第2話 ステータスと身の保証


 最新話に追いつくまでは、基本的に前書きとかは無しでいきます。

 本来は毎回毎回前書きも後書きも書いてるんですけどね。


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 夜栄刀哉 17 男

 レベル1

 

【生命力】200

 【魔力】200

 【筋力】100

 【体力】100

 【知力】100

 【敏捷】100

 【器用】100

  【運】300


 スキル

 なし

 

 ユニークスキル

 [成長速度上昇Lv-][因子適応Lv1][完全記憶Lv-]

 [鑑定Lv3][偽装Lv-]


 異能

 【吸収アブソープションLv-】

 

 

 


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 「んー、判断に困る……」


 俺は首を傾げながらステータスを睨む。ステータスはレベルにしては高いのだろう。王女様や周りの貴族を参考にするならだが。

 

 スキルはまさかの無しで、ユニークスキルが幾つかある。

 まずは[成長速度上昇]。うん、これは何となく分かる。

 

 次、[因子適応]。うんこれは分からん。


 と、思っていたら、普通に鑑定で調べられたわ。くっそ、もっと早く気づいてたら王様と王女様のユニークスキルとか調べられたのに。まぁ、また会う機会はあるだろうと楽観視。


 [成長速度上昇]。成長速度を上昇させる。


 [因子適応]。何故か鑑定だと文字化けしてしまって読めない。もっとレベルが上がったら読めるのかもしれない。現在一部だけ読めたのが、レベルと共に【異能】を解放していくというものだった。

 

 「えーっと、どういう事だ?」


 俺は考える。確かあの王女達は、勇者は全員【能力】を持っていると言っていた気がする。

 だが俺が持っているのは似て非なる【異能】。これは何なのだろうか……。


 まぁ、考えても仕方が無い。分かったところで、俺が持っているという事実には変わらないのだから。


 [完全記憶]。そのままの意味で、見聞きしたことをいつまでも覚えていられるらしい。しかし、昨日の晩御飯とかは思い出せないのだが……。

 あ、スキルを取得していない時の記憶は駄目なのか。試しに召喚されてからの記憶を思い出してみたら物凄く明瞭に思い出せた。

 

 [鑑定]は言わずもがな。ユニークスキルなのを見ると鑑定は珍しいのかな? それとも勇者全員に付けられてるのか?

 レベルは多分貴族とか騎士とかを鑑定した時に上がったのだろう。レベルが上がると情報量が増えるのか? 後で検証かな。


 [偽装]はステータスを偽装できるらしい。鑑定が珍しいのに偽装が必要あるのかは知らないが、あって困るものでもないし、ここは喜んでおこう。


 そして異能とやらの【吸収アブソープション】。対象の肉体を取り込むことで、対象のスキルを一つ覚えることがラーニング出来るらしい。

 まるでファンタジーの、雑魚じゃない方のスライムみたいな能力だな。肉体をって、魔物の肉とか食べなきゃいけないのか……人間は論外だが、食べれたら強くなるのだろうか。


 しかし、鑑定で文字として見ているからか、【吸収】や[完全記憶]のチートを見ても、「うぉー!」とか「スゲェー!」とかの感激が浮かばない。凄いなぁーぐらいだ。後で実際に試して感激を覚えよう。


 取り敢えず、スキルと異能の考察も今は出来ないので、寝るか。


 俺はベットに行き、そのまま布団に潜った。


 ちなみにやはり落ち着けず、寝るのには時間がかかった。



 ◆◇◆



 トントン


 「勇者様、食事のお時間でございます」

 「あー、分かりました」


 メイドに呼ばれそう答える。うん、多分メイドだ。扉の外からだから分からないがメイドだと思う。


 俺が外に出ると案の定メイド。その顔は無表情。恐ろしいな。

 なお、顔自体はとっても美人だし、プロポーションも最高である。男子高校生の妄想が膨らむぞ!


