第3話 ゴリ押しだゴリ押し
「これで、えーっと、百体近くか?」
俺は既に背後を取らなくとも一瞬で片をつけられるようになったハイオーガを倒して、『
現在は、俺が鬼神からすごすごと逃げ帰ってからまた数時間が経っている。
その間俺はただひたすらマップを埋めつつ、八つ当たりのようにハイオーガを倒していた。まだ帰るつもりは無い。
もうチマチマとマップ埋めるのが面倒くさくなって来たので、自身の認識が追いつく限界の速度で移動することにした。秒速何十mだろうか? 我ながら人間をやめている。
まぁその甲斐あってこの数時間で、それまでの倍以上の成果を上げている。
ただ、どの通路も最終的には行き止まりなんだがな。
ん? いや、今回は少し違うな。
「宝箱?」
そこには、如何にもな感じの宝箱が置いてあった。赤と金色で装飾された、洞窟の中に置いてあるにしては不自然な箱。
迷宮内では宝箱からアイテムが取れる。信じ難い話だったが、なるほど、これの事か。
迷宮というのは割と探索する者に配慮しているなと思いつつ、俺は折角なので宝箱を開けることにする。
「いざ、オープン……」
俺は、罠である可能性を考えずに宝箱を開けた。そして運がよく本当に罠などではなく、アイテムが入っていた普通の宝箱だった。
どうやら中に入っているのは剣らしい。早速武器か。
「……見た目からして呪われそうだな」
その中に入っていた剣は、まず剣身の色が黒。しかも綺麗な黒ではなく、禍々しい色をした黒。
剣身が真っ直ぐではなく、少し不自然に湾曲しているが、一応直剣に入る程度だ。
それだけならまだいいのだが、剣からは赤黒い瘴気が溢れ出てて、なんか触ったらヤバそうな雰囲気が漂ってみる。
まずは、[鑑定]をしてみないことには始まらないだろう。
─────────────────────
魔剣ティソティウス 等級:
世界中のありとあらゆる怨嗟の念が溜め込まれた呪われし魔剣。その怨嗟は一つの集合体となり、自我をすら持っている。
装備者に強大な力をもたらすが、呪いによって、剣に溜め込まれた怨嗟は装備者をも取り込もうとするため、この魔剣の使い手は過去にほとんど居ない。
斬りつける度に、対象のパラメータが低下していく。
[特殊効果]
【攻撃時生命力低下付与Lv.10】【攻撃時魔力低下付与Lv.10】【攻撃時筋力低下付与Lv.10】【攻撃時体力低下付与Lv.10】【攻撃時知力低下付与Lv.10】【攻撃時敏捷低下付与Lv.10】【攻撃時運低下付与Lv.10】
[バッドステータス]
【呪いLv.10】(【生命力低下Lv.10】【魔力低下Lv.10】【筋力低下Lv.10】【体力低下Lv.10】【知力低下Lv.10】【敏捷低下Lv.10】【運低下Lv.10】【猛毒Lv.10】【神経麻痺Lv.10】【盲目Lv.10】【全聾Lv.10】【幻痛Lv.10】【筋弛緩Lv.10】【魔水Lv.10】)
─────────────────────
あー、見なければよかったかも知んない。
なるほど、やっぱり呪われてるのね。見た目からも呪いからも迂闊に触っていいものでもないのか。斬る度に対象のパラメータが下がるとか凄い使えそうだったのにな。
というか、それよりも等級だ。お前、
軽く聖剣を超えてしまっているのだが、いいのか? 魔剣だからいいの?
