第11話 3VS1でも手加減は必須

  小説とは関係ないのですが、今日はカラオケに行ってきましたのです。

 歌った曲は、どんぐりころころでした。


──────────────────────────────


 「それで、連携の練習って具体的に何をすればいいの?」

 「一緒に組んで戦えばいいんじゃないのか?」

 「そう。でも貴方は誰と戦うつもり?」

 「あ、あー……俺達とまともに戦えるやつが居ないのか」


 レオンの言葉を一蹴したリーゼロッテ。確かに、レオンもリーゼロッテも、どちらもクラス内での実力者。トップと言ってもいい。

 あくまで俺の見立てではあるが、それは他のやつらも似たような評価のはず。


 つまるところ、対戦相手が居ないという問題は割と深刻だった。

 かといって今回は戦えばいいという話ではない。連携の練習をするには、同程度以上の実力を持った相手が必要だ。でなければ各々が実力に任せて猪突猛進になる、という結果になりかねない。


 「……なんなら、俺が相手しようか?」

 「貴方が?」


 ここは仕方なく俺が申し出ると、リーゼロッテは怪訝な顔を、レオンは何気に納得したような顔を向けてきた。


 「確かに、イブなら俺達2人を相手にしても余裕なのか」

 「……どうなの?」

 「まぁ………リーゼロッテとレオンなら、問題ないよ。じゃなければ提案もしないし」


 若干言いづらさはあったが、リーゼロッテが聞いてきたので俺は素直に告げる。

 というか、制限がなければ俺は理事長クラスですら何人いようが余裕だ。


 リーゼロッテも、俺が既に拓磨と戦った姿を見ているから、2人を同時に相手にできるということには異を唱えない。


 「貴方がどうしてそんなに強いかは疑問に思うけど……」

 「それは俺が一番知りたいかな」

 「とんだ嫌味ね」


 いや、ステータスという面で見ても、俺個人を見ても、明らかに異常な部分は多い。

 それが何に由来するものなのか未だにわかっていないのだが、今は取り敢えず自身のステータスはついてまわるものだと理解しているため、上手く付き合っている。


 ただ、一番心配することといえば、この世界を管理するような存在がいる可能性だろう。女神というのも、その候補の一つだ。


 例えば、地球に帰るためにそんな存在との接触が不可欠かつ、敵対的だった場合。ゲームのシステムに干渉するように、ステータスを軒並み無効化されるようなことすら有り得ないとは言いきれない。

 そうなれば、今まで積上げてきたレベルやパラメータ、スキルというのは一瞬で無意味になる。


 もちろん、問答無用で殺されるようであればそんな心配もそもそも意味をなさないが。


 ……リーゼロッテの言葉に俺は肩をすくめる。


 「まぁ俺がどれだけ強くて、何が出来るのか。連携の方もそうだけど、戦ってる間に俺のこともそれで把握してくれると嬉しい」

 「他力本願、ということ?」

 「そんなつもりは無いけど」


 言っちゃなんだが、俺は何も言われなくとも、合わせることが可能だ。意図を読むこと、行動を予測することは、その気になれば〃〃〃〃〃〃〃余裕であるし、前衛にも後衛にもなれる。


 だからこそ、やって欲しいのはリーゼロッテ達に俺のことを理解してもらうことなのだ。

 

 「あ、ソティもそっちでいいぞ。どうせだから連携の練習するといい」

 「………」コク

 「待って、3対1? いくらなんでも……」

 「キツイかどうかは一度試して見てからだよ」


 素直に頷くソティ。このぐらいは言うことを聞いてくれるんだな。

 まぁ問題は、ソティが戦闘を開始してからだな。


 脳裏には割と鮮明に、ソティが問題を起こす様子が浮かんでいた。




 その後、午後の時間となり。


 俺は最初最低限の記録をつけるためにサラッと他の奴らの訓練を見てから、リーゼロッテ達の元へと行った。


 相対する3人の様子だが、リーゼロッテとレオンは武器を構えているが、ソティは魔剣を出してすらいない。

 なお、ソティの魔剣召喚は隠したところで無駄なのでオープンにするつもりだ。もちろん、リーゼロッテやレオンにだけだが。

 別にソティが禍々しい剣を持ってたっていいだろう。聖剣では無いんだし。


 魔剣なんて珍しすぎるからこそ、最悪『名匠に打ってもらった剣』とでも言っておけばいい。

 

