第4話 また会いましょう





 「へぇー、そんな事があったのか」

 「俺が知らないところで、また刀哉が成長している……」

 「馬鹿!! どう考えても死にそうな目に遭ってるじゃない!!」

 「刀哉君って、結構無茶するよね?」


 事の顛末を話終えると、四者四様の反応。うち1名からはまた説教が飛んできそうだが、ここはのらりくらりとかわしておこう。

 そして叶恵、何気に失礼な言い方だからなそれ。


 勿論全てを話したわけじゃない。ダンジョンマスターになったことは省いたし、魔剣ティソティウスとやらの話も伏せておいた。この二つはまだ不確定要素が多すぎるから、あまり心配をかけたくないという思いからだったが、これが無くても十分に心配をかけていたらしい。


 そして、それに加えてもう一つ伏せてあることがある。


 それはここに戻ってきた時のことだ。樹の部屋に行く前に、俺は気配察知で腹黒王と王女がいる場所まで行ったのだが……。


 『───それで、ヤサカトウヤの死亡は確認したのか?』

 『はい。暗部が見た限りでは、オーガキングと共に崖に落ちたようです』

 『ふむ、意外と粘りおったようだが、その程度か。いや、相打ちとなっただけでも十分か……グレイからの報告とも変わりないようだ。念のため、証拠を消すよう暗部に言っておけ。ユスベルへは我から言っておこう』

 『はい。後、魅了した勇者はどうしますか?』

 『いつまでも魅了状態だと周りから不審がられる。1度解いておき、また必要になったら呼び出せ』

 『分かりました』


 このようなやり取りがされていた。つまり、あの事故は故意に起こったということだろう。しかも、勇者の、最低1人以上が魅了されていると来た。


 それに加えて、暗部とやらが俺を見張っていたと。確かにいつもなにか異質な気配を感じてたが、迷宮内では流石に気が付かなかった。


 そして、この事をここで話せるほど、俺は事態を楽観視していない。今までは嫌がらせ程度だと思っていたが、まさか殺しにまで来るとは考えてもいなかった。

 しかも周りも巻き込んで、だ。


 おいそれと勇者を殺してしまってもいいのか。最初は俺達をこっちに喚んだ以上、なにかしらに必要だから殺しはしないだろうと考えていたが……腹黒王族あいつらの目的が全然わからない。

 本当に魔王討伐のために呼んだのか、別の目的があるのか、単なるお遊びだったのか。


 それとも、まさかとは思うが、俺だけを殺せると、そこまで読んでいたのか。確かに、実際誰も死んでいない。俺の生存だけを読み違え、逆にそれ以外を全て読んでいたとするならば……。


 いや、俺に会話を聞かれていた時点で、そこまで読める頭脳を持っているとは思えないな。もしそれなら、俺の実力を読み違えることも無いはずだ。


 一つ言えるのは、兎にも角にも危険すぎるということか。


 「おい、刀哉。どうした?」

 「いや、何でもない。それでなんだが、俺はしばらく別行動をさせてもらう」

 「───は? 刀哉、何を言っているんだ……?」


 サラリと俺が告げた言葉に、拓磨が唖然とした顔でそう呟き、他のみんなも、突然のことに声を出せないでいる。


 「今回、俺は死んだことになっている。それがもし戻ってきてみろ。現時点であのオーガキングすら退ける程の実力を持った勇者が、自由に出来ると思うか?」

 「いや、それは確かにそうだが……」

 「それに、ここにはどうやら暗部という組織があるらしい。まぁ大方密偵や暗殺なんかをやる裏の仕事専門の組織なんだろうが、そいつらがこの城を見張っている。そんなところにいたら、いつ見つかるか分かったもんじゃない。少なくとも気が休まらんよ」

