第八話
「ジーク……」
立ち上がったジークの姿に俺は驚いた。
大丈夫なのか、お前。
「ほう、よもやその状態で立つか。だがしかし、我が黒槍のアームドスキルの能力『形態変化』の前では貴様など無力よ」
「無力かどうかは……まだわかんねえだろ……」
地面に刺さったままの手斧を弱々しくジークが引き抜いた。
その姿にボロが呆れたようなため息をつく。
「分からんな小僧。これだけの力を前にして、なぜそこまであがく」
心底解せないといった顔をするボロを前にして、しかしジークはニヤッと口の端を吊り上げると、
「……負けられねえんだオレは」
「なに?」
一度ジークはフーっと大きく息を吐き、今度はすうっと息を吸い顔を上げた。
「採掘王に、オレはなる!」
ドン! という音がどこからか聞こえてきそうな決めセリフだった。
「あの採掘王ヴィンセントみたいにこの世の全ての鉱石を手に入れて……オレはよ、リビルドから生まれてくる
採掘王? なんだそりゃ。
俺の疑問をよそに、ジークの言葉を聞いたズルガンが大声で笑い始めた。
「ヒャッヒャッヒャ! ジークぅ! 採掘王なんて本当に言ってんのかよ!? お前みたいなのがなれるわけねーだろ、バァカ!!」
「笑いたければ笑え。オレは本気だ! オレの夢は採掘王だ!!」
俺にはジークの言う採掘王というのがどれほどの存在かは分からない。
だがこんな状況の中、臆面もなくジークは夢を語ったのだ。
それはとても難しいことで、そして本気なのだろう。
「だからオレの夢を邪魔するものは全部ブッ飛ばしてやる! この先どんな相手が立ちはだかろうと、勝って勝って勝ち続けて……オレは絶対に採掘王になるんだ!!」
ドクン、と。
自分の胸の鼓動が大きく脈を打ったのが分かった。
己の夢を、野望を、全力で宣言するジークの姿に自分でも言いようのない何かを感じている──この気持ちはいったい……。
「気に入らんな。小僧」
さっきまで黙って聞いていたボロが鼻を鳴らした。
「採掘王だと? その名を軽々しく口にするな」
なにか思うことでもあるのだろうか。
その声にははっきりとした苛立ちが感じられた。
「貴様のような世界の広さも知らぬ若造が!」
「だからこれから知りに行くんだオレはよ。このオレ自身の足でなあっ!!」
そう言い返したジークは手斧を片手に駆けだすと、ボロに対して斬りかかった。
血まみれになりながらも向かっていくその姿には、はたから見ている俺でさえも鬼気迫るものを感じた。
「邪魔をすんじゃねえオッサン!!」
「ぬっ……ぐ……!? うぐ……うおおおおおっ!!」
斬り合いの中、ジークの気迫に押されたのか思わずといった感じでボロが再び黒い槍の形を変化させた。
槍の両端が触手のような生物的な動きに変わると、さながら鞭のごときしなりを見せてジークの持つ手斧もろともジークの体を斬り裂いたのだった。
「クソ……ったれ……」
「これ以上貴様ごときに貴重なアームドスキルを消費できるか! さっさとくたばれ小僧!」
フラフラのジークに向かって怒りを露わにしたボロが槍を大きく振りかぶった。
やばい、これ以上させるか。
「ジーク!」
そのとき、俺の体は思わず動いていた。
「ギンジョー!?」
「いっつ……! ぐ……!」
なんとか飛びついてジークごと槍を避けたつもりだったが、肩の辺りに刃先がかすってしまったようだ。
痛ってえ。
「ぬう……雑魚がちょろちょろと」
俺はいったんボロとの距離を離すと、フラフラになっているジークをとりあえず地面に寝かせた。
(……大丈夫、俺だってやるときはやれるはず)
緊張しているのかドクン、ドクンと己の心臓の鼓動が早くなっているのが分かる。
覚悟を決めろ。
そして俺は立ち上がると、ボロに対して向かい合った。
(こっちは初プレイの初心者……。対面はやり込んだ上級者ってとこか)
ハハ、こんな時でもゲームに例えてしまう俺はなんなんだろうな。
斬り裂かれた肩の傷が想像よりも遥かに痛い。
だが今は、そんなことどうでもよかった。
「まだゲームオーバーじゃないだろ、ジーク」
ジークの語った言葉に、そしてこの絶望的な状況に。
なぜか熱くなっている自分がいる。
まるでゲームセンターでゲーム台を挟んで向かいの知らない人と対戦ゲームで戦っているときのような……ただの緊張じゃない、なぜか心臓の鼓動が思わず早くなってしまう感覚だ。
「採掘王ってやつになるんだろ。こんなところで負けてられないよな」
「ギンジョー……お前、何を」
さっきのお前の言葉、気に入った。
勝って勝って……勝ち続ける。
それが俺を助けてくれたお前の夢だってんなら俺も手伝ってやる。
俺がどうにかして元の世界に帰れるまでは……お前が採掘王になれるように、俺が隣にいて手助けしてやるからよ。
だから──、
「まずはこの戦い、絶対に勝つ」
俺はポケットの中にあった一枚の100円玉を握りしめると、そのまま腕を引き抜き大きく前に突き出した。
「クク……なんの真似だ? 田舎者の雑魚がいまさら何をするつもりだ?」
侮り慢心するボロの声が俺の耳に届いた。
だが、もはや今の俺には煩わしい雑音など気にも留まらない。
(信じろ。あの感覚を)
応えてくれよ100円玉。
見せてやろうぜ、俺たち異世界からの意地ってやつを。
そして俺は叫んだ。
「メルトッ──!!」
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