 そんな煩悩は思考の隅に無理やり追いやり、案内された場所はとても広い食堂だった。それはもう、俺ら全員(120人ぐらい)が使っても席が普通に余るぐらい。

 今は半数ほど来ているらしい。俺は取り敢えず、何故か他のみんなと間を空けている樹のところへ行く。


 「よ」

 「ん?おう、刀哉か」


 どうやらまた考え事をしていた様子。少し返事が遅れていたからな。大方俺と同じように王女様の話に疑問を持っていたんだろうが。

 隣の椅子に座って、空けていたのは俺のためだったのかと友人の気遣いに少し嬉しくなる。


 「刀哉、お前は王女の話、どう思う?」

 「ん? 魔王を倒したら帰れるってやつか?」

 「いや、違う。勇者は必ずユニークスキルと能力ってのを持っている話だ」


 俺は樹の話にハテナを浮かべる。それに樹も俺が理解していないことが分かったのか、説明をする。


 「勇者は必ずユニークスキルと能力を持っている、裏を返せば持っていないやつは勇者として見なされない可能性があるという事だ」

 「えーっと……っ!? なーる、そういうことか……」


 俺は話の内容を理解する。このルサイア神聖国が俺たちを呼んだのは勇者として魔王を倒してもらうため。これが嘘であれ本当であれ、勇者は必要なはず。

 なら勇者じゃないやつ、もしくは勇者じゃないと判断されたやつはどうなる?


 「この国は色々と怪しい。少なくとも、王女と王は危険だろう。もしかしたら不安要素として排除する可能性も出てくる。暗殺者とかでな」


 樹は苦虫を潰したような顔をして言う。つまり自分達の中で勇者じゃないものがでた場合、殺されるかもしれない。

 少し短絡的かもしれないが、日本ならともかく、常識が通用しないような世界ならば、ありえない話ではない。


 「確かに、それはやばいかもしれないな……」

 「ああ。何か、強制的にこちらの身の安全を保証せざるを得ない状況にしたいんだが……」

 

 だってそもそも俺が能力を持ってないのだから。頼むから白であってくれよぉ。


 「刀哉君、樹君、どうしたの?」

 「ん?ああ、叶恵に美咲か。いや、これからどうなるんだろうなって樹と話してただけだ」 


 少しネガティブな考え事をしていると、後ろから声をかけられる。振り返れば、そこには俺の幼馴染みの神崎かんざき叶恵かなえと、その親友の柳井やない美咲みさきがいた。

 

 叶恵は清楚系美少女と言った感じで、いつもニコニコしているクラスの、いや学年の、いやいや学校のアイドルだ。

 そんな叶恵と幼馴染みの俺は、少しばかり嫉妬と恨みの視線が向けられていたりする(現在進行形で)。

 何故か一緒にいる樹は何も言われない。解せぬ!

 

 美咲は髪をサイドテールに縛っている。こちらも清楚系美少女なのだが、叶恵とは系統が違う。叶恵が天然なところがあるのに比べ、美咲はクールでしっかり者だ。陰ではお姉様と呼ばれているとかいないとか。

 ちなみにいつも叶恵と一緒にいるので、必然的に俺や樹とも仲良くなる。


 「今来たところか?」

 「えぇ、相席、いいかしら」

 

 そう言って俺と樹の反対側の椅子を指す美咲。

 

 「別にいいが、拓磨はどうしたんだよ」

 「もう少しで来るんじゃない? 多分だけど」


 俺は美咲の幼馴染みの城処きどころ拓磨たくまの所在を聞く。あいつはクラスの中心みたいなやつで、正義感が強く、女子にモテるやつだ。顔も良く、運動神経と頭も良いので、はっきり言って何でもできる。

 俺や樹とは、美咲繋がりで仲良くなった。多分だが、あいつは叶恵か美咲を狙っている。いや、根拠はないが、間違いなくだ。(謎の自信)


 

 その後喋っていたら拓磨がやって来て、俺達のところに座った。というか、俺達の所は何故か前の方なので、拓磨は一番前にした。中心人物は一番前が定番だよな。話の時に前にいる人が指されるのも当たり前。

