第21話 片鱗



 「凍てつけ、『絶対零度アブソリュート・ゼロ』」


 発動する魔法は、最上級水魔法『絶対零度アブソリュート・ゼロ』。『焼死地獄インフェルノ』の版だ

 

 水から派生される氷。だが言わずもがな、氷というのは火に弱いのだ

 ならなぜ、水の最上級魔法を発動しなかったのか。そちらの方が、火を相手にするには有利にも関わらずだ


 理由なんて簡単だ。相手の方が有利であるという状況を作り出した上で、その絶対的自信を叩き潰す・・・・ためだ



 激しく動き、ただひたすら熱を高めていたこの部屋に、一筋の煌めきが落ちる

 それは炎の光ではない。雪の結晶を彷彿とさせる氷が、絶え間なく動く炎の中で、反射したのだ

 その瞬間───世界の構成を文字通り塗り替える魔法が炸裂する


 動いていた炎や火柱は、その動きをピタリと止め、赤く熱を放っていた床は一瞬で温度を下げて青白く光らせる

 歪んでいた空間は、分子の運動を一切停止させ、元の光景を映し出す


 ここまでが、初期段階だ


 鎮火した炎と入れ替わるように、部屋の床、壁、天井、その全てに一瞬にして氷が這う

 そして、氷は部屋の構造だけでなく、その内側にいる魔物達までに及んだ

 抵抗する余地もなく、瞬時にして凍りつく魔物達が作り出すのは、その異形の姿からは考えられない、美しい白銀の彫像。見るものの目を奪い取ってしまうような造形美は、魔物であることを忘れてしまいそうになるほどだ

 雪の代わりにキラキラと舞う結晶が降り注ぎ、それが何かに触れた途端、そこから新たな氷山を作り上げる。その氷山は幾重にも積み重なり、空間を埋め尽くす


 そう、変化はたった一瞬だった。その一瞬で、『絶対零度アブソリュート・ゼロ』は、『焼死地獄インフェルノ』が作り上げた世界を、後手から粉砕した

 

 ただ一つも動く存在モノを許さず、全てを凍てつく氷へとじ込める魔法……それが『絶対零度アブソリュート・ゼロ

 絶え間なく動く炎で体をのたうち回らせて死ぬ『焼死地獄インフェルノ』とは、まさに正反対の魔法である


 地獄の炎と極寒の氷。本来なら氷は炎に包まれて水となって蒸発するかもしれない。通常なら、既にピークの威力を発している『焼死地獄インフェルノ』に一瞬でかき消されていたかもしれない

 だが、魔法の構成段階から、自分以外の魔法的概念を一切受け付けないようにとイメージを強めたのと、魔力の構成の緻密さ、水魔法の上である[海洋魔法]、魔力の質の高さなどなど様々な要因の下、俺は誰かもわからない魔法使いに不利な属性で勝利することが出来たのであった

 まぁ多分一番の要因は、魔力の多さだと思うが


 「ふぅ……終わったか」


 一息ついて『絶対零度アブソリュート・ゼロ』を解除すれば、魔法の効果が切れて砕け散っていく氷。作られた氷山はまるで弾かれたように破裂し、本来飛んでくるはずの氷の粒は、その全てを極小の結晶サイズまでに縮めているために、ダイヤモンドダストと言うべき光景が広がる

 美しい白銀の彫像も雪の結晶へと姿を変え、中にあった魔物の死体は、その全てを魔力へと姿を変えた


 そして唯一死体が残ったものがあるのだが、それは仮面のようなものを付けた人のような魔物。恐らくこいつがあの魔法を放ったのだろう

 鑑定してみれば、『エルダーソーサリー(死体)』と出てくる。恐らくエルスローブの上位互換、または似たような系列の魔物だと思うが[火魔法Lv.10]、他にも土と風と闇があり、何れも7か8という高レベル。[魔力操作]もレベル10であり、感知の方も9と高め

 魔法使いとしては世界最高峰に入るだろうが、それに魔物が入るかは微妙なところ。魔物は基本的に詠唱なし、つまり無詠唱で魔法を使ってくるため、魔物の方が全体的に魔法は使えこなせているという仮説は、既に立証されているらしい

 ちなみに仮面は取れない。というか、それが顔のようだ

 

