第46話 久々の休日



 何度も言うが、万が一を考えたら怖い。等級幻想級ファンタズムなんて今まで見たことがないのだ。聖剣を超えるなんて言われれば、警戒もしたくなる。

 それを言えば、そもそも何故あの迷宮にこんな曰く付きの魔剣があったのか不思議なのだが、もしやダンジョンコアを使えば、そういう武器も作りたい放題、ということなのだろうか。


 そうだとしたら恐ろしくも頼もしいが、今の問題はこの魔剣に俺が対抗できるかどうかなのだ。


 そのために、乗っ取られないようにする準備と、万が一乗っ取られた場合の対応策を用意しておかなければならない。

 危機的状況をあまり感じ得ない今だからこそ、むしろ慎重になる。


 「取り敢えずは、場所の確保か」


 無詠唱で『次元の壁ディメンションウォール』を発動し、1つの空間を作りだす。まずは物理的に外界との接触を断つ。

 なお、珍しく手加減はしていない。今この壁を壊せるとしたら、俺自身ぐらいのものだろう。最上級魔法を何発打たれようが、傷一つ付きはしない。


 そんな『次元の壁ディメンションウォール』の部屋の中。もちろん警戒しているのは内側からの攻撃であり、外からの攻撃は計算に入れていない。(結局何も変わらないが)


 更に気休めかもしれないが、『神の縛鎖グレイプニル』を発動しておく。

 光系の魔法は"魔"という存在に対して強い特攻能力を持っている。魔物に対しても基本的に効きやすい。『神の縛鎖グレイプニル』は特に、『魔を封じる力』とも言うべき魔法のため、魔剣に対して有効となる可能性もあるだろう。

 

 ちなみに、攻撃系の魔法にするか迷ったが、別に破壊することが目的ではないため、あくまで拘束系の魔法である『神の縛鎖グレイプニル』を選んだ。 


 これは、魔剣を拘束する他に……俺が乗っ取られた時、俺自身をも拘束するようになっている。

 だから今回は全力だ。俺自身に魔法をかける可能性があるのだから、全力で魔法を行使するに決まっている。

 こう言ってはなんだが、俺の行動を封じるぐらいなら、街を1つ破壊する方が楽な気もする。


 単純な防御力ではなく、俺は魔法の無効化、属性の変更、魔法の所有権の剥奪など、とにかく厄介な能力を持っている。

 

 それらはスキルの力ではなく、俺の技術力によってなしえているため、俺という肉体を手に入れた程度では使いこなせないだろうが、それでも[魔力支配]のスキルのせいで、超一流の魔力操作技能がある。


 もし俺が悪役だったら、俺を倒すには、俺と同等の力を持ったやつを2人(1人だと膠着する)連れてくるか、もしくは『問答無用で相手を殺す』ぐらいの力を持ってないと、無理だろう。

 まぁ、それでも一度〃〃死ぬだけ〃〃〃〃だろうが。


 「頭痛くなってくるな、ホント」


 本当なら俺自身のステータスを完全に封印するぐらいのことはしたいが、それをすれば魔剣に勝てる可能性が低くなる。

 しかしそうしないと魔剣に乗っ取られたあとが大変になる可能性がある。


 まぁ、魔剣に勝てばいいのだ。とにかく。それ以上のこと考えても仕方ない。


 最強の壁と、最強の拘束具は揃えた。俺が意識を失う、もしくは『夜栄刀哉』の人格が無くなることを条件に発動する、対象となった相手の意思とは無関係に決められた動きをするという魔法『操人形マリオネット』も仕掛けた。


 本当なら魔力を同調させて魔法を使えなくする、という俺の得意技も使いたかったが、何分相手が俺自身じゃこれも使えない。

 俺の魔力で俺の魔法を封じることは出来ないだろう。魔力の操作はともかく、魔力の質は、肉体の方に依存しているのだろうから。

 俺の魔力で満たしたところで、意味は無い。


 「逆に言えば、やれることはやった、という所か」


 探せばもっと他にもやりようがあるだろう。魔剣を破壊することを決めて、何かあったら直ぐに魔法で粉砕できるようにすることも可能だ。

 しかし、俺はそれをしないでいた。こんなにも考えていることからわかる通り、魔剣を甘く見ているのではなく、一応乗っ取られたあと、俺が再度体の所有権を奪取することが可能であると考えているからだ。


 論理的な、理由があっての思考ではなく、それは直感に近いものだった。できるような気がする、なんていう。

 だが、俺は俺自身の直感を割と信頼している。だからこそ、再度チャンスがあることを見込んで、破壊はしないのだ。


 それは、ここに来ての慢心かもしれない。でもなんだかんだ俺は、毎回最後にこういう考えが来る。

 ようは、最終的には単なる直感に頼るというのか、途中まで慎重のくせに、いざ準備がある程度終わると、途端にポジティブな直感が働き出して、それに身を委ねるのだ。


 もしかしたらそれは、[未来視]や[星読み]の、未来を覗く副作用なのかもしれない。[禁忌眼]や【瞬間理解パターンスタンディング】の影響かもしれない。使ってこそいないが、そういうのが大まかに俺に教えてくれている可能性も、否定はできないのだ。

 根拠はない。無いのだが、問題ない。そうとしか言えないのだから仕方ない。


 「まどろっこしい思考は終わりだ。さっさと魔剣を取って、一度帰ろう」


 せっかくの休日を魔剣だけに費やすわけにはいかない。今日休めなければ次の休日はまた五日後だ。過ぎてしまえばあっという間でも、過ぎる前までは長い。


 再度準備が出来たことを確認してから、俺は『無限収納インベントリ』を発動する。


 「………」


 思えば、数週間『無限収納インベントリ』に入れたままでいたな。

 まぁ、他にも入れたまま出してないのとか、割とあるが。愛着があるとか言って持ってきた物置小屋の残骸とか、まだ飲んでない魔石とか。


 今回を機に、一度『無限収納インベントリ』の中を整備してみるのもいいかもしれないな。


 「……『無限収納インベントリ』」


 珍しく無詠唱ではなく詠唱破棄で唱えた俺は、『無限収納インベントリ』から魔剣ティソティウスを、離れた位置に取り出した。

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