第29話 地元のお祭りが開かれている神社の前を通りかかった

 今日のアルバイトは朝から入って夕方までだった。

 いつもは昼から入って夜にあがることがほとんどなので、ちょっと新鮮。

 しがない大学生をやってりゃそんなもんだ。


 日も出ているし、今日はすこし冒険をしてみようと思った。

 左折を繰り返すところをひたすら直進して見えてくるのは、近道。

 の、はずだった……いや、確かに合ってはいたんだが。

 どうにも途中から人通りが多くなってきたから嫌な予感がしたんだ。


 予感、的中。


 近道を封鎖するように、人だかりができていた。

 ぐあああああ、祭りかあああ!!

 おれは内心で叫んだ。


 ああ、みんな楽しそうにしやがって。

 出店で買ったらしい食べ物、は色鮮やかだしいい匂いもしそうだし、見ているだけで食いたくなってくる。でも我慢しなければならない! たとえ空腹だろうと食べてはいけない! なぜなら……!!


 おれは、持ち合わせのお金がすくない。


 世知辛い世に産まれてまいりました。

 眺めるに留めよう。


 色とりどりの浴衣は女子が着ると、とても綺麗に見える。男子が着るとなんだか時代が遡ったように感じる。こういうのを風流と呼ぶんじゃないだろうか。

 わいわいがやがや、きゃっきゃうふふ。

 前半は心地よい響きだ。後半はおれにも分けてもらいたい幻想を含んでいた。


 太鼓と笛の音が混じっている。

 たしか神社の奉納だかなんかで変な舞……そう神楽があったはずなので、その音かもしれない。超大ヒット映画よろしく、かっわいい巫女さんが踊っているであろう姿は想像で我慢するしかない。


 なに?

 お金がないなら神社にだけでも行けばいいだと?

 それは無茶だ。


 神社は小高い丘のような場所に建っているのだが、そこにたどり着くには秩序のない行列を抜けていかなきゃならん。徒歩ならまだしも、自転車が邪魔すぎてとてもじゃないが行く気にはなれない。


 だからおれは、祭りが行われている入り口で(通行整理のおまわりさんを無視しながら)、目から入る色を楽しみ、鼻から入る出店の煙を楽しみ、耳から入る話し声や楽器の音を楽しむだけにする。


 これでも立派に祭りを楽しんでるだろう?


 まあ仮に徒歩で、お金があったとしても、賑やかなのがあまり得意じゃないおれは、参加しなかっただろうけどな!



検索単語

※しがない

※世知辛い

※風流

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