第2話 昼と夜

30歳にもなると、周りはどんどん結婚していって子供も居たりして。


中には3人も子供が居る友人も居た。


そんな話を聞くと、何だかとても惨めな気持ちになった。


結婚していない友人は、バリバリのキャリアウーマンとして働いていたり。



そんな優里自身の職業は、アパレル。地方の百貨店で女性物の下着を販売していた。



給料は手取り16万円。

バリバリキャリアウーマンとして働く、同級生の友人達の給料とは比べ物にならない程に安い。



これだけだと一人暮らしをする優里にとってはとても足りないので、夜はキャバクラでたまにバイトをして生計を立てていた。実家からさほど離れてはいない場所で、優里は一人暮らしをしていた。

元々は裕太と同棲をする為に、結婚してから同棲すればいいのではと反対する両親を押し切り実家を出たのだが、30にもなる娘が、別れたと言って実家に出戻って暮らすというのは肩身が狭く、一人暮らしを始めて半年。

家賃や光熱費、その他諸々一人暮らしは思った以上にお金がかかる。

昼も夜も忙しく働かなくてはならなかった。


とは言え、昼間の仕事が忙しく週に2回程度しかキャバクラには出られなかった。

それでも、一日で一万五千円程度貰えるのでそれはそれで生活の助けには大いになっている。

キャバクラでバイトをしていると、昼間地道に下着屋で働いているのが馬鹿馬鹿しく感じられる事は度々あった。


夜一本で働いたらどれだけ稼げるだろう。


何度頭をよぎったか知れない。


だけどそんな勇気はないし、そもそも先日30歳にもなったのにキャバクラで働いている自分も冷静にどうなんだろうと思う。


そんな事を思いながら、優里は急いで下着屋のレジの締め作業をしていた。


壁に掛かった店の時計をチラチラと見る。


急がなくては。


今日は下着屋の仕事の後、キャバクラでバイトなのだ。


もう少しで9時を回ろうとしていた。


9時には佐藤さんが来店する予定だ。


キャバクラの仕事は始めて半年程だった。

ちょうど裕太と別れて一人暮らしを始めるタイミングでキャバクラのバイトを始めたのだ。

世間一般にはかなり遅すぎる水商売デビューであろう。



しかし、持ち前の明るい性格と昼間も接客業なのもあって、週に1.2回しか出て居なくとも優里はそれなりにお客様がつくようになっていた。


30歳には見えない童顔で、スタイルもそこそこ良かったのでしっかりメイクしてドレスで着飾ればそれなりに目立った。


そうとは言っても30歳..キャバクラ業界ではかなり、歳がいっている。時としてその事実はまた、優里の自信を奪った。


そんな事を考えながらレジ締めをしていたら一向に数字が合わない。イライラしながらもう一度釣銭を数え直す。


やっとの事で数字が合って、急いで百貨店を出る。

外はパラパラと小雨が降っていた。


優里は着ているブルゾンのフードを深くかぶって小走りでキャバクラへ向かう。


途中水溜りを踏んで、お気に入りのグレーのパンプスが水を含み黒く濁った。


秋も深みを増して、冬に片足を突っ込んだようなこの季節に、濡れたパンプスは足が刺す様に痛い。その冷たい痛みは、まるで優里の心までを刺すようだった。

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