第4話 奇妙な好奇心
夜の仕事を終えて、ロッカールームで私服に着替えると、七海は優里へと戻る。
ピンと伸びた背筋からは力がぬける。
靴を履き替えるとここへ向かう時、水溜りに入ってしまったせいで濡れたパンプスが、まだ湿っていて気持ちが悪い。
店から家へは、ボーイが同じ方向に住む店の女の子を、まとめて送ってくれる。
送りの車に乗り込むと、七海はすぐに寝たふりをした。そうしておかないと毎回、女の子やボーイに話しかけられる。七海の性格上、話しかけられると、どんなに疲れていても明るく答えるのだ。
これを世間では八方美人と言うのだろうか。
七海はそんな状況にも、自分にも疲れて、いつからか送りの車の中では寝たふりをする様になった。
..
「七海さん、着きましたよ!」
ボーイに起こされて目を覚ます。
どうやら寝たふりをしたまま本当に眠っていた様だ。
「ありがとう。お疲れ様!」
そう言って車を降りる。
今日の送りのボーイも、やっぱり20代前半で、自分より年下だ。とても爽やかで目鼻立ちが整った青年なのだけれど、美月と出来ていると言う噂があるのだ。
確かに車を降りる時、車内に残っていた店の女の子は、美月ただ一人だった。
(やっぱりあの噂は本当なのかな?)
そんな下世話な事を考えながらアパートの階段を上がる。優里の住むアパートは三階建てで、優里の部屋は303号室だった。
部屋に着くなり、すぐに湿ったパンプスを脱いで、そのまま浴室に向かい、シャワーを浴びる。
シャワーを浴びながら、ボーイと美月の事をぼんやりと考える。不思議な組み合わせだ。恋愛とはそういうものなのだろうか。あのボーイはその場に居るだけでパっとその場が明るくなるような、そんな空気を持った青年だ。それとは対照的に美月が居ると、何となく空気が重くなる様な、そんな雰囲気を醸し出していた。
あの爽やかなボーイには、今日佐藤さんの席のヘルプで着いていた、茜なんかがお似合いだと思う..。
そこまで想いを巡らせて、ハっと我に返った。
「おばさんだなぁ。」思わずそう呟いて優里は苦笑いした。
20代前半の頃、別に仲良くもない男女の関係にここまで興味を示しただろうか..。
いつも自分の恋愛と、身近な友人の身の上に精一杯で、赤の他人の恋愛になんて興味がなかった。
それが、いつからだろう。
自分の事は目を背けて蓋をして、友人は皆んな結婚したり地に足がついてる様に見えて、それもなるべく気にしないようにして..。
気がつくと、テレビのワイドショーで特集を組まれる芸能人の不倫騒動だとか、職場の年下の子達の人間模様に好奇心が湧くようになっていた。
きっと、その変化は素敵なものではなくて。
三十路を迎えてから、いや、裕太と別れてから何となく続いているこの憂鬱な気分に、この発見は拍車をかける様だった。
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