第23話 お持ち帰りルート



 迷宮から帰れば、深夜もいい時間帯だった

 空に輝く月を見て、今更ながら「そう言えばこの世界の月はどういうのなんだろうなぁ」と独り言を

 もしあれが衛星だとして、そしたらこの世界は惑星ほしであるという可能性が高いのだが、実際のところはどうなのか。実は異世界と言っても、同じ宇宙の中にはあって、遠く離れた星やら別の銀河なだけという説が俺の中で微レ存

 神というのは実は超文明を持つ宇宙人で、異世界人というのも、地球で生まれた俺たちから見たら、別の星の異星人とでも言うべき存在なのかもしれない

 神、宇宙人から与えられた技術やら恩恵が、ステータスだったりな。その辺、ステータスの起源とかはルサイアの書物にはなかったんだが、どうなのだろうか


 ……話のスケールがでかすぎて、それ以上の思考が働かなかったので考えるのをやめる

 こう、宇宙とかについて考えてしまうと、ひどく自分が小さく見えてしまうのだ

 ちなみに俺は、次の日に嫌な事がある時なんかは、ネットで宇宙の神秘やらブラックホールはどこに繋がってるのかとか、そういう事が載っている動画を見たりして、『明日のことなんかそれに比べたら大したことないな』と半ば現実逃避したい時に考えるな。意外と有効的だが、暗示の時間は短いです

 どれ位かと言うと、次の日起きたら解けてる感じ


 「イカンというか、思考ブレッブレだな」


 この世界に来てから何度目かの頭を振る動作

 もうね、自覚症状あるからね


 思考を逸らすために、路地裏から屋根に登り、夜の【アシュバラ王都】に目を向けてみる

 活気があるというか、まるで東京のような感じだ。ただしイメージであるというのはご愛嬌。東京なんかほとんど行ったことないぜ


 溢れる光はメインストリートだけではない。少し高いところに位置する王城からも、煌びやかな光が漏れている

 ルサイアの方も光はつけっぱなしだったし、電気代とかかかるんじゃあるまいか?

 まぁ、魔道具なのでかかるのは魔力だけだが。庶民はロウソクやら普及している魔力の変換率の悪い照明道具だそうな


 「ふぅ……そろそろ帰るかな」


 夜の風景は好きな時に見れるので、今は寝ることに。どうせ明日もあるのだし、多少なりとも寝といて疲れはとっておいた方がいい

 中途半端に寝たら逆に疲れるという可能性も否定しきれないけどね

 そうして宿に戻ることにしたのだが……


 『───じゃんよ。俺らと遊ばね?』

 『夜は長いんだしさぁ~。あ、ちょっと自信が無いとか?』

 『大丈夫俺らそういうのも好きだからさ。ハメ外そうよ~』


 帰る道中、聞こえてくる裏路地からの声

 ここは不良のたまり場ですか?壁に押し付けてか、囲ってみたいな感じだろうか

 にしても居るんだな、そんなこと言うやつ。流石ファンタジー世界。ラノベと酷似している部分が多々ありますね


 一応、声の聞こえてきた方向へ。割と遠くかららしく、入り組んだ裏路地の奥の方だった

 屋根の上を移動して目的地の上へと到着。覗いてみれば、まぁ見える見える、3人でローブを着た……恐らく女の子であろう子を壁際に追い込んで囲んでいる図がね


 「ねぇなんで返事してくれないわけ?」

 「俺ら怒らせるとさ、怖いよ?」

 「大人しくついてきた方が身のためだと思うけどなぁ~」


 う~む、雲行きが怪しいというか、既にアウト?未遂として捕えられるだろうか

 でも女の子の方がどう反応するかも見なきゃだよな。これで乗り気だったら俺からはもう何も言うまい。そのまま何も見なかったことにして宿に戻ろう


 ということで、少し手前の通路に降りて、女の子の表情を伺うことに

 通路の角から顔をそっと覗かせて見てみる


 「……」

 

 ローブの隙間から見える女の子は、口をぴったりと閉ざし、顔を合わせ無いようにしている様子。はてさて、これは助けた方がいいな

 ……でもどうやって助ければいいんだ?こういう時、ラノベの主人公なら……


 『……』

 『な、なんだテメェ!』

 (何も答えず無言で近づく)

 『こっちに来る───ぐはぁ!』

 『グッ』

 『ガッ!?』

 (一瞬で全員倒す)