 打算ありきの行動は、幸いにしてバレなかった。


 「皆様、料理が運ばれてきますが、まだお手を付けないよう宜しくお願いします」


 メイドがそう言う。そうか、ここは身分制度だから一番位が高い人が来ないと先に食べちゃいけないのか。面倒だな。


 料理は、高級なレストランで出るような、熱を逃がさないようにする蓋と共にやってきた。あの開けると湯気がモワってなるやつだ。名前がわからないが、何気に実物を初めて見た。

 ちなみに蓋もまだ開けない。いや、なんか言われたら怖いし、中身が美味そうだったら耐えるのがキツくなるだけだしな。


 「ガルフレド・フォン・ルサイア様がお見えになられました」


 少しすると、メイドさんの言葉とともに、ガヤガヤとしていた食堂内は静まり返る。皆王様の名前は王女様の話の中に出てきていたので分かっている。

 まぁ分からなくても、普通に考えたら誰か予想はつくだろうが。


 メイドがそういうと、俺達が入ってきた扉とは別の扉が開かれる。そこから出てくるあの王様。今は普通だが、一番最初に見せた玩具を見つけたような目は忘れない。


 「勇者よ、待たせて申し訳ない」


 全く誠意の篭っていない声だが、形だけでも謝ったので良しとしよう。いや、俺は何も言えないけども。


 王様は俺達とは別の、やたら豪華なテーブルに腰をかける。運ばれてくる料理もきっと豪華なんだろう。


 「うむ、勇者達よ、早速だが聞いてほしい」


 王様はこちらを見ると、食事には手をつけず口を開く。これはあれだ、話が終わるまで食べてはいけない的な奴だ。

 みんなもそれをわかっているのか、不満そうな顔をしているが、我慢している。


 「お主たちはきっと我らに不安を抱いているはずだ。このままここに住ませてもらえるのか、安全を保証させてもらえるのか、とな。

 その不安を解決するために我のスキルを使用することにした」


 その言葉に皆首をかしげる。言葉の意味がわからない、という意味を込めてだ。


 そう言う王様は計画通りという顔で、少しムカつく。妙に反抗的な思考しか出てこないのは、多分生理的嫌悪感からだろうな。


 「我のスキルに[契約コントラクト]というものがある。互いに同意した場合、契約内容を絶対に遵守しなければならない。破棄の場合もお互いの同意が必要というものだ」


 そう言えばそういうスキルがあったな。なるほど、本当ならそれで身を守ることもできそうだ。ただ、本当ならな。

 そんな俺の考えを見透かしたように次の一手を打つ王様。


 「勿論我がそんなスキルを持っているかお主らには分からないし、そもそも契約内容の遵守も絶対なのかわからない。なので、そうだな……お主、こっちへ来い」

 「お、俺ですか?」


 そう言って指されたのは案の定一番前にいた拓磨だった。俺達の生贄となってくれ。そして自分が前にいたことを恨め。


 「うむ、今から我と契約してもらう。契約内容は、『お互いにお互いを傷つけることが出来ない』というものだ。それに同意したまえ」

 「は、はい」


 王様を前に緊張しながらも受け答えはきっちりする拓磨。凄いな、威圧感半端ないだろうに。


 2人が同意したのか、王様と拓磨の手に何処からか現れた紙が握られていた。無論、現代日本で扱っているような上質なものではなく、少し色褪せているような紙だが、紐で縛られているからか契約書というイメージがする。


 「お主、それを読んでみろ」

 「は、はい。えっと『ガルフレド・フォン・ルサイアと城処拓磨は互いに危害を加えることを禁ずる』」


 へー、そういう風にお互いに分かるように出るのか。


 「あれ?拓磨、それ読めるのか?」

 

 拓磨が普通に読んでいたので気づかなかったが、よく考えれば異世界の言語が読めるのはおかしい。もしかしたらそういうスキルがあるのかもしれないが。


 「ん? ああ、普通に読める。てか日本語と同じだ」

 

