第65話 女性関係の誤解は男性が圧倒的に不利

 しれっと二話目を投稿……え、なんでかって?


 ……昨日投稿忘れたからだよ言わせんな恥ずかしい!(忘れて申し訳ありませんでした)


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 「と、とととトウヤさん、この子は一体……」

 「こっちの子がルナ、こっちがミレディだよ」

 「ご主人様、この人は?」

 「同居人のクロエちゃんだ」


 俺は微笑を絶やさずにお互いを紹介した。

 ルナからの視線は相変わらず冷たい。

 クロエちゃんは若干目を回して、状況が飲み込めていない様子。


 微笑は早くにして、引き攣った笑みへと変わりそうになっていた。


 「ルナとミレディは訳あって俺の奴隷なんだ。クロエちゃんが驚くのも無理はない」

 「ど、奴隷? トウヤさんが幼い子を奴隷に……?」

 「ごめん、そこだけ切り取らないでくれるかな。多大な誤解を招きそうだから」


 混乱しているクロエちゃんに俺の言葉が届くはずもない。何度も言い聞かせるのではなく、俺は多少の放置を決め込んだ。


 「ご主人様、同居人がなんでこんな美人さんなの……?」

 「クロエちゃんは、不良に絡まれてたところを俺が助けてね、行くあてがないって言うんで現在は俺の部屋に泊めてるんだ。丁度最近は部屋が満員で、空き部屋がなかったらしくてね」

 「つまり、お持ち帰りしたんだ……最っ低」


 小声で呟かれた一言が、俺の胸にグサリと突き刺さる。

 なんというか、そそる……ではなく、前半の部分も誤解を招く言い方だ。

 俺は手を出していないし、出すつもりもないのだが、それを証明するのはとても難しい。


 とはいえ、ルナがもっとこちらの言い分すら聞かずにって感じだったら俺も手を焼いたが、どうやら一応話は聞く態度のようだ。

 奴隷として立場をわきまえているのだろうか? そう考えると少し寂しいような悲しいような気がするけど、今はありがたい。


 「一応言っておくけどね、クロエちゃんとはそういう関係じゃないから」

 「年頃の男女がお、同じ部屋に暮らしてるのよ? そんなの信じられない!!」

 「とと、トウヤさん、こんな子を奴隷にして一体何をするつもりなんですか……?」

 「何をさせるつもりもないよ。ちょっと訳があって奴隷にしただけだから、手元に置いておくだけ」

 「つまり、コレクション……」


 うん、言い方悪いし、2人同時に話されると対応が難しいからやめてね。

 どんどん状況が悪化していくような気がするのは気のせいか。実は墓穴を掘っているのだろうか。


 そうか、手元に置いておくだけというのがいけなかったのか。確かに少し悪い言い方だな。反省。


 「そう、2人を奴隷から助けたって感じかな。だから俺はこの2人を奴隷として扱うつもりは無いよ。ホントだよ」

 「そう……なんですか?」


 なんで首を傾げるんだ。何故疑問符なんだ。


 「取り敢えず、そういうことだから。理解したね? というか、理解してくれ。ルナもね」

 「は、はぁ……」

 「ご主人様、全っ然信用出来ないんだけど」


 どうやらルナの信頼を底に落としてしまったらしい。蔑むような視線が。

 苦笑いを向けると、ぷいっと顔を逸らす。まぁ、長引くことは無いだろう。

 ルナは俺に恩を感じてるはずだし、奴隷のシステム上、庇護者である俺がいなければいけない。

 そもそもミレディが居る以上、俺に明らかな敵意は向かせられないはずだしね。


 ……特に黒い思考がしたい訳じゃなく、言いたいのは心の底から嫌われることはないと思うってことなのだが、明らかに悪者視点です。


 「ま、そういう事だからね。うん。俺今夜は用事があるからもう行くよ。じゃ」

 「あ、ちょ、逃げるつもり!?」

 「え、えぇ!?」

 

 ルナの視線に耐えきれなくなり、宿屋の窓をガラガラと開けて、俺は聞こえてくる声を背中に浴びながら飛び降りた。


 脳裏に一瞬、クロエちゃんが追ってくる可能性が過ぎったが、流石に追ってくることは無かった。

 親が親だっただけに、まだクロエちゃん実は常人より強い説が残ってるからね。もし追われたりしていたら、恥ずかしくて死にたくなるだろうが、幸いだったという所か。


 


 ◆◇◆


 

 