 「でも……それなら刀哉君はこれからどうするの?」


 叶恵が心配してますといった顔をして聞いてくる。ここで泣きそうにならないあたり、成長はしたんだろうな。俺が死んだという仮定からの成長は釈然としないが。


 「俺は取り敢えず身分を隠して生活してみようと思う。ついでにこの国からも離れさせてもらおう」

 「こ、この国から離れるって、刀哉、一体どれだけ遠くに行くつもりなんだ? この世界には車なんてものはないんだぞ?」

 「いや拓磨、俺達の肉体は強化されている。刀哉のスピードも、もしかしたら地球の車より速いかもな。そうなると、国越えもそう難しいものじゃないんだろ?」

 「まぁ、そういうこった。それに、恐らくだが、お前らももう少しで外に出ることになると思うぞ?」

 「「何?」」


 俺の言葉に樹と拓磨が食いつく。てか顔近いって。暑苦しい。


 「……ここに来る途中王と王女が話してるのを聞いたんだが、どうやら勇者に冒険者活動をさせるつもりらしい」

 「嘘でしょ!? 今の状況じゃ危なすぎるわ!!」


 俺の言葉に美咲がヒステリックに反応する。

 ───それもそうか。なぜなら今は俺が死んだ事のショックで、全員精神的に弱っている。こんな状況でそんなことをしたら、死ぬ可能性だってある。


 「まぁまぁ落ち着け。王達の話だと、これは志願者だけにするらしい。勿論監視はつくだろうが、これなら問題は無いんじゃないか?」

 「……そういうことは、早く言いなさいよね」


 今のが恥ずかしかったのか、ばつの悪い顔をしながら小さく呟いた。うん、今日は熱しやすい日なんだな、美咲。


 「はぁ、取り敢えずお前の言いたいことはわかった。俺達もお前のことは話さないようにしておこう。樹、美咲、叶恵、それでいいな?」

 「私は構わないわ」

 「私も大丈夫」

 「俺も問題は無い。だが、刀哉。お前はいつ帰って〃〃〃くるんだ?」


 俺は樹の言葉に、咄嗟に返す言葉が見つからなかった。そう言えば考えてなかったな。


 「そうだな……俺がある程度の地位について、地盤が固められたらかな」

 「はぁ?」


 言ってる意味が分からないのか、珍しく樹が頭の上にハテナを浮かべている。ちなみに3人は言わずもがな。


 「表立ってお前らと一緒に行動することは出来ない。これは今のところ絶対だ。王族にバレたら俺を即行捕まえに来るだろうしな。だから、それがおいそれと出来ないぐらい高い地位になれば、俺とお前らは取り敢えずは一緒に行動できるわけだ」

 「……なるほどな。地球にいた頃ならともかく、こっちでは結構実力が物を言うことが多い。そうなると、刀哉の実力があれば可能性も低くはないということか。それに、もし他国で地位を築いたなら、王族達も簡単には手出しできないな」

 「まぁそういうことだな。っと、そうだ。お前らに教えておくことがある」


 これは俺達がチートであるために絶対必要なものだ。言わねばなるまい。どうせ忘れてるだろうし。


 「お前ら、ステータスにある『能力』っての、使ってるか?」

 「能力……? あぁあれか。俺の『勇者』ってやつ」

 「そうそれだ。その感じだと、全員使ったことないんだろ?」

 「それは、まぁ。だって使い方が分からないんだもの。名前だけじゃ効果も分からないし」

 「私もそうかな」

 「スキルは本に載ってたりするんだがな……それで、なんで急にそんなことを?」 


 いやなぁ、俺の場合も異能とやらではあるが、明らかに強そうなやつを使わないで放置しておくことはないだろ。


 「そんなの、強いからに決まってるだろ。なんせ能力がある=イコール勇者であるということなんだぞ? つまり、その能力が、勇者の真髄ということなんだ」

 「やけに力説するな。それで、結局どうしろって言うんだ?」

 「拓磨、お前は馬鹿なのか? お前には鑑定があったんじゃないのか?」

 「いや、あるにはあるが……っ、なるほど!」

 「え? なになになに? ちょっとよく分かんない」

 「いや、刀哉はこう言いたいんだろ。鑑定で能力を見てみろって」

 「ご名答」


 流石は樹。持ってないスキルの事なのに当てるとは、なかなかやるなぁ。


 「よし、実際にやってみるとするか……」


 拓磨はそう言って、視線を宙に固定する。俺はそこまで意識する必要は無いが、拓磨はあまり多用しないのか、慣れていない様子だった。


 「……っと、なるほど、これか。分かったぞ」

 「そりゃ何よりで」

 「ちょっと拓磨、私たちにも教えなさいよ」


 一人頷いている拓磨に、美咲が急かす。


 「あぁ、スマンな。鑑定結果を要約すると、『パラメータ5割増加』……これが今の俺の能力だな」


 おい! 急にゲームっぽくなったな!