 おっと、まさかの日本語だったか。なんだっけ、こういうの。確かご都合……。

 あれ? なんだっけ。まあいいや、取り敢えず言語に関しては問題ないな。


 「確認できたな。では、この剣で我に斬りかかってみよ」

 「え!?そ、それは出来ませんよ!」


 王様が何処からか出した剣を拓磨に渡すが、当然の如く拓磨は遠慮する。というか遠慮しないと駄目だろう。


 「構わん。やれ」

 「は、はぁ、分かりました」

 

 しかし二回目で覚悟を決める拓磨。いや早すぎだろ。そんな簡単に人に剣を振り下ろせんの?

 そんな俺の思いを他所に、拓磨は剣を持ち、王様の腕に向かって振り下ろす。


 ガキン!


 「なっ!?」

 

 拓磨が振り下ろした剣は、王様の腕の5cm程手前で、見えない壁のようなものにぶつかり、停止した。

 

 「これで我のスキルはわかってもらえたと思う。念のため、お主の方も試すか?」

 「い、いえ、止めておきます……」


 拓磨は剣を王様に返し、戻ってくる。流石に自身に剣を振り下ろされるのは怖いらしい。俺だってやだ。


 「では今度は、我とお主ら全員を対象にする。契約内容は『我、ガルフレド・フォン・ルサイア、及びこの城の者は、この場にいる勇者の身の安全、及び衣食住の保証をする。また、勇者に危害を加えることを禁ずる』だ」


 (来た!)


 俺は予想していた事態になったのを理解する。俺達の身の安全の保証、今の契約は普通に考えるならそうだ。しかし、腹黒王は何かしら穴を入れるだろうと思っていたが、やはりそうだったか。


 「待ってください!」


 俺は一旦王様の話を遮る。その声にみんなはびっくりし、王様は煩わしそうな顔をするが、話を止める。

 ……大声を出した自分を殴りつけてやりたい。もう少し穏便になぁ。


 「……なんだ?」

 「いえ、その契約内容の一部を変更してもらいたいのです」

 「変更だと? ……申してみよ」

 「契約対象を"勇者"ではなく”異世界人”に訂正してください」


 俺のその発言に顔を歪める王様。やっぱりそうだったか。

 俺の発言に、樹と美咲以外はハテナを浮かべる。この2人は分かってるようだな。


 つまり、王様は勇者の身の安全は保証するが、勇者じゃないものは対象ではなかった。樹との話の最中に出た、『勇者は必ずユニークスキルと能力を持っている』。なら持っていないものは勇者としてみなされず、契約の対象にならないかもしれないからだ。

 その面、異世界人なら確実に俺達が含まれる。ほとんどは俺の自己保身のためだが、これでどうにか多少は融通が利くだろう。

 単純に思い至らなかっただけで、そこまで深い思惑はなかったのかもしれないが、どんな意図が込められてるのかわからない以上、不安要素は潰しておいて損は無い。


 「……いいだろう。契約内容は『我、ガルフレド・フォン・ルサイア、及びこの城の者は、この場にいる異世界人の身の安全、及び衣食住の保証をする。また、異世界人に危害を加えることを禁ずる』だ」


 王様は未だ顔を歪めていたが、ここで渋れば俺達の反感を買うことのリスクを恐れたのか、渋々と頷いた。


 すると、王様と俺達の手に、先ほどと同じように契約者が現れる。内容は……


 『ガルフレド・フォン・ルサイア、及びルサイア王城の者は、異世界人の身の安全、及び衣食住の保証をする。また、異世界人に危害を加えることを禁ずる』


 よかった。取り敢えずは一安心だ。しかし、これで俺は完全にマークされたはずだ。これからは気をつけないといけない。自己保身に走ったが、どっちの方が良かったのかは考えないようにしよう。


 その後、重苦しい空気の中食事が始まったが、全く味を感じることが出来なかった。


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