 「いつでも行っていいのかしら?」

 「お好きな時にどうぞ」


 油断なく構えるリーゼロッテ。レオンは攻撃の意志をまだ見せていない。ソティは分からん。


 戦闘とは言っても今回は連携を中心にするため、ただただ防ぎ続けるというような戦闘スタイルにはしない。

 攻撃も防御もそこそこに行うために、久しぶりに[過負荷の指輪]を再装着し、スキルとパラメータを制限しているのだ。


 取り敢えず、これだけ制限すれば、意識的には7割程度でやれば丁度いいだろうか。


 思考している間に、リーゼロッテが動いた。大体最初に戦う時相手は速攻なのだが、今回も例に違わず高速接近。


 ただ違ったのは、俺の目の前で止まったリーゼロッテは、そこで急旋回。背後に回り込んできた。


 俺の目の前に風が渦巻くような球体を残して。


 恐らく上級風魔法の『暴風拡散ウィンドボム』だろう。ボム系の魔法は使い勝手がいいが、この魔法は球体の中心が起点となり、無差別に暴風を撒き散らす。

 

 だが仲間がいる時にそんな魔法を使うわけもなく、指向性は持たせているはず───どちらにせよ意味は無いが。


 「『無空気エアンセプション』」


 先に『暴風拡散ウィンドボム』の方を無効化し、その後リーゼロッテに相対する。


 振り返って剣を合わせると、しかしリーゼロッテの方は何ら困惑することなく新たな魔法を発動した。

 まぁ、この程度は想定済みということか。剣に炎が絡みつき、俺の剣をすら伝って、炎が襲いかかる。『炎刃フレイムエッジ』は武器に対しては致命的だからな。


 「『水刃アクアエッジ』」


 しっかりとそれも対となる魔法で防ぎ、ここでリーゼロッテは合わせた剣に力を込めてくる。

 ギャリィッと金属音を響かせる鍔迫り合いの狙いは……背後から近づいてくるレオンの存在が答えだ。


 「ウオォォォ!! イブ覚悟!!」

 「攻撃する時は声出しちゃダメでしょ」


 随分と気合が入っているようで。俺は親の仇でも目にしたかのような勢いのレオンの攻撃を、空いた方の左手を前に突き出して対応する。


 「ディメン───っと」


 しかし、『次元の壁ディメンションウォール』を唱えようとした瞬間、リーゼロッテは後退すると同時に俺の周囲に炎の槍が幾つも出現させ、更に地面から土の鎖が複数飛び出してくる。


 ちなみに俺はパラメータを下げようがスキルを封印しようが、素の状態でほぼタイムラグなしに無詠唱が可能なので、途中で詠唱を止めたからといって魔法が発動できなくなることは無いのだが、流石に魔法を手加減なく使用するとリーゼロッテ達が手も足も出ないだろうということでそこはハンデを勝手につけている。


 取り敢えず俺は、その場から跳躍する。下がったパラメータのせいでお世辞にも早いとは言えないが、魔法を避けるには間に合った。


 しかし空中に逃げたことにより、レオンは好機とみて大剣を振るってくる。リーゼロッテも既に新たな魔法を組み始めていた。


 「残念」

 「うぉっ!? これでもダメなのか!?」


 空中で体勢を変えた俺は、レオンの大剣を掴むように手を伸ばし、大剣の上へと一度着地する。

 そして大剣を蹴り、地面へと戻る。すぐさま襲ってくるのは、リーゼロッテが組んでいた『落雷エレクトリック』。

 

