第2話 借りは返す。釣り合ってるかどうかは別



 鍛錬とグラの訓練、そしてその合間に溜まりに溜まった魔石を食してすぐに封印してとやっていると時間が過ぎ。

 とうとうというか、待ちに待った勇者との対面の日となった。


 「おはようございますトウヤさん。今日もお願いできますか? 私はご飯を作ってきますので」

 「うん、いいよ」


 既に自宅のように感じるこの泊まり木の宿屋。1階に降りると、いつものようにラウラちゃんが挨拶と共にお願いが。

 俺は一つ頷き、『教室掃除』を発動してやる。発動箇所は、食堂だけでなく受付の方も含めてだ。


 この4日の内にラウラちゃんは諦めたらしく、むしろ自分からお願いしてくるようになった。それに比例するように魔法の範囲も増やしてみました。

 そしてその代わりにご飯を作ってくれるという、なんて羨ましいことだろうか。毎回の如く誰もいないような時間帯なので、年下の女の子と二人っきりというのは少しイケナイことをしている気分にならなくもない。

 男子高校生の妄想は恐ろしいね。


 思考を逸らすために、『そろそろ料理を自動で作ってくれる魔法でも開発するか?』と自問自答を。


 「ご馳走様。いつもありがとうね」

 「いえいえー、お礼ですから」


 それはつまり、善意からではなくあくまで借りは返すと言うことかい? それは悲しいのだけども。

 そんな、冗談にも思えないことを考えつつ、顔はいつも通り内心を悟らせない偽表情ポーカーフェイスを保つ。

 なお、保ててるかどうかは知らんけどね。

 

 ちなみにだが、俺の容姿は最近は金髪碧眼の偽装用の方になっている。

 というのも、使い分けるのが面倒くさいというのが一つ、黒髪黒目の日本人顔というところを見られたら一発アウトだと思ったからである。


 ラウラちゃんには四日前の時点で、『今日からこれで行くからよろしく~』と軽く伝えたところ、『貴族様みたいです!』と興奮された。そんな高貴な存在に見えますか? いや、色変えるだけでそうなるのもビックリ。

 金髪碧眼は貴族というイメージがあるのは俺だけか。


 なお、どうやって変わったかについては、特別な魔道具マジックアイテムとしておいた。


 「今日も迷宮へと行くんですか?」

 「多分ね。けど今日はそれより先に用事があるんだ」


 主に国家級の用事だけど。


 「何の用事ですか?」

 「迷宮関連の用事だよ」


 探索者ギルドで勇者との顔合わせなんかがあるんだよね、うん。


 「そうですか。じゃあ頑張って行ってきてください!」

 「うん。というか、今日はお金については言わないんだね」

 「流石にお金払ってるお客さんに催促はしません!」


 昨日、『1日ごとじゃなくて一括払いすればいいじゃん!』と今更すぎることに思い至ったので、一週間分を先払い。

 金は素材を売れば余る余るということで、何気に金策は完璧だ。

 自重しないと多分素材の価格が暴落したりするかなと思ったので、自重もしてはいるが。

 

 心外ですとばかりにブーブー言うラウラちゃんにじゃあねと一言。すぐに切り替わって「行ってらっしゃいませご主人様」までいう姿は、最早見慣れたものだ。

 見慣れても慣れないけどね、ご主人様と言われるのはさ。


 


 ◆◇◆




 その日、【ヴァルンバ】の王都【アシュバラ】で、突然国王より報がもたらされた。


 『我はヴァルンバ第26代国王、セミル・イグゼ・ルートバーンである』


 アシュバラの各地に響き渡る声は、中級風魔法『エアボイス』により届けられていた。

 重低音を響かせる、ヴァルンバ国王のセミルは、アシュバラ全域を見渡せる王城のテラスから喋っていた。


 『此度は突然のこと、驚いていると思う。だが安心して欲しい。皆にとっては朗報である』


 街を歩く人々が足を止め、王城の方を見る。無論、距離的に見えるはずもないのだが、王の絶対的な存在感というものが放たれるソレは、この場においては距離は意味をなさない。


