第3話 再発




 「───ねぇ、ご主人様」

 「ん?」


 宿へと帰ってきて、少しだけルナとミレディの魔法の練習に付き合い、その後の魔力補給。


 相変わらずピンク色な雰囲気漂う時間だったが、ふと、なにか気になることがあったのか、ルナが肩越しに俺を見上げてきた。

 今回は背中から補給をしているのだが、こちらの方が気持ち楽そうだ。それはともかく。


 「なんか、ソティちゃん明らかに態度変わってない?」

 「そうか?」

 「だって昨日までは親についてく子供みたいだったのに、今はコレだよ?」


 俺の隣に寄り添うのは、ソティ。無表情さは変わらないが、ルナには昨日との雰囲気の違いがわかるらしい。


 「ねぇ、ミレディ?」

 「う、うん……」


 そしてそれは姉妹で感じていることのようだ……俺としては宜しくないぞ。

 色々と今日言われてきたばかりなのだから。あと、非効率かつゴリゴリと理性を削られる方の魔力補給を思い出させる。


 「まるで付き合いたてのカップルみたい」

 「また妙な表現を……」

 「そうだけど……やっぱ昨日の夜、何かあった?」

 「何も無い何も無い。もしあったとして、普通こんなに平然といられると思うか?」

 「ご主人様なら有り得るかな」


 変なところで理解されているのだがどうしよう。俺ってそんなに肝が据わってるのだろうか。


 「肝が据わってると言うか、耐性があるというか。ご主人様、女の子慣れしすぎなんだよね」

 「うちには下ネタを平気でかます妹と、警戒心皆無の幼馴染に、冗談なのか本気なのか区別がつかない言葉を放ってくる妹がいるから」

 「妹2人出た!?」

 「俺の妹は2人居るぞ」

 「聞いてない!」

 「言ってないからな」


 それだけ周りに伏兵が居た状態で十数年暮らせば、そりゃ耐性が付くな。俺も納得。


 「まぁだから、もし俺が動揺してる時は……大人の階段をマジで登ったと思え」

 「え、えぇ………ハッキリと言うかなぁそういうの。でもご主人様ならそれでも平然としてそう」


 ミレディは首を傾げている。いいんだ、大人の階段という言葉で容易に変なものを想像する方がおかしい。最近の子供はみんなませてるんだ。俺も含め。


 「俺はどれだけ手馴れてるんだ」

 「ご主人様は並大抵の事じゃ動揺しないしね。もしかして、実はもう経験したことがあるんじゃ……」

 「んなわけないだ、ろっ」

 「ひゃうっ!?」


 少し波を持たせた魔力を送ってやると、ビクンっとルナの背が伸びた。

 俺は悪い笑みを浮かべて一言。


 「あまり変なことを言うとあられもない姿を晒すことになる」

 「きょ、脅迫とか……少女脅迫は犯罪よ?」

 「こういうのは法に従う第三者にバレて初めて犯罪になる。逆に言えば、バレなきゃ犯罪にならん」

 「堂々と女の子達の居る部屋でなんて発言を……」


 ちょっと引いてるルナは、俺から離れてそそくさと服を直した。背中に手を当てるために少しだけ背中をはだけさせていたのだが、ルナももう渋々やる程度にはそういうのに抵抗がなくなってきている。今隠されたけど。

 俺の方も女の子の肌に手を当てるぐらいは今更だ。


 「あぁそうだ、今日もまたソティと寝るから、よろしく」

 「いや、今の下りからそんなこと言うと、ソティちゃんに……何かしらするように聞こえるんだけど」

 「同じベッドで一緒に寝るんだよ」

 「卑猥に聞こえる……」


 隣のソティは当然と言いたげな顔。いや、態度。うん、何様のつもりだ?