 『用事』というのは言うまでもなく逃げ出すための口実で、外に飛び出した俺は、さてどこに行くかと立ち竦んでいた。


 迷宮は、今日は遠慮したい気分だった。

 とはいえ街の散策はあらかた済ましている。この前にスラムに行ったので、まだ行ってないところとしたら、王城くらいのものだ。


 「……あ、じゃあ王城行くか」


 何を悩んでいたのだとばかりに、俺は呟く。


 普通に考えたら、王城に無許可で入るなど犯罪行為で、さらに言えば王城に入るという選択肢すら浮かんでこない。

 だが、この世界に来て常識が鈍っているらしい俺は、それに気づくことなく王城へと移動を始める。


 王城に行くのも、無意味ではない。なんせ王城には図書館がある(はず)。他の場所にある図書館とは比にならない蔵書量だ。

 [完全記憶]があるため、本の内容を覚えるのが以前より楽しくなった俺は、地球の頃とは比べ物にならないほど知識欲が高くなっている。


 想像して欲しい。短時間で教科書一冊分の知識を復習いらずで覚えられ、テストで堂々余裕の全教科満点をとる様子を。

 一夜漬けとは違う。鮮明かつ、恒久的に知識を頭に蓄えることが出来る。

 そんなの、楽しいに決まっている。 


 ───最近は当たり前のように感じていたが、改めて考えると、やっぱりまた本を読みたくなってくるな。


 「ま、そこは実際に行って解決ってことで」


 いたずらっ子のような笑みを浮かべていることを自覚しながら、俺は呟く。


 現在はショートカットに屋根の上を走っているが、何故この街の建物は屋根の高さが同じなのか。

 統一性を持たせることで国の特色を表している……というのは表向きで、コストを下げている可能性もある。

 同じ建物を量産する方が、異なる建物を建てるより金も手間もかからないだろうことは、そう考えなくともわかる。


 まぁ、走りやすいので是非もないが、これも地球と照らし合わせれば、非常識もいいとこだろう。

 同様に、そこまで自覚することも無かったが。


 障害物のない建物の上を、[神速移動]のスキルを解除しての移動することにより、俺は王城までの最短距離を高速で詰めていた。

 動きが速くなればその分高い知覚速度を求められるが、生憎とその分野は俺の十八番だ。

 

 程なくして、俺は王城前の塀に着いた。


 「ここからは潜入ミッションか……」


 俺は小さく零して、スキルの封印を解除した。

 素の隠行能力も俺は結構優れていると自負しているが、流石に王城という場所でそれを試す気にはなれない。

 

 僅かに残った常識が歯止めをしたらしいが、それでも王城潜入という常識外れ(無茶ではない)な行為を止めるという考えには至らなかった。



 鮮やかな手口で、俺は音もなく塀を乗り越える。

 塀には、触れたり塀の上を通ると、離れた場所にある警報装置みたいな魔道具が反応するという魔法がかけられていたのだが、お馴染みである魔力同調による魔法の無効化で通らせてもらった。

