第27話 一時休憩

 明日はちょっと投稿できないのですが、申し訳ない……


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 「ふむ……弱い、な」

 「何を上から目線で言っている。感じが悪いぞ」

 「いやぁ、ちょっと言ってみたかったのさ。こう、強キャラ感出るでしょ?」

 「すまない、意味がわからない」


 椅子に座りながら、俺は授業中の生徒達の様子を見て、それっぽく言ってみる。

 隣では、鼻を赤くした拓磨が理解できないという表情で俺を見ていた。


 先程勢いよく踏み込んできた拓磨だが、そもそもこいつの残り魔力は僅かだったのだ。魔力枯渇から脱したとはいえ、その僅かな魔力を返した程度では復帰には至っておらず、俺が攻撃を避けると、あっさりと踏ん張りがつかずに地面にダイブしてしまったわけだ。


 プライドからだろう、あえて何も無かったかのように振る舞うので、俺も何も言わなかった。


 俺が"夜栄刀哉"でいれば、恐らく笑い飛ばせていたんだろうな。だが、イブという容姿になっているからか、俺自身、普段より少し距離を置いている気がする。

 それでも、相手からしたら随分馴れ馴れしいだろうが。


 現在俺達は、白熱した戦いを終えたあとということで、休憩中だ。俺はともかく、拓磨は万全ではないため、正しい判断だろう。


 あれだけずっと『神の縛鎖グレイプニル』を維持していたのだ。魔力だけでなく、精神的に疲労もしているのではないか。

 『神の縛鎖グレイプニル』はあくまで拘束用。追尾して捉えると言うよりは、ここぞという瞬間にのみ発動する魔法であって、常時出しておくものでは無い。

 長時間使用できたのは、そのレベルには見合わぬ膨大な魔力と、それを維持する精神力によるものだ。


 拓磨の顔に浮かぶ隠しきれない疲労も、仕方の無いものだ。


 「ところで、2ついいか?」

 「ん? なに? というか2つ?」


 ふと、話すタイミングを見計らっていたのであろう拓磨が、怪訝な顔をした。俺は心当たりがない、という訳でもないので、聞く体勢に。


 「あぁ。1つは、先程の試合で使っていた『対抗魔法カウンタースペル』とやら。あれは、本物か?」

 「それは企業秘密だなぁ。俺の手の内に関わるから」

 「そうか……」


 ちなみに『対抗魔法カウンタースペル』なんて言う魔法はないし、作ってもいない。あれはどちらかと言えば、魔法が当たる寸前に、反射しただけに過ぎないのだ。

 だから、『魔力反射マジックリフレクト』の方が正確にはあっている。無効化よりもさらに厄介だろうが。


 「分かった。なら、もう1つ。先程の勝負、何故わざわざ俺から魔力を奪うなんて真似をした?」

 「何故って言うのは、何? 単純に隙があったからだけど」

 「違う。土煙の中俺に近づき、魔力を奪い、そして元の場所に戻り……あたかも、俺が勝手に魔力枯渇で負けたかのような構図を作りだした。それは何故だと聞いている。勝つだけなら、あの瞬間俺に剣を突きつけることも出来ただろうに」


 ふむ、何故か……。


 「勝ち誇るのならばともかく、お前はそうせず、ただ自分は魔法を喰らっただけであると見せた。あくまで自分が何かしたのではなく、俺が勝手に負けたと。まるで自分の評価をこれ以上あげないようにしているかのようだ」

 「でも、自分で言うのもなんだけど、周りからは『クラス1だ!』なんて言われちゃってるよ?」

 「そうだ。だからこそ、思うのだ」


 拓磨は訝しみを深めた視線を送ってくる。


 「こう言ってはなんだが、裏があるんじゃないかと思えてくる」

 「やだなぁ、そんなものは無いよ」

 「教官との話も、俺は聞いていたぞ?」

 「ハハ、ちゃんと意識は失ってくれよっ」

 「なんだそのツッコミは」


 キャラ崩壊しそうになってきたので、拓磨のその言葉に俺は一度咳払いで返す。


 「簡単に言えば、実力を隠すため、かな?」

 「実力を隠す?」

 「そうそう。拓磨だって、ちょっと嫌味な言い方だけど、俺が手加減してたの分かったでしょ?」

 「それは、まぁ……」


 拓磨の返答は歯切れが悪い。これは、認めるのが癪なのではなく、単純に疑問に思っている部分があるからだろう。


 「だがそれなら、俺に勝つよりも、負けた方が良かったんじゃないか?」

 「まぁそう思うよね? でも俺、プライド高いから。負けず嫌いだし」

 「………」

 「睨まないでよ。本気の冗談だから」

 「それはどっちなんだ……」

 

