第9話 気絶

 お久しぶり、最近また前書き書かなくなってきましたね……。


 今回ちょい短めなので、ご了承です。


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 俺が学校へ行くのを明明後日にした理由は、ルナ達の訓練があるから……では無い。

 

 「かくかくしかじかな訳で、もしかしたら倒れるかもしれないんだよね」

 「いや、意味わかんないし」


 そりゃそうだ。かくかくしかじかとしか言ってないし。

 何言ってんのと言う顔をするルナと、困惑するミレディ。


 「俺がずっとしてるこの指輪、あるでしょ? これ、簡単に言うとステータスを制限する指輪なんだけどね」


 俺は、右手に付けている[過負荷の指輪]を見せる。


 「へぇ……恋人でもいるのかと思ったわ」

 「だったら左手薬指に……いや、それは結婚だし、恋人の段階で指輪はなかなか付けないだろ」


 結婚指輪、婚約指輪、なんにせよわざわざ右手につけているのは、誤解されないようにするためなのだが。

 「ふぅん」と興味なさげにしているルナだが、謎が解けてスッキリしたのだろうか、2人共どこかホッとしている感じがした。


 「まぁいいけど。それで?」

 「この指輪付けてると、レベルが上がらないんだよね。だから外そうと思ってるんだ」

 「外したら一気にレベル上がるとか?」

 「そう信じてるけど……もし一気にレベル上がったら、反動とか来そうかなと思って。だから、ルナとミレディには、俺が倒れたりしたらベッドに寝かせて欲しいんだ」

 「は、はぃ、大丈夫、です……」

 「そうですか……まぁいいけどさ」


 2人からしたら、いきなりすぎて話についていけない感じだろう。いや、ルナは理解はできているかな。

 

 まぁ、というわけで、俺が明明後日に指定したのは、『過負荷の指輪』を外したら、一気にレベルの上がる反動で寝込む可能性があるからだ。

 根拠も何も無い予想でしかない。何となく、力が一気につくというのは反動がありそうだ、というものだけだ。


 ようは、筋肉痛の強力バージョンとでも言うべきか。そんなものがあるのではないかと思うと、念には念を入れたくなる。

 もしレベルが上がるようなら、恐らく相当経験値を溜め込んでいるはずで、それはそれは今とは比較にならない強さになるだろう。


 ……現時点でも、ステータスを完全解放したことがないため、今の本気がどの程度なのかはわからないが。


 「じゃあ、とりあえず取ってみるかな」

 「はいはい、どうぞ~」


 強烈な激痛が襲ってきたらという恐怖は、無い。門真君達と会う前の少しの期間で、痛みは克服済みだ。

 いや、まぁ痛いものは痛いのだが、それで思考が停止したり、のたうち回ったりなんてことは既に無くなった。少なくとも、物理的な痛みはほぼ問題ないはず。


 スキルの成果ではなく、俺の自己暗示によるものだ。痛みに強いだけで、怪我をすれば動きは肉体的に鈍るし、血が足りなくなれば頭も回らなくなるが、それだけだ。


 痛みと言うより、恐怖を克服したと言ってもいいかもしれない。


 だから、指輪を外すのも、俺は臆することなどない。


 指から指輪を外そうとすると、まるで弾くように電撃が走った。だが、それほど強い抵抗ではなく、俺はそれを無視して指輪を手に取る。

 意思の一つでステータスの制限を緩めることは出来るが、完全に解除するためには指輪を直接外さなければならない。電撃が走った理由はわからないが、外すと決めた以上、指が弾けることになろうがとりあえずは外してみる。


 まるで指に吸着しているように引っ付いている指輪を、俺は力を入れて少しずつずらしていく。

 第二関節から第一関節までどうにかずらした途端、まるで急に摩擦が無くなったように、ポンと指輪が指から外れた。


 「……あの、大丈夫ですか?」

 「うん、特には問題なさそうだけど……」

 「はぁ〜なんかこっちが緊張したわ」


 見守っていたミレディが恐る恐る聞いてきたが、数秒経っても特に体に変化はない。

 結局反動なんてものは無かったようだと、ミレディを安心させるために手を伸ばす────。


 「───あれ?」


 ミレディの頭に向けたはずなのに、何故か見当違いの場所に伸ばされていた手は空を切り、視界がグラリと傾いた。


 突然のことに出た困惑の声。脚の感覚がなくなり、力が抜け、前のめりに倒れる。


 「きゃあっ!?」

 「わっ、ご、ご主人様!? ミレディっ!?」

 

 ミレディの悲鳴と、焦ったようなルナの声が聞こえてくるが、口が上手く動かない。

 魔法で無理やり体を動かそうとするが、魔力の操作が思うようにできず、そのせいか段々と意識が薄れていく。


 俺の体の下で、下敷きになってしまったミレディがバタバタと動く。だが、俺は自力で退くことが出来ない。


 「ご主人様っ!! ねぇってば!!」

 「大丈夫ですかっ!?」


 2人の声が、近くのはずなのに、遠くに聞こえる。大きい声量なのに、小さい。


 ───いやホント、せめて倒れるなら一瞬で意識を失ってくれよ。


 心の中で、俺はせめてもの平静を保つためにそう愚痴ると同時に、視界はブラックアウトした。

 



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