第3話 韜晦してると自分の立場を忘れる




 トランプは過去の勇者が広めたものの一つだそうで、まぁ日本とほぼ同じものだ。

 この時に製紙の技術が広まり始めたそうで、恐らくそれを広めたのもその勇者だろう。


 ちなみに、やはり勇者の中でも魔王討伐に行かないものは居るらしい。ギルドマスターは俺がその秘密───勇者と共に魔王を討伐したこと───を知っていると分かってから、過去のことを色々と教えてくれた。

 これ、スキルの[尋問]とか[交渉]とかが働いてるわけじゃないよな? 結構ポンポンやばそうな秘密が出てきたりするんだが、それはギルドマスターが許容しているのだろうか。


 例えば、ギルドマスターが勇者と関わったのは約200年前で、その時召喚された勇者のおよそ7割はこの世界で天寿を全うし、2割は魔物との戦いや魔王との戦いで戦死、1割のみが元の世界に帰ったとか。

 ルサイアの図書館にあった本では、どの時代の勇者も、何人いたかも魔王討伐後の事も書かれていなかった。これがただの記述漏れなのか、意図的に伏せられたことなのかは分からない。


 唯一、以前ルリに見せてもらった800年前の勇者が書いたらしい冒険譚には、18人だと記されていた。

 ただそれも討伐後のことは書いていなかったし、何分昔すぎるもののため、信憑性も分からないが。


 んで、元の世界に帰る方法だが……これに関してはギルドマスターも分からないとか。

 どうもその時はギルドマスターも魔王討伐に加わった一員として各国と色々とゴタゴタしていたらしく、気がついたらその1割は居なくなっていたのだとか。

 各国の王族からは『帰った』とね。

 

 一応『覚えてないとかじゃないですよね?』と睨みながら聞いたら、冷や汗を垂らしながら物凄い速さで頷いていた。俺の睨み、そんなに怖いか?


 そうそう。これも聞いた話だが、ギルドマスターの他にも勇者と共に魔王討伐に向かった現地民が居るらしい。様々な種族が居たらしいが、そのうちで生き残ってるのはほとんど居ないとも。

 みんな勇者についていけるほど優秀だったらしいが、当時のギルドマスターの実力も他の人と比べても掛け離れていたのだとか


 本人は[浄化の瞳]のお陰だとも言っていたが。


 何より一番驚いたのはやはり勇者のバーゲンセールだな。俺が召喚された時から勇者多いなとは思ってたけど、それが各国もだぞ。

 ここも38人だし、ルサイアと合わせると今のところ最低でも150人近くは確定と。


 

 かくしてそんな話をしながらやっていたトランプは、ほぼ俺の全勝。やったゲームは「ババ抜き」「神経衰弱」「七並べ」「豚の尻尾」といったものまで広まっているのには驚いたが、何れも勝利。途中からギルドマスターは魔法まで使い出したが、それでも勝利。


 2人では寂しいので、トランプには受付嬢さんも呼んで三人でやっていたのだが、ババ抜きはカードを引く毎に俺の手持ちが無くなっていき、神経衰弱は俺の番になった瞬間ミスることなく当てて……と、確かに自棄にもなりたくなるようなものだった。


 というか、確かに地球の頃からゲーム関連は得意を通り越してヤバかったが、それでもこれは異常だろうと。魔法に対してなんの抵抗もしなかったのに普通にできちゃったしな。幸運って怖い。普段は働かない癖に。


 仕事があると言って、受付嬢さんが半ば逃げ出すように出ていった後は1VS1タイマン。ギルドマスター、負けず嫌いなのかな。


 そんなこんなで続けた結果、外が一層騒がしくなる。


 「どうやら勇者のお披露目が始まったようだね」


 外を見るまでもなく、ギルドマスターが呟く。トランプは既に仕舞われていて、現在は書類に何か書いたりしている。仕事って大変だ。


 それより、俺は外が気になるので[千里眼]で視界を飛ばして確認。


 街の上空に視界を飛ばすと、主通りメインストリートに沢山の人が集まっており、その周囲に沢山の騎士がいる図が。

 どうやらその中心に勇者がいるようだが、生憎、日除け用だろうか? 屋根があるためにそれ以上は見れない。千里眼で飛ばせる視界もあまりに近すぎると気づかれるからな。流石に屋根の内側に視界は飛ばせない。


 視線は消えない事実。[生体遮断]使えば行けるかもしれんが、それやったら色々と行けない気がする。主に男子高校生的な妄想が、ね。


 実を言うと、声だけは[超聴覚]のお陰でずっと聞こえているのだ。近くの音が大きくなるわけでもなく遠くの音が聞こえる便利スキル。

 この辺は誰の匙加減だと疑問に思うけれども、便利なのでツッコミはしない。


 ただその多くが民衆の歓声であり、勇者らしき声は入っていない。本当にお披露目だけのようだ。

 一層のこと外に出て見てこようかなと思うが、流石にそこまでするのは面倒くさいという。たかが少し動くぐらいなのに何が面倒くさいのか、自分でも理解できないけど面倒くさい何か。


 「多分そのまま勇者達は各自移動のはず。迷宮に行く勇者はここに来るから、そろそろ気を引き締めといてね」

 「……威圧全開で向き合えばいいですかね」

 「出すにしても抑えてあげなさい。洒落にならないから」


 少しぼけてみたらツッコミが。だって勇者と対面するって思ったら、なんとなくの緊張が。

 自分が勇者だという自覚があまりないからか、こうして国が盛大にお披露目をしていると、相手の方が立場が上だと思ってしまう。誤魔化すためにと思いボケたのだ。


 そして、俺の心の中で『頼むから年下で』という願いも。年上だとやりにくいったらありゃしない。何より、俺より弱かった場合が一番ね。


 何か年下関連で言うのが多いが、別に他意は無いぞ。俺はロリコンでもショタコンでも、ましてやシスコンでもない!

 ……最後のやつは言われすぎての脊髄反射だな。うん。


 「まぁ、そんな気を張る必要は無いよ。というか、トウヤ君も緊張するんだね。意外だよ」

 「意外って何ですか。俺は精神は普通の人、それもまだ年齢的には子供ですよ? 緊張はしますよ」

 「いや、ギルドマスターである私の部屋にドカドカ入ってきたり、国を脅すとか言ったり、そんな素振りを全然見せないから」

 「それは恐らく違う俺だったのです」


 何が『国相手に喧嘩を売る』だ。その時の俺頭おかしかったんじゃねぇのと。


 頭おかしいというか、おかしいのはスキルの方ですね。[倫理観欠如][道徳観欠如]……今回の場合は前者ですかね? 国相手なので道徳ではないイメージ。

 両方発動した可能性も否めないけどな。


 あ、ちなみにギルドマスターの部屋にドカドカ入ったのは最初のけんけんのせいですよ?

 ギルドマスターなら多少礼儀はかなぐり捨てても問題ないよな? という。


 考えてみると結構な修羅場を潜ってきたはずなのに、今更こんなことで緊張をするのかと思ってしまう。一番緊張したのなら間違いなくオーガキングか鬼神だと思う。


 鬼神の強さもここの迷宮では100階層あたりぐらいだからな。今の俺からしたら片手間に倒せてしまうあたり、本当に何がどうしてこうなったと思います。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る