第18話 ガルナの塔(ドラゴンクエスト3より) 付属:描写の種類4つ

 今日も最初はちょっと本題から逸れて、お得なお話から。


 描写は大きく分けると4つになるそうです。

 ・現実にあるものを、現実にいる存在で書く:難易度低

 ・現実にないものを、現実にいる存在で書く:難易度中(いまここ)

 ・現実にあるものを、現実にない存在で書く:難易度中

 ・現実にないものを、現実にない存在で書く:難易度高


 たとえば、よくある異世界転生。

 転生先の世界としてモチーフにされるのは中世ヨーロッパが多いですが、それでも『現実には存在しないもの』を描く技能が要求されます。正確には『現在には存在しないもの』か。


 また、「すごく良いゴブリンが現代日本に転移してきて、文化や文明の違いに苦労しながら共同生活をする話」みたいなものを書こうとしたとします。

 そうすると、現実にない存在、すなわちゴブリンのことを読者が納得できる精度で書かなければならなくなります。


 ふぅ、よく書いたし、楽しかった。

 さあ、おわりおわり……あ、はい、描写やりますってば。


 *  *  *


 波に揺られながら、ぼくは船の甲板で物思いにふけっていた。


 世界は広い。

 その世界をぼくは地図という形でしか知らなかった。


 この世界には多くの冒険者たちが集まる、『ルーイダの酒場』という場所がある。

 ルーイダの酒場は世界でも最大級の城下町にある。その壁には年代物のでっかい羊皮紙に世界地図が描かれていて、いつも冒険者たちのこころを弾ませてくれる。あの街に行ってみたい、あの迷宮に挑んでみたい、といった具合にだ。

 いまどき羊皮紙はあまり見ない。すでに紙が普及しているためか、物珍しさでみんな見た目以上にわくわくしてしまうのだろう。ぼくもそんなひとりだった。


 そして旅にでた。

 訪れた者に天職を与えるという『ダーナ神殿』も魅力的だったが、そこは男子というもので。神殿よりも、ダーナ神殿が修練場所として推奨する『ガナルの塔』に夢を抱いた。なんでも、天に向かってそびえるように建っている、らしい。


 そしていま、ぼくはガナルの塔が見える位置にいる。


「船長! あれが?」

「ああ、ガナルの塔の……ありゃあ五階と六階かねえ」


 船の上から、遠くに見えてきた灰色の突起物を眺めている。いや、塔なんだから普通は四角いというか直方体なんだろうけど、まだ遠すぎて尖っているようにしか見えないんだよ。

 ほかの冒険者たちも感嘆の声をあげている。

 ……ごめんなさい、冒険者じゃないですね、ただの見物人ですはい。


 ガルナの塔に海の方面から入る方法は、残念ながらない。

 中央大陸からすると、奥まった場所にある。さいわい、というか中央大陸の北部からやや細めの海路がそこまで延びているため、見るだけなら近くまで行ける。

 ひょこんと大陸から飛び出した地形に建っているものの、東と北と西は峻険な山々に囲まれていて、人も魔物も立ち入ることができない。普通の山とは違う。谷と絶壁だ。徒歩で入ることなんて無理だし、空を飛べる魔物でも避けざる負えない。せいぜい頂上まで100メートルもない山々のはずなのに、何倍もあるように感じてしまう。塔のほうからすると、4階までが見えないので……1階1階の高さはそれぞれ25メートル!?

 げぇっ、とぼくは心の内でえずいた。

 いやいや、それぞれの階が同じ高さであるというのは単なる先入観で、たとえば1階は50メートル、2階は30メートル……などと益体もないことを考えてしまう。

 なにをしているんだ、ぼくは。

 現実をまざまざと突きつけられた衝撃で、呆けてしまっていたようだ。


 ガルナの塔に侵入するならば、南からの陸路に限られる。

 しかし、凶悪な魔物が道中にはびこっており、簡単には近づけない。

 ぼくの技量で安全に見物しようとするなら、比較的安全な海路を使うしかない。 ジペングから船を出発してもらい、西の陸を常に視認しながら北上を続けて、ムルオの村が見えた先にある幅の細くなったところを南下していく。波はおだやかだし、風の吹く方向も規則性があるため、急がなければ帆船はすいすいと進んでくれた。


 生物の侵入を断固として拒んでいるように見える周囲の高い山々と、それすらも超えて空の青に混じってどんっと威風をただよわせる塔の上階に、いつか挑戦してみせるぞ、という気概をぼくはみなぎらせた。


「そろそろいいかねー、引き戻すぞーい」


 船長の声が、なぜだかとても遠くに感じられた。



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