 [禁忌眼]でも魔法の詳細を鑑定することは可能だが、魔力を同調して解析すれば、この程度のことは調べられる。


 魔力って本当に万能だと思いつつ、王城の敷地内へ。


 ルサイアでは、隠密部隊が隠れて城の警備を行っていたが、ここはどうやら騎士が巡回をしているようだ。

 俺としてはどちらでも構わないので、どうでもいいことなのだが。


 気配から王城全域の騎士の数や場所を特定し、スキルによる[千里眼]を様々な場所に複数同時に発動して、王城の内装の把握をする。

 もちろん生半可な思考能力じゃ、[千里眼]を二つ以上同時に使うなんて無理だ。自前で並列思考が無いとな。


 図書館らしき場所は、王城二階の東側通路に存在する。今回は別に盗みに来たりした訳では無いので、図書館を見つけた時点でそれ以上の[千里眼]の使用を控えた。


 壁沿いに歩き、最寄りの窓から中へと入る。

 勿論鍵がかかっていたが、窓越しに内側を視認することで、『視認転移ショートジャンプ』によって内側へと入り込んだのだ。


 ちなみに[千里眼]と『転移テレポート』のコンボで、一瞬で図書館に行くことは可能だが、それだと経験的なものが集まらなそうなので、敢えてこうやって侵入している。


 「さて、行きますか」


 王城という、国の中でも最高警備の場所に入り込んでいるとは思えないような、軽い口調と共に廊下を歩く。

 王城だからか、この時間帯にもかかわらず中は明るい。頭上にある照明の光を、煌びやかな装飾品が反射していた。


 何故こう権力者や金持ちはキラキラしたものが好きなのか。感性が変わってくるのか、そういう風潮があるのか。

 兎にも角にも、庶民には理解できないものであり、それでも綺麗だなとは思う。


 そう言えば、ルサイアの王城は夜はしっかり照明が消えていたイメージなのだが、実際どうなのだろうか。

 そもそも沢山人が居るならホテルのように一日中付いているだろうし、そうでないなら消す。


 いや、メイドや執事もいるのだから、やはりずっと付けている方がいいのか。


 ……とまぁ、そんなどうでもいいことは置いておこうか。何故こうも要らんことを考えてしまうのか。


 勿論、思考がそれだけに占有されることは無い。しっかりと城内の騎士、メイドや執事達の動きを把握しており、それに合わせて見つからないように俺は進んでいる。


 迷路のような通路が味方となり、様々なルートがある廊下を俺は巧みに移動し、人目をかいくぐる。

 その結果、一度も見つかることは無く目的の場まで来ることが出来た。


 「失礼しまーす」


 声を出しているのは、図書館内に予め人がいないことを確認していたからだ。

 他のところで声を出していたのは、単純に油断から出てしまっただけであるというのは内緒だ。


 廊下と違い、誰もいない図書館は明かりが付いていない。

 最近はファンタジー世界にいるせいか、霊的な存在に対して全くと言っていいほど恐怖を感じなくなっているが、それでも雰囲気による薄気味悪さは残る。


 「まぁ、大丈夫だとは思うけど」


 それでも、何があろうと自身の力があれば問題ないとは思えた。

 今この瞬間、例えば本棚が急に倒れてきたとしても、俺は咄嗟に本棚を支え、魔法で本が落ちないようにすることも可能だろう。

 例え猛スピードでナニカが追いかけてきたとしても、[千里眼]と『転移テレポート』のコンボを使えば、一瞬で人が沢山いる場所に移動が可能だ。


 それを思えば、怖がることの方が難しいと理解できる。


 俺は暗闇の中、本棚の本に目を走らせていく。

 夜目が効くというか、光がないのにも関わらず、俺の目には鮮明に本の背表紙の文字が見えていた。


 地球では、暗視ゴーグルとかだと緑色や白黒になって視界を確保することが出来るが、そういう訳では無い。薄暗いと感じるだけで、少し集中すると、何故かしっかりと色の識別が可能だ。

 光が無ければ色も反射しないと思うのだが、何かのスキルの補正なのだろうか。


 まぁ便利なので、ふと思った程度の考察は程々に、俺は未見の本をその場で取り出して、平均5秒ほどで内容を一言一句頭に叩き込んでいく。


 そう言えば、こちらもふと思い出したのだが、地球での技術としての『速読』は、こう、読み飛ばしみたいなことを言うらしい。

 要は、『私は散歩が好きだ』という文章があれば、『私・散歩・好き』みたいな感じで、単語を区切って大雑把に読むらしく、普通の人が読んでいるのをただ高速にしたという意味ではないようだ。

 速読という言葉の定義かどうかは知らないが。


 まぁ、勿論個人差はあるだろう。中には、読み飛ばしではなく、単純に高速で1文字1文字読んでいる人もいるだろうしな。


 俺の場合も1文字1文字しっかり読んで、それを記憶している感じだ。

 それを高速でやると、ただ本の端を持って、パラパラ漫画を見ているかのような速度で本を捲ることになる。


 こう、傍から見たらそもそもページが見えてないのではと思われそうだが、俺にはしっかりと1ページ毎の内容が読めるのだ。

 何故読めるのかと言われても、読めるからとしかいいようがない。ほら、音ゲーとかだって、スピードマックスでやってる人を傍から見てたら『なんで見えるの!?』となるが、本人は『慣れ』としか答えようがないみたいな。


 そのくせ、音ゲーやってる時以外だとそこまで動体視力とか知覚速度がいい訳では無いっていうのもしばしば。


 まぁその結果、俺が本棚一つを制覇するのには10分もかからなかった。

 それには読書スピード以外にも、未見の本が思いの外少なかったという理由もある。


 まぁ、もしかしたら今晩中にこの図書館を制覇できるかもしれないな、なんてことを考えつつ、新たな本棚へと向かう。


 高速で本を読みつつ、どうでもいい思考をしながら索敵もして、俺はそれでもまだ余裕であった。


 最早人間業ではない気がしてきたのは、本当に気のせいだと信じたい。


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