第64話 万能故の悩み
どぞ。
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「さて、まぁ取り敢えず、暫くは俺の身の回りの世話……も宿だから特にすることないな」
「あの、アタシ達要らない子? なんかやることがないと捨てられそうで怖いんだけど」
「その心配はないけど……戦闘とか、出来ないよね?」
「ご主人様が仲間の成長を促すチートを持ってればワンチャン!」
「持ってないからゴメンね」
俺は[指導]とか以外は全部自分の強化系なんだ。
というか、それが当たり前なんだけどね。でも確かに仲間の成長を促すチートとかも欲しいっちゃ欲しいけど。
精々がパワーレベリングぐらいだな。
「まぁ、せめてやってもらうとしたら生産かなぁ。鍛冶とか出来ない?」
「そんな知識持ってないからできない」
この世界の鍛冶は、魔法も組み込んでたりするから、確かに難しいかもな。
俺も金属熱して叩けとしか言えないし、スキルの効果を期待するのも難しいか。
「……本当に、なにもすることがないの?」
「その、そんな悲しい顔をしないでくれるかな? 君たちが悪いんじゃなくて、どっちかって言うと俺が万能なのが悪いからね」
「嫌味にしか聞こえないんだけど!」
オタクの件で開き直ったからか、活発さがでてきたか。
にしても、スキルの取得条件が緩すぎるのも困った。自分でなんでもできてしまうのは、役に立つ時もあるけど、一方で他人を困らせるな。
まぁ今の場合だと、宿に寝泊まりしてもらってるからやってもらうことがないってのだけど。
「俺が個人宅を買ったりしてたら、メイドという形で働いてもらえたんだけど……」
難しいものだな。軽い気持ちで奴隷として買ったが。
「女子しかできないこととか、無いかな……」
「………ご主人様、何もやることがないからと言って、流石にアタシ
「……いや、何想像してるのホント。俺にできないことが、本当にそれくらいしかないなと思ったんだよ。そういう意味で言ったわけじゃない」
確かに女子
頭の中女子大生かよ。いや、前世は19だから、本当に女子大生の可能性ありか。
「ま、一旦保留にしようか」
「思考放棄!?」
失礼な、一応最終手段はあるさ。少しラウラちゃんに迷惑がかかるかもしれないから最終手段だけど。
「話を変えて悪いんだけど、まだ聞きたいことはあるんだ」
「まぁ、いいけど。何? アタシが知ってることならなんでも答えるよ。奴隷だから」
「最後の一言はいらないよ」
流石に奴隷を奴隷として扱えるほど、俺は落ちぶれていないと思う。
この世界じゃ普通だとしても、奴隷って単語だけでネガティブだからな。
「それで何?」
「答えたくないなら構わないんだけど、奴隷になった理由」
俺は率直に聞いた。勿論、あまり好ましくないとわかった上でだ。
変に回りくどくすると、気を遣われているとルナは思うだろう。それはいけないのだ。だから、逆に無神経とも思えるように発言した。
嫌われたいわけじゃないから、一応最低限の気遣いは見せるつもりだけど。
そして、俺の問いに、案の定ルナは暗い顔で俯いて押し黙った。
「………」
「やっぱり、相当辛かったのね。今のは聞かなかったことにしていいよ。どうしてもって訳じゃないし」
「……ゴメンなさい、ちょっとそれは、キツいかもだから」
今は話し出せないと判断して、俺はルナにそういった。
やはり理由ぐらいは知っておきたかったのだが、難しそうだ。
「いつかケジメをつけて、ちゃんと教えるから」
「別にそこまでじゃないから、無理はしなくていいんだけど……」
ただ、ルナはルナなりに考えていたようだ。少し無理をするのは心配だが、まぁ俺がフォローすればいいか。
ちなみに魔法を使えば、恐らく記憶を覗くことも可能だと思う。接触して、ミスったら危険な魔法となりそうだが、魔力を通せばいける気はする。
ただ、本人が自分の口から語りたそうにしているので、今はやめておこうか。
決意を踏みにじる行為は、仲間内じゃ許されないからね。
やっていいのは、敵に対してだけです。
「……ねぇ、ご主人様はアタシが転生者だから奴隷にしたんだよね? それはなんで?」
「なんでって……どうして?」
「質問に質問で返さないでよ……いや、やってもらいたいことがあるから奴隷にしたんじゃないのかなって。でもそんなことないんでしょ? だけど転生者って理由だけじゃ弱くない?」
「うーん、まぁ確かにそうなんだけど。日本人ならば、広義では身内みたいなものだしね。それじゃダメ?」
「なんか納得いかなーい。こう、アタシやミレディに惚れたとかないわけ? アタシ達地球と比較すれば超が付くほどの美少女なんだけど?」
「悪いけど、どんなに可愛くても4、5歳離れてる相手をそういう目では見られないかな……」
「アタシ19だし!?」
「精神年齢でしょ。いや、精神年齢は32───」
「それ以上言うな!!」
墓穴を掘ったのを理解したのか、真っ赤な顔で叫んだルナに、俺は口を噤んだ。
残念ながら『32』と行ってしまったので手遅れといえば手遅れだが、そこはそれ、仕方ないことだ。
「さて、と……そういや寝床どうするかな?」
「アタシ床でもいいわよ。実際さっきまでは硬い床だったしね。でも、ミレディは出来ればベッドで寝かせてあげて欲しいかな。手出してもいいから」
「良くないよ。自分の妹を大事に扱いなさいな。それに、頑張れば3人で入るから、そのつもりだったんだけど……」
「あれ!? ここは奴隷とご主人様でどっちが床で寝るかの争いじゃないの!?」
いや、それクロエちゃんとやったし。
「というか普通にご主人様もベッドに入るのね……」
「手は出さないってわかり切ってるしな。俺、別にロリコンじゃないし」
「なんか失礼な言い方ー。でも、じゃあなんで悩んでるの?」
「いや、実はこの部屋ってもう一人───」
俺がクロエちゃんの存在を教えようとする。が、それと同時のことだ。
「ふぁ~、あれ? トウヤさんお帰りなんで……すか……?」
欠伸をしながら、ノックもせず部屋に入ってきたのは、丁度噂をしていたクロエちゃんであった。
───さて、ここで、現在の状況を客観的に分析してみよう。
この部屋には現在、椅子に座る俺とルナ、ベッドに横になっているミレディ、部屋の扉で立ち尽くしているクロエちゃんが居る。
クロエちゃんからしたら、安心出来る
ルナからしたら、信頼出来る
俺からしたら、そういう関係は何も無いクロエちゃんと、そういう目では絶対に見ないルナとミレディだ。
誤解を招くというのは、想像にかたくない。
「よし待とう、先に言わせてもらうと、全くの誤解だからね?」
だからこそ、俺は第一声で2人にそう言い放った。
だが、俺の先制攻撃は虚しく、ルナは氷点下の視線を容赦なく俺にあびせてきた。
そして乱入者であるクロエちゃんは……扉の前で固まっていた。
責められるのではなく、恐らく慌てふためくほうだろう。
冷静に分析した俺は、さてどう解決するかと、見えるはずもない天を仰いだ。
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