第7話 永遠の様な一瞬

少しの沈黙が、優里には永遠に感じられた。


先に沈黙を破ったのは、裕太の方だった。

お連れ様や、茜に聞こえない様に小さな声で、

「久しぶりだね、で、いいのかな?」

と話しかけて来た。


裕太と別れてからの半年というもの、悲しみだとか怒りだとかもう色々な感情が怒涛のように押し寄せてくる毎日に、胸を締め付けられて生活していたし、新しい彼女と結婚するという噂もの事も、言ってやりたい文句も、一つや二つのでは到底無かった。


と、同時に、こんな所で会ってしまって気まずいだとか、恥ずかしいだとか、そうゆう気持ちも湧いてくる。


いやいや、でもそれだって、元はと言えば同棲していた裕太と別れて実家に出戻るのも気が引けて、生計を立てるために始めた事だ。


やっぱり腹がたつ。


色々な想いが一気に湧き上がる。


しかし、今目の前に裕太が居て、やっぱりずっとこの困ったような笑顔でこちらの様子を伺っている。


その光景が何より、優里にとっては、心臓を握り潰すような破壊力を持っているのだ。


気を抜いたら、涙が出そうだ。


「久しぶり。」声が震えそうになったけれど、精一杯の平然を装いながら優里は答えた。


少し間が空く。


沈黙に耐えられなくなって、優里は口を開いた。


「さすがに実家に出戻りっていうのも気まずくて、今は一人暮らししているの。下着屋の仕事も続けながら、たまにこうしてバイトしている。」

なんだかこの状況が恥ずかしくて、弁解したくて、一息でそう話した。他にもまだまだ、彼に説明したいことが沢山あった。


「そうだったのか。そうだよな、急に困ったよね。ごめん。」

裕太は少し俯いて、謝って来た。


本当にそうなのだ。ずっと仲良くやって来たと思っていた。何の前兆も感じなかった。いつから糸が綻んでいたのか、ただ1番側にいたのにそれに気づく事すら出来なかった自分自身が嫌になった。


そうゆう想いに日々駆られ、この半年間の中で何度も何度も、1人泣いた。


「本当だよ。」そう言って笑って見せようとした。優里はきっと今、自分の笑顔が引きつっているのだろうな、思う。でも今できる精一杯の反応だった。


「本当にごめん。」

裕太は凄く申し訳なさそうに謝ったけれど、優里は何も答える事が出来なかった。


暫く沈黙が続いた。


裕太は口を開こうとしては、辞め。

何か言いたげに、優里の方を向くのだけれど、目が合うと直ぐに逸らすのだった。


そうこうしているうちに、先程のボーイがやって来て、


「七海さん、お願いします」と、優里を呼んだ。


キャバクラには「指名」と、いうシステムがあり、指名をしない限り10〜15分ごとに(時間は店によるが。あくまで優里の働く店の場合は)隣に着く女の子をチェンジするシステムになっているのだ。

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