 そうツッコミたくなるのを抑え、情報として分析する。

 そうなるとパッシブ型、つまり拓磨は常時能力を使用していることになる。パラメータが1.5倍とは、中々強い。

 

 「それで、ほかの奴らは?」

 「あぁ。3人とも、少しステータス覗いていいか?」

 「えぇ、いいわよ」

 「うん、分かった」

 「女子はともかく、俺に一々許可とる必要は無いだろ」

 「一応だ、一応」


 3人の許可を得た拓磨は、3人に鑑定をかけているらしい。この機会に乗じて、俺も覗かせてもらうか。


 「美咲、『抜刀斎』。刀装備時に、筋力と敏捷のパラメータが倍加と。一気に強くなれそうだな」

 「そうなんだけど、刀って……そんなの持ってないわよ」

 「そういうなって。後で探そう。それで、叶恵だが……『聖女セイクリッド』で、[回復魔法]の効果が上昇。比較対象がいないから、どのくらい上昇しているのかもわからないな」

 「だねー。得意だってのはわかるんだけど、まぁ私は特に考える必要ないってことだよね」


 美咲は落胆したように息を吐き、叶恵はわかりやすい能力が気に入ったようだ。


 「そうだろうな。最後樹だが、『戦場の指揮者バトルマエストロ』。効果は……要約しにくいからそのまま読むが、『戦場を俯瞰的に把握することが出来、全ての味方に自身の声が無条件に届くようになる。味方の数が多いほど味方と自身のパラメータが増加する』だそうだ」

 「……ようは、指揮官ってことか。こりゃ、戦力と言うより戦術を求められるのかよ」


 望んでいたものではなかったのか、樹は天を仰いだ。確かに、難しそうというか、一騎当千の能力ではない。

 それでも、有用なのは間違いないだろう。 

 

 ついでに言うと、3人ともレベル表記は無く、恐らく最初から完成しているものと思われる

 うん。いいんだけどな。拓磨の能力はレベルがあり、それも現時点で大幅な戦力となっている。

 格差があるなぁ。だが、なんとなく皆向いているような能力なのは気の所為だろうか。

 わかりやすいのは叶恵だが、樹も頭脳派という意味では指揮官として向いているし。


 唯一美咲は刀とそう関わりがないのだが……美咲の家は厳格なところらしい。行ったことは無いが、武家であってもおかしくないような?

 なにより、剣道をやっていたり、家が道場と聞いたこともあるし。意外という程でもないか。


 「ま、これで無事能力が分かったわけだし、戦力増強だろ」

 「そうね。私の場合は刀を見つけなくちゃだけど」

 

 余程今は能力が意味をなさないのが気になるのか、美咲が再度こぼすが、全員苦笑いだ。

 だが、これで一段落着いたな。


 「よしっ! これで終わりだ。俺はさっさとお暇させて頂くよ」

 「ちょっ、もう行くのかよ。まだもう少し居ても……」

 「あんまり長居すると、密偵さんに見つかっちゃうんでね。それに、今日の宿を確保しておかないと」

 「あっ、そっか……」


 そう、俺はこの城を出ていくから寝床が無くなってしまう。まぁ元々あそこは屋根と壁があるだけの物置だったけど。

 寝心地とか気にする余裕なかったから、別に今更どこで寝ようと関係ない気がするが。


 「……まぁ、そういうことなら分かった。元々、俺達がお前を止める根拠なんてない。みんなお前より弱いし」

 「それは確かに。刀哉君魔法も凄いし、何でもできちゃうもんね」

 「そうね、結局一度も勝てなかったのは、少し悔しいけど」

 「あぁ、心配はしていない」


 何だか、俺の評価高いな。そう思うが、確かに模擬戦や魔法の訓練の時にあれだけ色々やってれば、実力の方と信頼されるか。


 (……いや、こいつらは前からずっと、俺の事を信頼してくれてたか)