そして何がやばいって、レベル10のバッドステータスのバーゲンセールがきついな。
スキルのレベルは10がマックスとされているが、とするとこの魔剣の呪いやバッドステータス群は危険度マックス。抵抗の余地なく死にそう。
恐らく【呪いLv.10】の効果が、その後に続くカッコ内のものなんだろう。所謂内包効果か。
この呪い故の強さか。この呪いに抵抗するには、それこそ[呪い無効]が必須で、更に怨嗟の念とやらに飲み込まれないようにしなきゃいけないと。
勇者といえど、普通の高校生の俺に使いこなせるわけなさそうだな。精神力が試されるところだろうし。
魔剣と言えば、グレイさんが聖剣みたいに強い剣として魔剣があると言っていたが、もしかしてあの時あまり説明しなかったのは、こういう呪いがかかっているからなのかもしれない。
こんなハイリスクな剣を、勇者に使わせるわけにはいかないだろうな。いくら勇者といえど、使いこなせるわけがない。
というよりこの魔剣が異常なのだろうか。等級
危険な香りしかしないが、試しに遠くから『
とりあえず持ってってみるかね。いつかは使ってみたいし。
……間違えて手元に取り出さないよう注意しよう。
◇◆◇
それから宝箱を更に二つ見つけた。中に入っていたのは
黒いマントの方は、こちらも迷宮産だけあってか特殊効果がついていた。なんでも身に付けていると[気配遮断]にボーナスがつき、更に頑丈だ。
どれくらい頑丈なのかと言うと、この
ちなみに、この黒マントを使えば、あっさりとハイオーガの横を素通りできる隠密性を持っている。
何気に有能な黒マントに驚きつつも、俺はまたあの部屋の前に戻ってきた。そう、ボス部屋(仮)の前である。
俺は部屋の扉を開く。中には案の定鬼神が居座っているが、俺が部屋に入っていないからこちらに目を向けもしない。
やっぱりボスというのは部屋から出られないような制約でもあるのだろうか? なんとなく覗きをしているようで少し興奮……するわけないな。
自分にツッコミを入れるのもこれで何度目だろうか? 独り言は増えていないが、代わりに心の声がおかしくなっているような気が。
俺はそうやって平静を保ちながら、中に入る。同時に、前回のように尋常ではないプレッシャーがのしかかるが、問題は無かった。
耐性ができたのか、単にステータスが上がったからか。我ながら肝が据わってきたようだ。
『GAAAAAAAA!!』
ちなみに、今回の攻略方法は、単純明快。小細工や策は一切ない。
「セイッ!!」
雄叫びを無視して、俺は一息で鬼神の
───今回の攻略法は、ステータスによるゴリ押しだ!
『GAA!?』
前回は全くと言っていいほど何も出来ずに敗走したが、ハイオーガを倒しまくってレベルを上げてきた今回は違う。
咄嗟に避けられてしまったため、傷は浅かったが、驚いたのだろうか。ほば瞬間移動と言っていい速度で壁際へと移動した鬼神は、その壁を
あの立体機動的な動きだ。
反対側に移動したかと思ったら、今度は床へ、次は正面の壁へ、そして柱を中継地点として天井からのまた床へ行き、こちらへ飛び込んで来て……。
『GYAAAAA!?』
鬼神のわきばらへ、俺の剣が見事にカウンターを決めた
「馬鹿だな。俺はお前の動きが追えているんだぞ? 攻撃が決まるわけないだろ」
我ながら結構変なことを言っていると思う。しかし、今回は余裕だ。
鬼神の動きが見える。動体視力が強化されたのか、慣れたのか。
意識を戦闘に戻す。恐らくさっきまで使っていた剣だったら、切傷が精一杯だっただろう。カウンターにもならなかったはずだ。
だが、今使っているのは
世界でも作れるものがほとんど居ないとされている程の、最高クラスの剣。その剣が、切れ味が悪いということはまずない。
(それにしても、なんで迷宮に宝箱なんてものがあるのか……いや、これは後にしよう)
またしても逸れかけた思考を戻し、痛みに怯んだ鬼神に追い打ちをかける。今まで強い痛みを味わったことがないから痛みに耐性でもないのか、大袈裟な程に喚いてくれたから追撃をかけるのも楽だった。