 呆れの声は、やはり聞き慣れたものだ。

 既ににこやかに笑っている顔が、別の意味で綻ぶ。無論、笑っているところに笑いが入っても、第三者から見れば分かるはずもないが。


 「正直言うと、俺の実力を隠すっていうのは、本来より実力を低く見せたいっていう意味だけであって、他者より弱く居たいってわけじゃないんだ。だから、勝ちながら、かつ普通に勝ったよりも低い評価を与えたかったんだ」

 「はぁ……正直、お前の言うところは全く理解できないのだが」

 「それでいいと思うよ。俺も話してて、ややこしいことしてるなって思ってる」


 肩を竦めて、自分自身に対してヤレヤレとため息をつく。拓磨は俺の事を胡散臭げに見てくるが、俺はそれを気にせず続ける。


 「正確に言うなら、俺の実力を曖昧にしておきたいんだよ。拓磨が魔力枯渇で倒れたことにすれば、俺はたまたま魔法を耐え切って勝った、という可能性が残るだろ? 流石に俺がなんの防御もしなかったって言うのは誰も信じないだろうけど」

 「俺も信じていない」

 「それは良かった」


 ……なんだ今の会話。

 まぁ、あの攻撃を何もせずに防いだわけがない、という思考が、真実から遠ざけてくれる。きっと何かしたに違いないというのは、俺があの魔法を防げるだけの手段を有しているという、実力の上方修正のようなものだが。


 本当に何もしていないのだから、笑う以外にない。俺だって耐性系スキルがどこまで通用するか試して見たかっただけなのに、無傷で済むとは思わなかったのだ。

 知らないうちに、スキルとは関係なく魔法に対する防御力が高くなったのか。


 「俺が欲しいのは、その可能性だけでいいんだよ。剣術では少なくとも拓磨と拮抗してた、自己紹介の時は魔法は全属性が使えると宣言した、そして最上級魔法を喰らって無傷だった……でも、そんな俺だけど、実際拓磨に与えたダメージは、剣戟の最中に与えた、たった一発の蹴り程度だ。そんなんじゃ、『勝利』というには些か言い切れない。『もしかしたらまぐれなのでは』という、少ない疑念が出てくると思う」

 「負けた身としては、何とも言えんな」

 「ゴメンって、意地悪をしているわけじゃないんだよ。多分、そのうち熱が冷めた頃には、俺と拓磨は良くて実力が拮抗している、なんて思われるんじゃないかな……このまま何もしなければね」

 「何故そう含む?」

 「さぁ、なんでだろうね」


 笑いながら、俺は話すことは話したとばかりに視線を生徒達に戻した。


 何せこれは建前に過ぎない。実力を本気で隠すつもりなら、なりふり構わず魔法を使用すればいいのだ。

 俺なら、この場全員の意識に介入できるし、認識に変化を加えることも出来る。俺が全力を出したところで、それはおかしいものでは無い、なんていう認識を植えつければ、不審に思われることも無くなるのだから。


 だから、これはただのロールプレイ。俺が異世界を楽しむために行っている、演技。

 ここぞという所で拓磨達に正体を明かし、心を揺れ動かす展開を作りたいという、自分勝手な行動。

 

 ずっと前から、それこそ召喚された時から、不謹慎にも俺は、この世界を楽しんでいる。地球に帰りたいという気持ちはあるが、この世界での新たな出会いには、抗いがたい魅力がある。 

 妹達が俺のこんな思いを知れば、流石に平手打ちのひとつでも飛んできそうな気がするな。


 俺は、思考を断ち切るように、拓磨へと話を振る。


 「それで、今度は俺の方から質問させてもらっていいかな?」

 「俺はまだ納得してないが……ま、構わない」

 「ありがと。クラスの人についてなんだけど、ちょっと教えて欲しいことがあって」


 目論見通り、俺の思考はすぐに戻ってきた。

 

 これみよがしに視線を向けた先、そこには一人の少女が居た。

 周囲が二人でいる中、一人だけというのは些か目立つものだった。その、刺々しいというか、周囲を拒絶するような雰囲気が、余計に俺の目にとまる。

 と同時に、すぐに、先程一人で教室を出ていったのと同一人物であるとも気づいた。


 「ん? あぁ……俺も良くは分からないのだが、誰とも話さないような人物らしいな。名前はリーゼロッテ、だったか」

 「それだけ?」

 「俺もなんだかんだ言ってここに来たばかりだ。わからないことも多いぞ」

 「そっか、悪かったね。でも、なるほど……」

 「気になるのか?」

 「そうだね、可愛い子だなって思ってさ」

 「……面食いという言葉を知っているか?」

 「もちろん、麺は美味しいよね」


 すると、拓磨の目が一瞬細まり、ついで呆れたとばかりにため息を吐いた。


 「ナンパするなら、俺の目が届かない場所でしてくれ」

 「まさか! 俺はそんなことをするような男じゃないって」


 肩を竦めて笑うと、再度呆れたようにため息が吐かれた。


 

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