 『半年前の神託で、魔王が復活したという情報は、皆も知っていると思う。魔物が活性化し、普段より凶暴化したことで、冒険者や探索者からも死者が増えている』


 セミルはそこで少し間を開けると、満を持したとばかりに口を開けた。


 『そこで我々は、各国と国際会議を開き、そして、"勇者"を召喚したのだ』


 一つ、そこで沈黙が街に訪れ、その次の瞬間にはざわめきが辺りへと広がる。


 それは、勇者の存在の真偽や、改めてやってきた魔王への恐怖、そういったものから、何故今まで公開しなかったのかという、国への疑いまで様々な内容からだ。


 『そして今日、勇者の存在を皆に教えることを決意した。今までは周辺諸国同士の取り決めで存在を隠匿することとなっていたが、今日をもって情報の公開に至った』


 ただ、この一言で国への疑心は大部分が晴れたと言ってもいいだろう。残りも、疑心を抱いたままでも、何かしらの過激派が出るような恐れはないだろう。何せ、他の国との会議の結果なのだから。


 『また、勇者を召喚したのは我が国だけではない。他にも数カ国召喚した国がある。そして、今日から勇者には外へと出て、様々なことを体験してもらう。それに伴い、様々な場所で勇者という存在がこの地に響き渡ることとなるだろう』


 高々と語るセミル。見える距離にいなくても、その高揚感を声から察することが容易に可能であった。

 その高揚は住人達にも伝染し、先程までのざわめきとは違う、明確な歓声が上がる。


 『我が国の民よ。どうか、これから姿を見せるであろう勇者達を祝福して欲しい!』


 最後に力強く告げると、もう1度大きな歓声が王都内に響いた。

 

 

 ◆◇◆




 「中々支持の多い人なんですね」

 「あの子・・・はパワフルだからね。民衆との距離が近いというか。実を言うと結構お忍びをしてたりするんだよ」


 流石ファンタジー。パワフル王族のお忍びは最早お約束だよな。

 そして何故か主人公と知り合うんですね分かります。


 出来ればコネは作っておきたいけど、そう簡単に作れるものでもないと諦めるか。それとも、自分を主人公だと信じてお忍び中の王族と会えるよう頑張るか。

 いや、ここは偶然会った程度でいいと思う。


 「にしても、お祭り騒ぎ状態ですね」


 ギルドマスターの部屋の窓から外を覗く。まだ勇者を実際に見ていないというのに、国王の一言でこれだ。

 俺だったら実物見るまでは『へ~』で済ませる自信がある。


 「それだけあの子・・・は慕われているということさ。信用のある言葉はその内容に関わらず、他者に影響を与えるってね」

 「……ギルドマスターは王様と知り合いなんですか?」


 さっきから『あの子』と呼んでいるのが気になって結局言ってしまった。

 

 「ん? あぁ、まぁ私はあの子が子供の頃から知っているからね。ほら、私がギルドマスターになったのって結構前だし、色々あって私の立場って凄い上なんだよね。だから王族と話す機会も地味に多いわけ」