 『大丈夫か?』

 『あ、ありがとうございます!』


 ……みたいな感じだろうか?いやでも、それだとちょっと気まずい。無言で倒した後に口を開くとか無理な気がする。無言ならずっと無言がいい

 というか、無言で倒したらむしろ怖がられそうというか。『いやぁ!』みたいな感じで叫ばれて、声につられて来た人が見たら俺の方が容疑者になりそうな予感

 ならば他はどうだろうか……


 『助けがいりそうかい?』

 『え?あ……た、助けてください』

 『なんだテメェ!』

 『部外者は引っ込んでろ!』

 『痛い目見たくなかったらどっか行きな』

 『うーん、穏やかじゃないね。でも俺も助けを求められちゃったからな』

 『このっ!』

 『おっと』(ひらりとかわして女の子との間に)

 『さ、逃げるよ』

 『あっ……』

 

 うん、無難だろうか?倒すことなく行けば怯えられないだろうし、女の子もそっちの方がいいはず

 そうと決まれば行ってみよう!

 

 角から出て、堂々と姿を現すことに


 「コホン……助けがいり───」

 「私には、貴方達に付き合っている暇など無いのです。そこをどいて下さい」


 ……俺のセリフを遮った罪は重いぞ、女の子よ

 だがしかし、意外と気丈というか。いやだがこいつらには逆効果じゃあるまいか?

 そしてやっぱり女の子だったか。女の子だと思って助けたら男だとか嫌だ。男女差別?区別だよ


 「おい、あんま調子のんじゃねぇぞ」

 「これはちょっと痛い目見てもらわないと分からないかなぁ?」

 「今ならまだ間に合うぞ」


 ほらな?やっぱりこうなる

 ここはもう一度行くしかあるまい。幸いにして、さっきの言葉は誰にも聞こえていなかったようだし


 「なぁ、もしかして助けがいるか?」


 あぁ、口調を普通に戻していたぞー。これは困ったー、女の子を威圧してしまうかもしれないー

 さっきの腹いせとかじゃないから。もしこれが腹いせだったら可愛すぎるから。これ、八つ当たりだから

 意味の違いはググるのだよ

 女の子は俺に気づき、驚いた表情でこちら向く


 「っ!?た、助けはいりません!」

 「───ありゃ?」


 ……あの、思ってた反応と違うんですがそれは

 ちょっと気丈過ぎませんか?そこは素直に助けを求めてくださいよ!俺どうしたらいいんだ!

 と考えれば、もしかしたら俺を巻き込まないようにしているのではないかと思い当たる。そう、彼女はきっと優しい。だからこそ、見た目弱そうな俺を巻き込まないようにと考えたのではないか

 つまり俺の見た目が弱そうなのが悪いのかコンチクショウ!


 「だ、誰かと思ったが、お生憎様。こっちは定員オーバーだ」

 「す、少し驚いたが、痛い目見たくなかったらとっとと失せな」

 「俺はこいつらと違って驚かなかったから、早く消えた方がいいぞ」


 なんだこいつら素直かよ!一気に不良から更生可能なキャラまで変化したんだが!

 これには女の子もビックリ。少し肩を震わせているように見えるのは、笑いをこらえているのだろうか

 雰囲気が和むなぁ……自分に激しくツッコミを入れたい


 「じゃあ仕方ない。大人しく帰らせてもらうか」

 「ふ、素直だな」

 「なら別に構わん。気をつけて帰れよ」

 「夜道は危ないからな」

 「えっ?えっ?」


 待ってこいつらホントに何なの!今度は優しいキャラかよ!ギャップ萌えかよ需要ねぇ!

 ギャップ萌えが許されるのは美咲系統だけだと思います!

 そしてあたふたと状況に困惑する女の子。正しい反応であると同時に、可愛いですね


 仕方なく俺は踵を返し、女の子を見捨てることに。彼女がそういうのなら仕方が無い、ここは素直に帰らせてもらおう───

 ───と思わせて


 「はい走る!」

 「え、えぇ!?」


 残念それは幻覚だ。最初から俺は反対側にいましたとさ

 種明かしは、ただの光魔法の『幻影人形ファントムパペット』だ。丁度自身の姿を作れるようになったばかりだし、試してみました

 声は[風魔法]もとい[暴風魔法]で音の出どころを誤魔化し、表情の微妙な変化は夜闇だからあまり見えないだろうと思ってのことだ

 いや、こんなことに使うつもりはなかったんだけどね!


