第9話 動揺
七海は、佐藤さんにシャンパンを頂いて、すっかり酔っ払ってしまった。
店が閉店の時間を迎え、佐藤さんもお 会計を済ませた。佐藤さんが、せっかくならと言うことで、なかなか値の張るシャンパンを入れてくれたので、会計の方もなかなかのお値段であった。
佐藤さんは、この辺りでは力のある不動産屋さんらしい。
「この後、どうかな?」と、アフターに誘われたけれど、明日も朝から仕事だという事で断った。
明日、とはいえ日付もすっかり変わって午前1時。もう、すでに今日だ。
昼間仕事があるのは、本当だった。
実際、佐藤さんからのアフターの誘いを受けた事は一度も無かったけれど。
紳士な佐藤さんは、
「二日酔いには、気をつけて。」と言って笑って、スマートに帰って行った。
七海がvipルームから緊張しながら出ると、すでに裕太は帰っていた。
(ふぅ、良かった。)
七海は胸を撫で下ろした。
そして、混み合う更衣室で私服に着替え、また七海から優里へと戻るのだった。
帰りの送りの車では、今日もまた寝たふりをした。
でも胸が苦しくて、この間の様に実際に眠りにつくことはなかった。
優里が本当に寝ていると思っているボーイに起こされて、すぐに車を降りた。
見ればまた、車内に残った女の子は美月一人きりだった。
でもそんな事は気にならず、今日会ってしまった裕太の表情と、交わした会話ばかりが頭の中をグルグルと回っていた。
その後、シャワーを浴びて、ベッドに入っても、全然眠くならない。
あんなにシャンパンを飲んだのに、そんなに酔っ払っている感じもしなかった。
ただ、心臓がドキンドキンと脈を打っている。
アルコールの影響なのか、裕太の事を考えているのか...。
でも、裕太の姿を見つけた時からずっと、この心臓の鼓動は一度も止んでいなかった。
(せっかくこの間、お風呂の中で決意してから、良いモチベーションで過ごせて居たのに。と、いうより裕太の事をあまり考えなくなっていたのにな...。)優里は考えた。
この間シャンパンを飲んだ時の様に、明日はずっと湯船に浸かって心のデトックスをしたい気分だけれど、朝から仕事だ。
せめて早く寝ないといけないのに。
色々な感情の波に揉まれて、その日はほとんど一睡もする事が出来なかった。
しかし、ラインも電話もSNSも、全ての連絡ツールを優里は裕太をブロックしている。連絡先も全て削除した。
だからこの日の出来事は、時が解決してくれるのだろう。優里は自分にそう言い聞かせた。
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