 俺は夜襲われる心配をしながらも、結局一緒に寝るというのだから、期待と不安が半々といったところだろう。


 理性とはなんとも難しい。高校生の自制心なんてたかが知れているということだ。

 ……むしろ人より自制心がない可能性すらありえるな。


 「……夜、覗くなよ?」

 「じょ、冗談はやめてって!」


 俺はからかい気味にルナに言った。敢えて言うことで可能性を排除するという簡単な方法だが、逆に好奇心を刺激する可能性もあるから多用は厳禁だ。


 今回は上手くいってくれたと思いたい。まぁ一番は、この保険が意味を為さないことなんだが……。


 


 


 ◆◇◆



 「───おや、今日は随分とお疲れのようですね」

 「夜に少し、ありまして」

 「そうですか、貴方が強いのはわかりますが、体を壊すのは気をつけてくださいね」

 「えぇ、ありがとうございます。でも体を壊すようなものじゃないので大丈夫ですよ」


 朝。また理事長の元へと来た俺だが、そんなことを開口一番に言われてしまった。



 『ちょ、ソティ夜這いは無しだろっ───』

 『………、………』

 『───だから舌吸うのはっ───』



 「どうしました?」

 「いえ、別に」


 思い出される昨夜の出来事……結局寝込みを襲われてしまった。

 魔力が減っていたようには感じなかったが、俺はあれを魔力補給だと思うことにした。決定だ。断定だ。


 「ところで、今朝はどんな御用で?」

 「あ、そうでした。まずは、闘技戦の個人の方に出場したいので、その申請をお願いしたいんです」

 「別に問題ありませんが……何故わざわざ私に?」

 「こちらはあくまでついでです。本題の方は別にありまして……」


 それだけなら別にミリア先生に頼んでもいいのだが、今回は別件がある。

 俺は『無限収納インベントリ』から、例の芋虫のようなものを取り出した……触りたくないので空中に。


 理事長が少しだけ眉を動かす。


 「……これは?」

 「以前グリムガルが暴走した時がありましたよね。その時に落ちていたんですよ。今の今まで出すのを忘れていましたが、念の為」


 ずっと俺が持っていても仕方ないし、今出したことで[禁忌眼]は発動させた。既に調べ済みとなったわけだし、理事長に渡した方がいいだろう。 


 「なるほど……イブ君は、これが暴走に関係あると考えているわけですか?」

 「えぇ。というよりは、もう確信しています。その虫が魔物を凶暴化させる、といった効果を持っていることは、調べましたから」

 「魔物を凶暴化、ですか? そんな虫聞いた事ありませんが……」

 「俺も知りませんでしたよ」


 [禁忌眼]では『暴走虫』という捻りのない名前となっていたが、変に地球のように長ったらしい名前をつけられても覚えるのが面倒くさいだけだ……[完全記憶]あるけど。


 それに、存在を知らないのは仕方ないだろう。何せこれは、こちら〃〃〃で作られたものでは無いのだから。

 そんなことを欠片も感じさせずに、俺は話を再開させた。


 「ただ一つ言えるのは、それをグリムガルに忍び込ませた誰かがいる、ということですよ。一応魔物の管理は気をつけてください」

 「ですね。生徒から言われるとは耳が痛い……この虫はお預かりしても?」

 「調べることは終えましたから、構いませんよ」


 理事長はどうやら虫に興味を示した様子で、俺は手で促す。空中に浮く芋虫をなんの躊躇いもなく掴む姿は流石ファンタジーの住人ということか、それとも理事長だからか。


 「ちなみにこの学校にグリムガルより強い魔物は居るんですか? 今度は対抗試合で、となると、大変ですよ」

 「そうですね、SSSランクの魔物は鬼神が一体いるのみで、他は居ませんよ。鬼神はSSSランクの魔物の中でも弱いですしね。最悪生徒でも倒せる者はいるでしょう」

 「暴走したら厳しいと思いますよ?」

 「いえ、倒せる人もちゃんと存在します。まぁあくまで私の見立てですが」


 それは、あの勇者……のような人物のことを言っているのか、それとも他にそういう人がいるのか。ともかく、もしそんな相手が闘技戦に出てきたら、うちのクラスじゃ太刀打ちできる奴は居ないぞ。

 ソティを戦力に含めるとすれば、一応可能性はあるだろうが、逆に言えばそのぐらいだ。


 まぁ、個人戦には俺が出るし、八割方平気だと思っていいだろう。

 流石にそう簡単に俺より強いやつは……多分居ないはず。そうであると信じたい。

 そうでないなら……また鍛えるだけだ。レベリングだけでなく、スキルの補助を無くした状態での技術とか。





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