 するりと女の子に手を伸ばして声をかければ、驚く女の子。当たり前ですね、ちゃんと気配は消してましたから、感知できるはずがないわ

 でもそれでもすぐに走ってくれて、なんちゃって不良ズが呆然としている間に距離を離す

 ただ、走る速度は女の子が疲れない程度にだから、そのうち追いつかれるかもな……


 「ちょっと失礼しますよ」

 「ちょ、キャッ!?」


 走ってる途中にお姫様抱っこ。追いつかれたらあいつら倒さんとアカンやん。そうなったら怯えられちゃうかもしれないだろう?

 一気に速度を上げて路地裏を駆け抜ける。それでもいつもより遅いのは、女の子を気遣ってのことだ

 俺の速度だと、鍛えてなきゃ体が耐えられんはずだからな


 「あ、あの!」

 「ん?」


 お姫様抱っこして走っていると、落ちないようにと自分からしがみついていた女の子が声を上げた


 「助けはいらないって言ったのに、なんで助けたんですか!」


 結構なスピードで走りながらなので、周りが風でうるさい。そのため、このように声を大きくしなければならないのだが

 何となくこれは咎められているだけな気がします


 「いや、明らかに助けがいると思ったから?」

 「貴方が怪我をするかもしれなかったんですよ!だからあのように言ったのに!」


 あぁ良かった。俺の予想当たってた。ホントに助けがいらなかった訳じゃないのね

 

 「まぁまぁ、俺だって助けられると思ったから助けたんだよ。じゃなかったらそもそも助けない」

 「それはそれでどうかと思います!」


 そんな!俺は無理なことはやらない主義なんだけど!俺の存在を否定するなんて、なんて女の子だ!

 

 そんなやり取りをしていれば、すぐに入り組んだ路地裏から抜けてメインストリートに出る


 それでも男がローブを着た人を抱えていたら目立つはずで、だからこそ現在は気配を切っています

 普通の人じゃ俺の気配には気づかんからな。同時に女の子の気配も消えているといいのだが

 そこまで融通は効かないかもしれないが、まぁまだマシという感じで。実際通行人の殆どは俺たちのことを気にしていないように思える


 「よっと」

 「あっ……」


 取り敢えずこの格好は落ち着かない……というか今更考えてみれば結構恥ずかしいので、女の子を降ろす

 

 「そ、その、ありがとうございました……」


 急に大人しくなった女の子。なにこの落差。さっきまではあれか?困惑のせいで大きな声が出せたとかか


 「いいっていいって。俺もたまたま通りがかっただけだしね」


 そして毎回のごとく口だけはペラペラと喋ってくれる。楽なんだけどさ、たまに何喋ったか覚えてない時があるから

 こっちに来てからお世話になりっぱなしですよ、[完全記憶]大先生


 「んで、なんであんな所に?夜に君みたいな女の子がうろつく場所じゃないけど」

 「その……表通りは人が多くて、移動が大変だったので……」

 「裏路地に入ったと……」


 ……この娘本当にここの人ですか?

 というか、夜に移動が大変だからという理由で裏路地に入るとか世間知らずのお嬢様か!

 いや、もしや本当にどっかの貴族のお嬢様じゃあるまいな?


 「というかどこに行こうとしてたのさ」

 「えぇと、どこかに行こうとしたというよりは、逃げてたというか……」


 あぁ~これ決まっちゃったのか。まじでお嬢様なのか?というか濁すのが遅い!

 あれだろ?これ面倒事の予感しかしねぇよ。ラノベ展開だよ!俺の運か、運のせいか?なら可愛い子なのか……許す!


 「それで、今日はどうするの?家には帰れないんでしょ?」

 「いえ、帰るには帰れますが……怒られそうなので」


 多分ローブの中では目をそらしていることだろう。若干顔も逸らしている事だし、悪いことをしているという自覚はあるのかもしれない

 まぁまだ普通の庶民であるという可能性もある。恐らく家出でもしていて……という感じだと思うのだ

 誰から逃げてるのかは知らん。貴族が雇った護衛とか隠密部隊なんて知らないし、さっきから裏路地にある不自然に隠れた気配も知らないです


 「じゃあ行く当てもない?」

 「……はい」


 お?お?これはあれじゃないか?お持ち帰りイベント(意味深)です。持ち帰る先は宿で

 ───夜だからね。うん。思考が変な方によっても仕方ないね

 それに俺も男ですし?何より御門ちゃんとの一件がありましたし?

 溜まるもんも溜まるんですよ。やる勇気はないから妄想だけだけどね!

 

 

 

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