第3話 案の定ですよ



 「お食事後で申し訳ございませんが、勇者様にはステータスを確認してもらいます」


 全く味を覚えていない食事が終わった後、いつの間にか王様と入れ替わりで居た王女様により、部屋での安眠への時間は引き伸ばされる。


 「こちらのプレートを持ってもらいますと、勇者様方のステータスが表示されます。生憎高価なもので、王族の権力を持ってしても10枚しか手に入りませんでしたので、順番に使用してもらいます」


 そう言ってメイドに10枚の板を渡す王女様。王族の権力で10枚って、めちゃくちゃ高価なものじゃん。壊さないように気をつけよ。


 まずはやはりクラスの中心の拓磨とその他9人。


 拓磨がプレートを持つと、そこに文字が表示される。


───────────────────


 城処拓磨 17 男


 レベル1

 

【生命力】150

 【魔力】150

 【筋力】100

 【体力】100

 【知力】100

 【敏捷】100

 【器用】100

  【運】35


 スキル


 武器術

 [剣術Lv1]


 魔法

 [光魔法Lv1]


 ユニークスキル

 [成長速度上昇Lv-][鑑定Lv-][聖剣術Lv1]


 能力

 【勇者Lv1】

 


───────────────────


 お、おう、なんだかまさに勇者って感じのスキル構成だ。名前は全然勇者っぽくないのに(全くの偏見だが)。

 

 能力なんかそのまま【勇者】。ユニークスキルの[聖剣術]とかかっこよすぎだろ!

 しかも[鑑定]まであるし。俺のスキル、見られてないよな?


 多分大丈夫だろう。俺に何も言ってこなかったし。ただあいつの鑑定にはレベルがないのな。何か違いがあるのだろうか。

 

 「凄いですわ!!【勇者】という能力は、伝説の勇者様が持っていた能力ですのよ!!しかも鑑定と聖剣術まで!?」


 何やら興奮している様子の王女様。どうやら拓磨の能力が昔の勇者と同じだったらしいな。

 ……何それ? もしかしてお前勇者の子孫なの? テンプレなの?

 そしてその言動から、聖剣術はともかく鑑定も珍しいようだな。


 「そ、そうなんですか?俺は全然実感なくて……」

 「そうです!!タクマ様は真の勇者ですわ!!」


 拓磨は困惑した表情を浮かべるが、王女様は構わず褒め続ける。


 しかし、王女様、もう様つけるのめんどいから取るわ。王女の勇者の能力を見つけた時の顔、忘れない。

 あいつメッチャ悪い顔してたんだぜ? 隠せよもう少し。これだってもしかしたら拓磨を篭絡する作戦かもしれないしな。

 昔の伝説の勇者とやらが持っていたというのは本当だとしても、篭絡作戦の可能性が大すぎるでござる。


 そしてどんどんステータスを確認していったが、みんなステータスは拓磨と似たような感じだった。スキルは全員一つ以上はあるらしく、ユニークスキルの成長速度上昇は全員持っていた。

 『能力』も全員持っていたっぽかったので、良かったと思う。

 

 ステータスは、皆例外なく生命力と魔力が150、それ以外がオール100で、運だけがバラバラという数値。ちなみに運は俺を除いて一番高いのがまさかの叶恵で、120だった。

 ……王女は凄いですわ!! と言っていたが、じゃあ300の俺はどんだけ高いのだろうか? まさかお世辞か?


 ちなみに俺のステータスは、スキルの偽装で全て他の人と同じステータスで、運は50にしておいて、ユニークスキルは成長速度上昇と完全記憶以外は隠しておいた。異能は『能力』という項目に変更できたため、問題ないと思いたい。


 ただ、偽装はあくまであるものを無いように、または偽り、ステータスなら高い数値を低くするもののようで、無いものをある、低い数値を高くするというのは無理だった。

 なので、俺はスキルがなしとプレートに書かれた。その時に王女が、


 「まぁ!”貴方だけ”スキルがないんですの?」


 と、敢えて大声で言ったのはムカついた。しかも貴方だけを強調して。やめろよ、俺は色々と恨まれてるんだから。叶恵とかでさ。

 王族だけでなく同じ異世界人にもマークされたかもしれない。気をつけよう(結構深刻)。


 ……実は王様とのやり取りを根に持ってたのか?


 その後、みんなが部屋に返される頃、俺だけ王女に呼ばれた。


 「あぁ待ってください。貴方には住む場所を変えてもらいますわ」


 ほんっとうにこいつはムカつくな!!