 後、未だに謎なのだが、レベル10って何?俺レベル10のスキル一つも無いんだが。今のところ全てスキルは進化してるんだが

 まぁ、中にはネタ切れだったのか進化しても[超〇〇]てな感じで、とりあえず超を付けとけみたいなのもあるが


 死体が消える前に『無限収納インベントリ』へと収納すると、合わせるように宝箱が出現する


 「今回はちょっと危なかったところもあるし、戦力強化系が欲しいんだが……」


 心なしかいつもより豪華に感じる宝箱をニヤニヤしながら開けてみれば、中から出てきたのは指輪だった


 「いやまぁ、アクセサリーなら常に身につけてられるが……」


 見た目は、龍がよじれたような形をしており、自身の尻尾に噛み付いているのだろうか?そんな感じ

 ただ少し微妙な感じだ。何せ前も指輪だったのだ


 まぁ、見た目の考察よりも、素直に鑑定してみますか



─────────────────────


 智龍の指輪


 本来『武』と『智』を司る二体の龍がお互いを喰らい合う指輪であったが、あることによりバラバラになり、一体になってしまった。孤独に自身の尻尾に噛み付く姿は憐れみを誘う

 魔法に関する様々な要因を強化する効果が備わっているが、一体となった事で効果は減少している。対となる指輪を引き寄せる



 特殊効果

 【分離】【共鳴】【魔力操作強化】【魔力感知強化】【魔力隠蔽強化】【魔法効果増加】【魔力効率強化】【魔力質上昇】【魔力回復】【敵対魔法半減】【魔法創造】【属性変換】


─────────────────────


 あ~、あれねハイハイ。魔法が強化されるんですね~分かります


 「うん、嬉しいんだけどさぁ……」


 正直魔法よりもどちらかと言うと『武』の方が欲しかった。説明文からしてもう一つ、武を司る龍の指輪があるんだろうし

 魔法ははっきり言ってもう最強レベルなんだよな。影の薄い【魔眼】さんのお陰で魔力を隠蔽しようが目で見えるし、魔力の操作は元々才能があったのか上手くできるし

 魔法に関してはオール進化形態で、この時点で負けるわけが無いのだ。それに加えて、魔力消費が軽減されるスキルやら魔力の質が上昇するスキルやら魔力を回復するスキルやら、強化しすぎだっての

 この指輪だっていくつか被ってるからな。【魔力効率強化】は恐らく[魔力消費超軽減]と同系列、同じだろうし、【魔力回復】は[魔力回復]と全く名前が同じだし、被ったものはどうなんの?強化されるの?それとも重複はなし?


 まぁ一つ一つ鑑定をかけていきますと


 【分離】は本来一つのものが幾つかに分かれてしまい、真価を発揮できないというバッド効果

 【共鳴】は、ある特定の物を装備者の下へ引き付けたりするスキルだな

 【〇〇強化】は、単純に強化。重複なんか考えなくて済むからいいが、[魔力支配]でも反映されますか?

 【魔法効果増加】は、自身の使用した魔法の効果が上昇するのだと

 【魔力質上昇】【魔力回復】は被ってるが、どうやら【〇〇強化】だと思えばいいのかな?重複可だそうで

 【敵対魔法半減】は、自身に対し悪意のある魔法、攻撃的な魔法の効果を半減させるのだと。だから原理はなに?特に無いの?

 【魔法創造】は、魔法を創りやすくなるのだそうで……俺はまた魔法を創りやすくなってしまうのか?漠然としたイメージでもいけるようになるということだろうか?だとしたらチートだぞおい

 【属性変換】は、既に発動された魔法の属性を、別の属性に変換することが出来る……真のチートはこちらでしたか!

 しかも相手の魔法はともかく、自身の魔法なら多少魔力が必要になる以外は無条件。言わば、さっき使ってた『絶対零度アブソリュート・ゼロ』を、途中で『焼死地獄インフェルノ』に変更できるってことだろ?

 もちろん厳密には『絶対零度アブソリュート・ゼロ(火)』みたいな感じで、『焼死地獄インフェルノ』と同じ効果を引き出せるかどうかは分からないわけだが、十分すぎる効果だ


 結論、チート乙


 「まぁ、強化される分にはいいか」


 だがそれでも装備はしましょう。ゲームだったら確実にチーター扱いだが、この世界は現実である。『チート級に強い』とかだっていいじゃない!実際にチートではないのだし。言わば運?運も実力のうち?

 

 あれだよな。俺耐性系のスキルに[〇〇属性耐性]があるんだが、それに加えて【敵対魔法半減】とかしたら、魔法効かなくなるんじゃないの?

 スライムの魔石食ってたら覚えたが、やはりチートで、グラよりもレベルは高い。うん、もうタンクやれってことですかね


 ……これ以上やると思考がブレるから、ここで終わりにしよう

 ついでに今日は迷宮探索も終了しましょう。流石に不眠不休はキツイから、多少なりとも寝たいです


 「150層……ま、ラスボスから1、2歩手前ってところかね」


 200層が最終階層だとしたら、今3/4クリアしたことになるし、だいたいそのぐらいか

 今のボスの感じだと、このまま進めば今の封印じゃ厳しくなるだろうし、また一段階緩和しますか

 ……どうせ途中でぬるくなってまた封印を強めるんだろうし、同じことだが


 そんなことを考えながら、俺は現れた魔法陣に乗って迷宮から去った

 


 

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