「そらっ!」
『GAAAAUUUUUU!?』
強すぎるが故の欠点、と言うべきなのだろうか。いや、どちらかと言うと経験の少なさ故か。
だから、今回は俺が一枚上手だっただけのこと。それもステータスによるゴリ押しだ。もし相手が本当の意味で歴戦の猛者だったなら、今の立場は逆転していたはずなのだから。
四肢を切断され痛みに唸っている鬼神に、僅かながらの同情を送りながらも、俺は剣を振り下ろすことを躊躇いはしなかった。
スルリと首に入り込んだ剣は、そのまま地面まで貫通し、ガキンと音を立てて止まった。
「……ふぅ」
一つ息を吐き、いつも通り死体をすぐに『
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
「地震か!?」
少し休憩しようとした途端、突如地震のような揺れが起きた。
慌てて机を探して、ここが迷宮だったことを思い出す。くそ、学校の避難訓練も迷宮じゃ役に立たないじゃないか。
だが、どうやらこの地震は別に迷宮が崩壊するようなやつではないらしい。
目の前、この大聖堂のような部屋の奥の壁の一部が、いつの間にか通路になっていた。
要するにボス戦をこなしたのだから次へ進めということだろう。
基本的に序盤でボス二連戦なんてのは無いはずだ。まぁ今回戦った敵は人間にとってはラスボスと言っても過言ではない難易度のはずなので、当てはまるかは分からないが。
むしろ第二第三の形態が残っていても不思議ではない。
そう思っていても足が進んでしまうのはゲーマー故か、それとも慢心か。どうしても先が確認したくなってしまう。
高さ3m、横幅3mの正方形のような通路を進む。明かりがないため光魔法の『ライトボール』を使って自前で明かりを作って進んでいるが、さっきまでの通路と違って床も壁も平坦で、人工的だ。
いや、人工的といえばボス部屋の大聖堂もそうなのだが、何となくボス部屋ということで納得してしまっていた。
そんな通路を進むこと約3分。前方に明かりが見えてきた。一応[気配察知]は使用しているが、反応はない。
こっちからでは光が眩しくて通路の先の様子は見えないが、少なくとも危険はないかな?
念の為剣を装備して、いつでも戦闘に入れるようにしてその光へと進むと、少し広い空間に出た。
特に何も置かれていない空間。床壁天井は石畳のようなもので出来ており、迷宮の素材と同じように発光している。
そして、真ん中には紫色に光り、表面を緑の蔦のような紋様が覆っている、球体が浮かんでいた。
「……どっからどう見ても、ダンジョンコアってやつだよな」
実物は見たことないが、イメージとしてはまさに同じものが目の前に浮かんでいた。
「さて、ちょっと触れてみますか」
それは少しの好奇心から来た行動だ。ダンジョンマスターだか、ダンジョンボスだか、そんな感じのやつを倒したのだから、もしかしたら俺がダンジョンマスターになれんじゃね? という少しの期待だった。
「……うんともすんとも言わないな」
しかし、触れてみても、特に発光したり、何かが起こったりする様子はなかった。
「あ、魔力を流してみるか」
だが、まだ可能性が消えた訳では無い。少しでも出来ることをしようじゃないかめ
だから俺はダンジョンコアに魔力を通してみた。
その途端だ。
『魔力の存在を確認。起動シークエンス実行のための必要魔力は30000です』
「……本当にできるとは思わなんだ」
突如機械的な音声で喋り出したダンジョンコアを、あんぐりと口を開けながらつぶやく俺。だって、試し半分だったんだもん。
っとと、必要魔力30000だっけか?起動シークエンスとかファンタジーに似つかわしくない機械的な要素だけど、まぁ考えても仕方の無いことか。
そもそも意味も良く分かってないし。
今の魔力は8割ぐらいだから、3万には足りてるな。最悪魔法を使わなければその内回復するし、魔力をくれてやってもいいだろう。
俺は手のひらから、魔力をダンジョンコアにどんどん流し込む。