 「そうだ、心配なんていらんよ。お前らも知っての通り、俺は主人公補正ってのが味方してくれているからな。死にそうになっても覚醒するか、死んでも生き返るさ」

 「あら。じゃあそれは美少女も一緒に味方にしちゃうんじゃないかしら」

 「あっ」

 「そ、それは……」

 「確かに、刀哉なら有り得る……」


 いや、最後の最後でそんな冗談を言われてもな……。

 何となく項に手を伸ばす。締まらないなぁ。


 「あんまりからかってくれるなよ。俺のそっち方面の補正はもう尽きてるから」

 「そう? それは嬉しい限りね。叶恵という美少女がいるんだもの。次会った時にもし美少女が隣に居たらそれはもう戦争ものよ?」

 「言っておくが、美咲もその美少女に入ってるぞ。二人のせいで補正が切れてるかもなんだから」

 「……ホント、なんでもない顔していっくれるわよ」


 そう、俺は一切含みを持たせず言うと、美咲がスッと視線を逸らして、ボソボソと言う。

 からかってみた……いや、素直に告げただけだが、効果はてきめんか。先程の説教へのお返しも兼ねているが。


 だが、何故か叶恵や拓磨がジトっとした視線を送ってきたので、追撃をすることは無かった。

 なんだ拓磨、お前にも言ってやろうか? 『お前もイケメン枠として入ってるからな』と。


 「とにかく、さっさと行かせてもらうよ。また何かあったら、俺の方からこっそりと会うさ。安心したまえ」

 「はいはい、さっさと行ってくれよ。いつまでも居ると帰るタイミングを逃すんじゃないのか?」

 「そうか。それではお前ら、また会う日まで」

 「おう、また会う日まで」

 

 俺がそういい、樹が返すと、何か言いたそうな顔を拓磨達がする。


 「……イタイな」

 「刀哉君……」

 「………」

 「おいおいお前らなぁ。樹はこうして乗ってくれたぞ? なぁ?」

 「お、そうだな。うん」


 なんだその微妙な反応。特にそこまで考えたわけじゃないみたいな。


 「いやいや、普通に『さよなら』とか『またな』で良いだろうが」

 「はぁ、分かってないな。そんな普通はつまらん!」

 

 俺が高らかに言うと、一瞬シンとなる。呆れた、そんな感情が読み取れるが、すぐに破顔し、誰とも知れずクスっと笑う。


 「フフ、じゃあ仕方ないわね。また会う日まで」

 「また会う日までね、刀哉君」

 「ほれ、ほれほれ。残るはお前だ」


 樹が、最後に残った拓磨に肘でうりうりとやる。すると、拓磨も仕方ないとばかりに、こちらへ顔を向けた。

 とても、真面目な顔で。


 「刀哉、心配はしていない。が、友人として言わせてもらおう……生きて帰ってこい」

 「────」


 その心に迫った表情に、俺はなんとも言えぬ感覚を抱く。

 そう、このモヤモヤとした、言い知れぬ感じ……。


 「もしかしてこれは、恋!?」

 「もう刀哉お前死んでこい、今すぐ死んでこいっ!」


 最後の最後で俺が珍しくボケると、拓磨が殺気を込めた視線で睨んでくるので、俺はとぼける素振りを見せる。


 「なに、最後が誰であれ、こういう展開になったさ。ちょっと、場を冷やかしてみたくなっただけだ」

 「そ、それって……」


 叶恵が何かに気づいたように声を出して、すぐに後悔したような顔をする。なんだ、お前が言ってもらいたかったのか?

 言ったところで、ありがとうって返されて虚しくなるだけなんだが。俺が。 


 「ま、拓磨に殺される前に行くさ。お前らこそ、俺が居ないからって、寂しくて泣いたりするなよ?」

 「するわけあるかっ!!」


 我慢ならなかったのか、掴みかかってきた拓磨を軽やかに跳躍してかわし、俺は窓枠へと華麗に着地する。


 「んじゃ、またな───」

 「あっ、クソっ!」

 「と、刀哉君!?」

 「おいおい、あいつ。ここ3階だぞ……」

 「刀哉君じゃあねー!」


 なんだろう、最後まで締まらない感じだが、これがいいのかも知れない。

 窓の外まで伸ばされた拓磨の手をかわし、叶恵の声を最後に、俺は窓から飛び降りた。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る