第30話 地元のお祭りが開かれている神社の前を通りかかった
人だかりの列がどこまでも伸びていた。
転ばないように、足元と前をゆく人の背中を交互に見ている。
人びとの手にはりんごあめやわたあめやバナナチョコなど。
食い意地の張った男子となると、焼きとうもろこしや焼き鳥なんかも手に持っている。
人でぎゅうぎゅうになりながらも、隣の友人らしき人と会話をしたり。遠くから見ているだけでお腹がきゅうっと締め付けられるような匂いも、うらやましく思ってしまう。実に楽しそうだ。
これはどう考えても地元の大きな神社の夏祭りだ。
押さないで押さないで、と交通整理の警察官が必死に声を上げているが、あまり効果は出ていなさそうだ。年に一度、進学の都合やら転校やら、その他の理由で普段は逢えない人たちにとって願ってもない特別な日だ。その嬉しさはきっと猛烈なものであり、たとえ秩序の公僕が動こうとも、止められる意志ではないということだろう。
人間のすさまじさは、これが無意識に行われているということだ。
無意識に人は人とつながり、賑わいを求める。
どんちゃんどんちゃん。人びとの声に交じって鳴り物がお祭りの熱気を盛り上げているようだった。しかしぼくは混ざろうとはしなかった。なぜだろう、ただ……資格がないようで、いつも気後れしてしまうのだ。
いつかはぼくもお祭りに交じって賑わうことができるようになるのだろうか。
楽しみよりも心配のほうが勝ってしまう、ぼくは臆病者だ。だからこうして入り口から遠目で眺めているくらいでちょうどいいのだ。
検索単語
※願ってもない
※公僕
※気後れ
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