第10話 お誘い(男)
「───頼みがあるんだ、イブ」
はて、デジャブだろうか。少し前にもこんなことを言われた気がするぞ。
少し前というか、昨日の話だが。リーゼロッテの時と状況が似ているな。
昼休み。俺の前ではレオンが頼むと言って頭を下げてきた。
「俺と一緒にチームを組んでくれ!」
「ごめん無理」
「即答!?」
俺の何ら躊躇うことの無い拒否に、レオンは驚愕した後、しょんぼりとした顔をする。
「いや、俺リーゼロッテともう組んでるんだよね。そういう意味で無理」
「え? あ、あのリーゼロッテとか? お前、どんな手段使ったんだよ……」
「去年は出てなかったの?」
「去年は個人戦に出てたな。今年もてっきり個人戦で一人孤高に戦うのかと思ったんだが、マジか、イブを誘ったのか……」
相変わらず、冷たい態度をとるのはデフォルトだったようだ。
俺は、リーゼロッテが個人戦に出ない理由を本人の口から聞いたように答えた。
つまり、俺が個人戦に出るからという理由。
「……まぁ、そんだけ衝撃的だったんだろうなぁ、タクマやグリムガルと戦ったお前が。そもそもアイツは、タクマにすら勝てるかわからないって少し零してたし、そのタクマをあぁもあっさりイブが倒しちゃ、確かに挑む気も失せるか」
なるほど、そんなことを。にしても何だ、レオンはリーゼロッテと話す関係だったのか。
「いやいや話さねぇよ? 単純にそこに俺がいて、たまたま耳に拾っただけだ」
レオンは首を振って否定した。違うのは本当らしい。
多少つまらないとは思うが、確かにレオンとリーゼロッテが喋る構図は想像出来ない。
「でもそうか……もうリーゼロッテと組んでるのか……」
「レオンは個人戦の方には出ないの?」
「あぁ、俺も去年までは個人戦に出てたんだがな、実を言うと決勝戦まで行けないんだよな。大抵それまでにやられちまうんだ」
「意外だね。てっきりレオンは実力的にも上位の方だと思うんだけど」
少なくとも勇者を除けばこのクラスではトップレベルの実力を持っていると思うのだが。相手が俺だから以前の試合では呆気なくやられたものの。
「んー、まぁ弱くはねぇと思うんだがなぁ。でも、対抗試合じゃ特別クラスの連中が出張ってくるからな。そうなってくると流石にキツい」
「特別クラスか……強いの?」
「強いっつーか、異質っつーか。特別クラスは特殊なスキルやらを持った連中が集まる場所だからな。タイマンだとやりづらいんだわ。それに、実力も基本的に高い。ようは、優秀な問題児の集まりってこった」
何回か名前だけは聞いている特別クラス。あのグリムガルも特別クラス用に元々は捕らえていたと言うし、やはり特殊な場所なのだろう。
「しっかし、どうするかな……」
「諦めはしないんだ」
「まぁな。そうだな、俺がリーゼロッテのチームに入れてもらえれば、楽なんだがなぁ。リーゼロッテは強ぇし、イブも入ってりゃ、優勝も狙えると思うんだわ」
「俺は別に構わないけど、リーゼロッテが了承するかどうか」
「そこなんだよなー……」
レオンは腕を組んで悩むが、それもすぐに終わる。別に解決策が見つかった訳では無いようだ。
「まっ、取り敢えず一度頼んでみてだな。ダメだったらその時考えるわ」
むしろ何も思いつかないからこその、漢らしい考えだった。
俺としてもレオンがチームに入るのは吝かではない。だが、あの頑固な少女が果たして許可するかどうか。
確率的には2:8と言ったところだろう。
もちろん、前者が許可される確率で、後者がぶっきらぼうに拒否される確率だ。
◆◇◆
「嫌」
「だよなぁ……」
午後。レオンの姿を見るなり勘のいいリーゼロッテは用事を察したようだ。レオンが何か言う前に一言キッパリ告げやがった。
「無闇矢鱈に人を増やしても戦力増強には繋がらない。もしかしてと思ったけど、彼の目当ては貴方?」
「おっと、俺のせいじゃないよ」
目当てが俺なのは事実だが、そんな責められるような目で見られてもどうしようもない。
「何故ハッキリと断らないの」
「俺としては別にレオンがチームに入るのは構わないから」
「私が嫌なの」
「だから君に判断を委ねてる」
事実俺はレオンを弁護するようなことは何も言っていない。リーゼロッテは一瞬ムッと顔を顰めるが、それもすぐに終わる。
レオンに向き直った時の顔は不機嫌そのものではあるが。
「とにかく、貴方は入れない」
「そこをなんとか!」
「嫌」
にしても本当にすげなくあしらうな。レオンが可哀想に思えてくる。
「何故!」
「だって貴方の戦い方とかほとんど知らないし」
「おいおい、俺たちゃ同じクラスだろ?」
「だとしても、今まで興味なかったわ」
予想外のところでダメージを受けそうな一言だが、レオンは
「いやいや、でもソティちゃんは入れたんだろ?」
「確かにね。でもこの子は彼の言うことならなんでも聞いてくれるだろうし、貴方と違って大人しい。何より身体能力も高い。戦力増強に繋がると考えただけ」
自分の話題を出されたと知ったソティが首を傾げるが、一応褒められていので喜んでいいと思うぞ。
だがリーゼロッテ、俺の言うことをなんでも聞くなんていう言い方はやめてくれ。誤解と言うにはあまりにも恐ろしいものなので。
「身体能力なら俺も自信があるぞ」
「確かに見た目からしてパワーはあるかもしれない。だけどそれだけじゃチームとしては無理。連携できなければ足でまといにしかならないわ」
レオンが何と言おうと、頑なに参加を認めないリーゼロッテ。
他者を排斥する態度は、確かに孤高と捉えてもいいだろう。
だがどうも理不尽な部分はある。判断を委ねるとは言ったが、正確な分析を言うのは構わないだろう。
「そうは言うけどリーゼロッテ、君も連携はわからないんじゃないの? ましてや俺もソティもリーゼロッテもレオンも、全員組んだことの無いメンバーだ。連携ができる方がおかしい」
「それは……まぁそうかもしれないけど」
「それに、リーゼロッテは誰とも組んだことがないよね? だからリーゼロッテと、俺達と連携が取れるかって言うのは、結局一度はチームを組んで見なくちゃわからない」
「……確かにそうかもしれない。でも、それが彼である必要は無いわ」
「リーゼロッテだけだったらね。でもチームメイトには俺もいる。そして、俺はレオンと数度だけ試合をしたことがあるし、会話も多い方だ。俺との相性で言えば、お互いに多少なりとも手の内を晒してる、レオンが最も適任だよ」
「…………」
果たして、リーゼロッテは黙り込んだ。俺の言葉に反論する言葉が見つからないのか、それとも俺相手だから言うに言い返せないのか。
どちらにせよ、リーゼロッテは多少悩んだ挙句に、俺の方を向きながら。
「……貴方がそう言うなら」
と、渋々受け入れる形をとった。あくまでも俺が言ったから、という理由にすることで、納得させたというところだろうか。
ただその射抜くような視線は、『これで借りは無し』とでも語っているかのようだった。
「……えぇと、結局あれか、俺は入れるのか?」
「そうね。イブ君に感謝しなさい。でも、連携がどうしても取れないようなら外すから」
「おう、それは構わないぜ」
あくまでリーダーはリーゼロッテ。レオンはそれを理解しているのか、異論は全く無い様子だった。
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