 「あぁ……勇者と一緒に戦って魔王を倒したことあるんでしたっけ」

 「……その情報はどこから?」


 途端、室内に重苦しい空気が訪れる。


 無論出処はギルドマスターからだ。威圧、いや殺気とも取れるものが俺へと向けて放たれていた。


 スゥッと細められた目は、俺の事を逃さず捉えており、嘘は見逃さないと言わんばかりだ。


 「いや、俺って鑑定系のスキルを持ってるんですよ。ほら、前に貴女のユニークスキルを当てましたよね。[浄化の瞳]を。名前は言ってませんでしたけど」

 「鑑定系のスキルで対象の過去の情報まで読み取れるなんて聞いたことがない。私のだってステータスを読み取れるだけだ」


 俺も称号を見ただけなんで、別に過去の情報を読み取れるわけじゃ……いや、[禁忌眼]がレベルアップすれば未来や過去の情報を見れるようになるんだっけ。


 我ながら化物ですね。


 って、更に圧力高まったんですが。普通の人だったら気を失ってますよ? [威圧無効]のお陰ですかね

 殺意の方は、感じ取れても鈍感な可能性が微レ存。


 「うーん、[鑑定]の上位互換のスキルですかね。過去の情報を見るというよりは、その人の二つ名とか肩書きとか、称号が見れるんです。言っておきますが嘘じゃないですよ?」

 「……はぁ、分かってる」


 すると、さっきまで放たれていた威圧やら殺気やらが霧散する。

 多分、俺が嘘をつかないようにするための措置だったんだろう、と、少しだけ垂れている冷や汗を隠しつつ思う。


 「私の[浄化の瞳]は、相手が嘘をついてるかも何となくわかる。少なくとも君は嘘をついていない……真実を言っているとは限らないけど、嘘も入っていない……」


 疲れたように椅子にボフンと座り込むと、「はぁ」とまたため息を吐いて顔を机に転がす。


 といか、俺としては何気ない感じだったんだけど、よく考えれば勇者と一緒に戦ったことがあるなんて凄い情報だよな。あんまし実感がわかないだけで。


 それを秘匿していたとなれば、最近知り合った相手が知っているというのに警戒しても当然か。


 「それより、そんな情報を私に渡していいのかい? 私には君がどの程度見えているかはわからないけど、少なくともその鑑定能力がヤバイということは伝わる。なんせ隠していたことも今のようにバラされてしまったのだからね」

 「あー……ギルドマスターには今更かなという感じが。俺の正体もおおよそ予想ができてるみたいですし、何より前の勇者の情報がありましたからね。借りは返すというやつですよ」

 「ちゃっかりしてるね。あれでしょ? 大きな貸しになる前に自主的に返しちゃうっていう」

 「身も蓋もなくいえばそうですね。それにぶっちゃけると、俺にとってはそこまで重いものでも無いですしね」


 [鑑定]の上位互換のスキルがあると知られたところで、対策のしようがないだろうし、俺の[禁忌眼]は恐らく偽装や隠蔽系のものも無効化できる。レベルが高くなれば更にな。


 今のところ進化したスキルの効力はヤバイの一言に尽きる。無論パラメーターありきのものも多いが、魔法なんかは効果が絶大に上昇している。


 「ほら、俺も秘密を暴いちゃいましたしね」

 「……ま、そういうことならさっきの事はチャラにしておこう。ついでに勇者の情報に関してもこれで対等としていいよ」

 「流石ギルドマスター! 太っ腹!」

 「お調子者だねぇ」


 上げろ上げろ! そしてもう掘り返さないように!

 取り敢えずお調子者とでも思わせておけばいい。ついでに気分を良くしてくれれば掘り返さないでくれるだろう。


 ただ、若干棒読み気味なのは仕方ないけれど。


 「さ、勇者が来るまで時間がある。とは言え一応立場的に勇者より遅れるわけには行かない」

 「どうせだし、ここにいますよ。その方が確実ですし。ついでに何かします?」

 「じゃあそうだね……カードゲームはどうだい?」


 すると、ギルドマスターは執務机の引き出しからトランプを取り出す。


 「……なんでそんなものがあるんですか?」

 「いや、私基本ここにいるからね。暇になった時はやるのさ。同じく暇な職員呼んで」


 俺が聞いたのはそう意味ではなかったのだが、別の懸念、ギルドマスターが暇な時に1人でやっているというのは晴れたのでよかった。


 「……いいでしょう。やりますよ」


 こちらでトランプに会えるとは思わなかったが、ある以上やるのがカードゲームマスターだ。

 地球ではどちらかと言えばコアなゲーマーであったし、ここはひとつ、勝負に乗ってみてもいいだろうな。

 

 


 

 

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