千里眼の忍

名無しの権兵衛は大坂城下の東町奉行所へ向かっていた。

奉行所には御庭番の遠国御用達が多数存在している。


権兵衛は月影が犬神神社で死んでいる事を報告すれば任務完了だ。

あとは表沙汰に処理される。



きくゑは権兵衛をどこにも向かわせてはならない。


月影が神主だった事が知れたら、

神社に疑いが掛かかる。


直ちに殺さねば。

それは月影の遺志、かぐや姫の命でもある。


きくゑは馬に乗り権兵衛を追った。


通常、馬を使えばパカパカと蹄の音で追跡も逃走もばれる。

しかしきくゑには千里眼がある。


正確に敵の位置が分かるなら、

『足音の聞こえない範囲まで』は馬も使えるのだ。



権兵衛は城下町を徒歩で南下している。

一見してただ歩いている人。


寝静まる夜道で馬が走る音が聞こえてきた。

どんどん自分に近づく気がする、蹄の音に忍びの勘が働いた。


このまま歩いても何も怪しくないのだが、

今夜は打ちこわしのあった夜。

そして明かりも点けずに暗闇を歩いている自分。


権兵衛は無難に身を隠す事を選んでしまった。


良い選択だったが千里眼に対しては無意味。


権兵衛は隠れると言うリアクションを起こした。

きくゑは月夜で見えないぎりぎりまで距離を詰め、

馬から民家の屋根へ飛んだ。


馬より小さい足音で並走する。


馬は暗い月夜で一頭にされ速度が落ちた。

きくゑは馬の尻に小石を投げて安心させ、前進を継続させる。


権兵衛は物陰から馬を凝視している。


馬上には誰が?

しかし誰も乗っていなかった。


権兵衛の上にはきくゑが肩車の様に乗り、

同時に毒クナイを目に刺す。

さらに倒れこむ勢いを利用して首投げを仕掛けた。


捻りながら倒してマウントポジションとなる。

完成された型通りの動き。


権兵衛の口が痛みを発する瞬間を狙い布を押し込むが、

歯を食いしばられた。浅い。


権兵衛が暴れる。

目に刺さった毒クナイを双方が掴んで力がこもる。

こう着状態は権兵衛が奥歯の毒薬を飲み、自殺して終わった。

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