 頭上という人間の死角から放たれる攻撃は、察知しにくい。それは視覚だけのことではなく、音や魔力感知で見ても、死角に近い。


 しかしながら、それは察知しにくいと言うだけであって、察知ができないわけではない。

 何度も言うように魔力、魔法関連というのは俺の十八番である。例えスキルを封印していたとしても、そうそう遅れなど取るはずがない。


 「『土壁ロックウォール』」


 『落雷エレクトリック』が発動するのよりも先に魔法名を唱え終えた俺は、ドーム状に土の壁を形成する。

 『大雷轟ギガボルト』であれば防ぐには心許ないが、『落雷エレクトリック』なら十分に防げる。


 「オラッ!!」


 『土壁ロックウォール』ごと大剣で粉砕してきたレオンの攻撃は剣で防ぐ。


 なんだ、連携はしっかりできている。初めて一緒に戦うとは思えない動きだ。


 そりゃ、やりやすいように動いているというのはあるが、それでも十分以上に連携している。今のだって、並の相手じゃ防ぐことは出来ないだろう。


 俺はレオンの大剣を横に受け流して、頭上に剣を振り上げた。


 「『空間断絶ディメンションスラスト』」

 「───『堕点風流ダウンバースト』!」


 それと同時にリーゼロッテが『堕点風流ダウンバースト』を発動するが、その時には俺も魔法を唱えている。

 『堕点風流ダウンバースト』の発生地点、その中心に『空間断絶ディメンションスラスト』を打ち込むことで、魔法の発動を阻止した。


 魔法の発動がキャンセルされ、注がれた魔力が砕け散る。


 「っ、そんなのアリ!?」

 「ありだよ」


 というか今、レオンごとやるつもりだったろ。失念していたのか故意かは知らないが、俺が無力化してなかったら、レオンは今頃地べたにベターんとなっていたぞ。流石に生身では対抗出来ないだろうし。

 ……いや真面目な話な。


 前後から2人が同時に迫ってくる。アイコンタクトが見えたので、予想はできていたが、2度も同じ手が通用すると思うか?


 「『アイシクルソード』」


 空いた方の手に氷の剣を作りだし、俺は挟撃に備える。

 だが、ここで俺はその対応は不十分だったことを悟る。


 影が差す。それは俺より上に誰かがいる証拠だった。


 「………!」

 

 一瞬にして頭上に移動していたソティに俺は剣を向けるが、しかし、直ぐにソティの手には剣など握られていないことを理解する。

 その時には既に遅く、ソティはそのまま俺の剣をスルリと避け、足で俺の顔を挟んできた。


 ニーソに包まれた太ももと、股の感触がいかんせんダイレクトアタックしてくる。


 「っ」

 「ナイスだソティちゃん!」


 視界が暗転した。柔らかい感触に、平常時だったら(ソティに限っては)間違いなく動揺していただろうが、今は戦闘中。思考の切り替えは効いている。


 感覚だけを頼りに近づいてきたレオンとリーゼロッテの攻撃を、まずは一度、二度と捌く。


 「これでも反応するの!?」

 

 驚いた声はリーゼロッテか。今の俺を見たら、ソティに顔を挟まれているという非常に無様な姿なのだろうが、行動自体は驚くように素早い。


 「もごご(『強制転移テレポート』)」

 

 これまた非常に格好悪く、モゴモゴと魔法名を詠唱する。カモフラージュというか、ハンデは継続だ。

 俺は自分ではなく、ソティを対象に『転移テレポート』を発動させた。その先は───リーゼロッテ。


 「え? きゃっ───!?」


 俺の顔を挟んでいた体勢のソティは、その体勢のまま『転移テレポート』させられたために、リーゼロッテの顔を挟む状態となる。


 「リーゼロッ───」

 「気を取られすぎだよ」


 気配を消してレオンの懐へと入り込み、柔道のように背負い投げ。

 大柄なレオンを地面へと叩きつけた。


 「っぶねぇっ!?」

 「よく耐えたけど……」


 ギリギリで手の代わりに大剣を着いて器用に受身をとったレオンだが、その間に俺はレオンの首筋に剣を突きつけている。


 「レオン、アウトかな?」

 「はっ……まさか!」


 レオンが言うと同時に、レオンと俺の間に、風の玉が出現した。


 リーゼロッテが唱えたであろう『暴風拡散ウィンドボム』は、先程よりも早く発動し、俺とレオンを反対方向に吹き飛ばす。


 とはいえその程度で体勢が崩れることも無く、空気を掴み〃〃、受身をとった俺は、重力魔法で重力を操り、元の位置から2メートル離れた場所で着地する。


 対するレオンも結構遠くまで飛ばされはしたが、受身を取っている。すぐに戻ってこれる範囲だ。


 「───ちょっと油断してたかしら?」

 「さて、どうだろうね」


 風で乱れた服を整えながら、俺は笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る