『……必要魔力の充填を確認。起動シークエンスを実行します』
『対象の種族を判別……エラー。対象の種族を再判別……エラー』
『種族不明のため、対象の種族にダンジョンマスターを追加……完了』
『対象のスキルに[迷宮内転移]を発現……完了』
『対象のスキルに[迷宮核操作]を発現……完了』
『迷宮の稼働状況を確認……自律運転へと移行……完了』
『対象の存在をダンジョンマスターへと定義……完了』
「うわっ、何だ?」
すると、途端にダンジョンコアが輝き出す。それと同時に目の前に画面が表示される。それはさながら、小説やアニメに出てくるような、VRの仮想ウィンドウのようなものだった。
「えっと、何だこれ……」
『ハロー、マイマスター』
「しゃ、喋った!?」
突如として喋りかけてきたダンジョンコアに、俺はビックリして飛びずさる。さっきまでの言葉と違い、明確にこちらに向けて喋ってきたから驚いたじゃないか。
「えっと……何?」
『ハローとは、こんにちは、という意味ですよマスター』
「いやその位知ってるわ!」
馬鹿にされたような気がして何となく言い返してしまった。まぁ仕方ない仕方ない。
「てか、え? マイマスター?」
『イエス。マスターがこの迷宮の新たなマスターとなりましたので、
「へぇ~、てことはさっきので俺はここのダンジョンマスターになったってことか」
『イエス』
う~ん、こんなあっさりとなるもんなのか。魔力3万あげただけでダンジョンマスターになれるとは、なんとも簡単な条件だ。
「じゃあこの迷宮は俺のってこと?」
『イエス。ここはマスターの領域……自宅と言っても過言ではありません』
「いや、ここを自宅と出来るほど俺は心が強くないんだが……あ、このウィンドウはなんだ?」
聞いたらなんでも答えてくれるようなので、ついでにずっと目の前に出ているウィンドウについて聞いてみる。
『それはダンジョンに関することを設定できるものです』
「じゃあこれで自由に魔物とかを設置できたり、宝箱を置けたりするのか?」
『ノー。自由にではありません。ダンジョンを作成するには、ダンジョンマスターであること、[迷宮核操作]のスキルがあること、
うっわー、本格的な話になってきやがった。
意味が理解できない訳では無いが、俺的にはここまでの展開を考えていた訳では無い。
「前のダンジョンマスターは? さっきいた鬼神か?」
『前ダンジョンマスターに関する情報は開示できません。ダンジョン中枢前に居た鬼神と呼ばれる魔物は、
なるほど。鬼神はダンジョンマスターじゃなかったのか。
やっぱり、ダンジョンマスターは知性ある存在ってことか。俺が簡単にダンジョンマスターになれたのは、既に存在しないからか。
「……なぁ、俺がダンジョンマスターになったから、魔物とかの沸きは停止してるのか?」
『ノー。現在は自動で運営しています。魔物は自然沸きに設定してあるので、DPの消費はありません』
「そうか。じゃあその設定のまま保持しておいてくれ」
『オールコレクト。設定の現状維持をします』
よし、とりあえず、迷宮のことは後回しにしよう!
こんな状況で、ダンジョン運営なんかやっていられない。いや、少しはやりたかったけど、今ではない。
と、これは聞いておかなくちゃな。
「この迷宮内をワープできるような機能ってある?」
『マスターはスキルにより、自身の迷宮内ならば魔力消費なしで無制限に
「じゃあ迷宮外からの転移は?」
『魔力を消費すれば
「なるほど……じゃあ、早速で悪いが、しばらくは自動運営を頼んだ。俺はここを離れるから」
『イエス。マイマスター』
なんか変な感じだな。マスターって呼ばれるのがあれなのかな?
とは言え、なんかダンジョンマスターになれたのは良かった。後々必要になりそうな感じだし、暇ができたらダンジョン運営をしてみてもいいかもしんないし。
ダンジョンコアにそう告げて、俺は早速迷宮の入口へと転移をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます