町奉行所は打ちこわし対応に忙しそうだ。

すでに実行犯達は逃げ切っている。

死者は出そうにない。


打ちこわしの損害にまた私財を充てるのだろうか?

大坂城代の松平は天守から城下を見ている。


大坂城の地下に広大な地下室と何本か抜け道が有る事に気付いた。

すごい仕掛けだと感心する。



きくゑは名無しの権兵衛の死体を放置して神社に帰った。


月影の死体と再び服を交換する。


丁稚自室に戻ると夜明け前だった。

眠気は感じない。

ただひたすら千里眼で怪しい者を捜し続けた。


名無しの権兵衛は死に、月影は死んでいない。

今日から自分が月影なのだから。

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