───────────────────


 「ここが貴方の住む家ですわ」

 「……何処からどう見てもボロボロの木でできた物置なんですがそれは」


 王女について行った俺は、何故か城から出て、裏手に連れてこられた。

 そこにあったのは、一応形を保っている、所々崩れ落ちた木でできた、一階建て、一部屋の物置・・


 「そうですわね。私の父に口答えする出来損ない勇者はここがお似合いじゃなくて?」

 「あーそうですかそうですか、いいでしょうここで住んでやります」


 俺はもう自棄になりながらその物置に入っていく。王女は何も言わずに戻って言ったが、その方が有難い。背中に気をつけるんだな、王女様!


 「それにしても埃だらけじゃねぇか」 


 物置の中は埃が沢山積もっていて、床などは白くなっている。

 そして何に使ったのか、多分畑で使うくわや鎌、あとあのでっかいチリトリみたいなやつ。あの、農業で使う、オレンジのやつ。名前がわからん。


 「おっと、箒があった。取り敢えず埃だけでも掃除するか」


 俺は一旦物を全部出し、箒で埃を出していく。


 「けほっ、けほっ、くっそ、マスクが欲しい」


 俺は埃に噎せながらも掃除をする。良かった、埃にアレルギー持ってなくて。アレ、辛いらしいんだよ。花粉症みたいな感じなのかな。


 それから20分ほど掃除をして、ようやく無見た目上の埃が無くなった。掃除中にまさかあの悪魔、ゴッキーが出るとは思わなかったが。

 にしても、アレはやばい。初めて見たけど、アレはやばい。結局何も出来ず、アレが物置から出ていくのを待った。


 「よーし、まだ汚いが、さっきほどじゃないな。別に潔癖症って訳じゃないしここでも座れば寝られるだろ。流石に寝っ転がる気にはなれないが」


 ガサガサ。

 

 「ん?」


 俺が床に座ろうとすると、外から茂みを掻き分ける音が聞こえた。

 まさかまたアレが戻ってきたのか!? と、思いつつ外に出ると、


 『グギャギャ!』

 

 そこには緑色の肌をした子供ぐらいの身長の何かがいた。

 

 (あ、あれは、ファンタジー代表の一角、ゴブリン!)


 その見た目はまさにイメージするゴブリンとピッタリ。俺はもう少し観察しようとして、その手に持っている錆び付いた剣を見つける。


 (おいおい、流石にやばいな) 


 剣を見た俺は危険だと思い、直ぐに物置の中に引き返そうとするが……。


 カコン。


 「あ、やべ!」

 『グギャ!?』


 後ずさりした俺は、偶然下にあったあのでっかいチリトリに足が当たってしまい、ゴブリンに気づかれる。


 『ギャギャ!!』

 「チッ、戦略的撤退ッ!」


 俺は一目散に物置に退散。途中で鍬を拾って奴が諦めるまで籠城しようとするが、物置には扉がないことを思い出した。


 つーかこぇーよ! 小説とかだと普通に倒してるけど、武器持ってるだけでメチャクチャこぇー!! しかも振り回して突進してくるし!


 「ええい、ままよ!!」


 俺は突進してくるゴブリンを入口で迎え撃ち、俺の鍬の射程に入った瞬間振り下ろす。


 グシャ!!


 丁度ゴブリンの頭部に命中した鍬は、そのまま頭にめり込み、血と脳漿をまき散らす。


 ドサッ……。


 「……た、倒したのか?」


 倒れたゴブリンを見ると、頭から血と脳漿(?)を垂れ流しており、多分即死だ。


 「……うぇ」


 グロテスクな光景に、自分が為したことだと理解した途端、俺は口を抑え、腹の奥から逆流しそうになるのを、喉を閉じることで無理やりせき止めた。

 吐くと後始末が面倒くさい、という考えを少しでもしていた俺は、意外と大物なのかもしれない。

 喉が焼かれたように熱くなるが、それに構わず、俺は自身の胸ぐらを掴んだ。


 「はぁ、はぁ……主人公が初めて生き物を殺して吐くなんてザラだが、これは結構辛いな……ハハ」


 強がりのように呟く言葉は、実際それが目的だった。

 乾いた笑いが漏れ、また胃の中のものが戻ってきそうになるが、そうなる前に俺は次の言葉を紡いだ。


 「……殺される前に殺す、それが当たり前。肉の感触はそのうち慣れる。どうせいつかは殺るはずだったんだから、早いか遅いかだけの違いだし、問題ない……」


 自身へ向けた言葉を零す度に、段々と嘘のように収まっていく吐き気。それに代わり、無駄なものが無くなっていくように冴えていく思考。

 それは、俺にとって良い変化なのかどうかは、判断がつかなかった。





 結局その夜。俺は一睡もすることが出来ずに、朝を迎えることとなった。

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