第13話

練習します。駄文です。


 氷で覆われた都心部の道路だった。

 周囲には誰もいない。そして何も動くものがなかった。

 たまたま降った大雪で路面の全てが雪で覆い尽くされたのは、昨日の朝から夜にかけて。今日は朝から快晴で気温も上がり、雪を踏み固める音や、じわじわと溶けたそれが流れる音に満ちていた。

 夜になると、雪は氷に変わっていた。

 再び気温が下がり、急激に冷やされた水は元の姿である雪に戻ることはない。生まれ変わるかのように氷となる。雪の有りように、夏の蝉を重ねる。一時だけの儚い輝き。夏の蝉に、冬の雪。


 行き交う車によって掘られたおおきな溝は、氷の渓谷を思わせる。

 地面から夜空を見上げれば、氷の渓谷を白く照らす街灯に意識を持っていかれる。星でもなく、まして月でもない。特別な状況だから思うのかもしれない、特別な存在。特別な光。

 光は地面に向かって降り注ぎ、氷の渓谷を白から黒、黒から白へと自在に塗り替える。とぼしい語彙に頼ればそれは美しかった。泥の混じった茶色を差し引いても綺麗であった。


 誰もいない夜の道路を歩く。

 足元から背筋を通って脳に響く音がある。氷となった雪を踏み砕く音だった。背徳感を背に、ひたすら前をゆく。氷の渓谷を破壊してゆく。止められる者はたったひとりしかいない。でも止めようとはしない。

 極上の芸術をただひとり楽しみ、誰にも知られず破壊してゆく。自分以外にはわからないように。街灯から生み出された影が、じっと見つめている気がする。


 明日になればきっとなくなってしまうであろう、僕だけの特別な時間だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る