第六話

 とっくに日は沈んで外は夜の闇だ。

 ジーク達の村に近づくと、村の空には白い煙がもうもうと上っていた。


(夜なのにあの辺りだけ異様に明るいな……。火事? 燃えているのは……家か)


 俺が小窓から外の様子を眺めているとトラックは村の近くで停車した。

 真っ先に飛び出し村の中へ走っていくジークを先頭にして、俺とリィナもすぐにトラックから降りて村の入口付近まで近づいていった。

 すると、


「遅かったなぁ~ジークぅ~」


 燃える民家の前で炎によって照らし出されたのは、いかにも人相の悪い怪しいやからどもだった。

 手にはそれぞれ剣や槍などの危なそうな刃物を所持している。 

 その傍らでは村の住人と思しき人たちが数人、縄で縛られて座らされていた。

 

「テメエらあっ!! 誰のシマに手え出したかわかってんのかっ!!」


 本気でブチ切れてるっぽいジークが怒鳴り声をあげた。

 すごい迫力だ。ビリビリと周りの空気が震えている。

 そんな中で、悪そうな連中の真ん中にいたロン毛野郎が一歩前に出てきて笑い声をあげた。


「『狂犬』ジークぅ……。こんなクソ田舎のここらじゃ少しは名が通っているようだが、俺からしたらこのちっせえ村を健気に守ってるかわいい番犬にしか見えねえなあ」


 ヘビを思わせる鋭い目つきのロン毛野郎はそう言ってニタニタと笑っている。

 その姿を見たジークが何かを思い出したかのように目を見開いた。


「お前は……!?」

「思い出したかぁジークぅ? この俺の顔をよお~」

「このあいだ村を襲ってきた……! オレがボコボコにして追い払ってやった弱小採掘団の……!!」

「ぐっ、黙れ! あのときは油断しただけだ!」

「名前はたしか……ゴミカス?」

「ズルガンだっ! 一文字も合っとらぁん!」


 ズルガンが喚くようにそう叫ぶと、捕らえられている村人たちの中から一人の女の子らしき者が声をあげた。


「ごめんなさいジークくん! ボクも捕まっちゃいました」

「リオ! お前もいたか! 心配すんな、すぐに助けてやる」


 こんな状況でも自信満々に言い切るジークがちょっとかっこいい。

 それを聞いたズルガンが当然のごとく声を荒げた。


「てめえジークぅ! なに舐めたこと抜かしてやがんだぁ!!」

「フン、一つだけ聞いとくぜ。お前らの目的はこの村の無限鉱山か?」

「あたりめえだろがぁ! それ以外何かあるかぁ!?」


 俺には何のことか分からないが、どうやらこの村には悪党に狙われる価値の高いものがあるみたいだ。

 それにしたってこの世界には警察とかいないのか?

 略奪してくる悪党が出てくるとか……なんとも物騒な世界である。


「おおっと! ジーク、動くなよぉ!!」


 すると突然、ズルガンがジークに向かって叫んだ。


「ったく、油断も隙もねえなあ。その後ろ手に隠したアース鉱を投げ捨てろや。この人質たちが目に入らねえのかてめえはよぉ」

「ちっ。なかなか目ざといじゃねえか、ゴミカス」

「ズルガンだ!!」


 どうやらジークは俺を助けた時のあの武器に変わる鉱石を隠していたようだが、先にズルガンに見つかってしまったみたいだ。

 ぬう。しかしこの状況、俺はどうしたらいいんだ。

 隣のリィナも心配そうに状況を見守っている。


 何かないか、なにか……。


「残念だったなぁジーク。今日からこの村は俺たちナージャ採掘団のものだぁ」

「クソ、誰がテメエらなんかに」


 そう言ってジークが忌々しそうに白い鉱石を後ろに投げ捨てた。

 二転三転と転がり始めた鉱石。

 コロコロコロコロ。

 そのまま地面を転がりジークの元から離れてゆく。

 

(ん?)


 そしてなんと。

 転がっていた鉱石は、離れたところにいる俺の足元でピタリと止まったのだ。

 

(あれ、これは)


 そう思いジークの方に視線を向けると、ジークが後ろ手でジェスチャーを出していた。

 なるほど。


「ヒャッヒャッヒャ!! 武器も捨てちまってすべなくなっちまったなあジークくぅん!?」


 高笑いをしながらズルガンが一人でにジークに近づき、その肩を乱暴に叩いた。

 悔しさにうつむいたように見えるジークの様子を見て、満面の笑みを浮かべたズルガンは仲間たちの方に振り返った。


「お前ら、今日は宴だ! 見張り以外の奴は村の中のもの全部かっさらってこい!」


 ズルガンがそう言うと、ならず者の輩たちの方から汚い歓声があがった。

 その時だった。

 

「だから弱小って言ったんだよヘビ野郎」

「あ?」

「敵の目の前で気い抜く馬鹿がどこにいるってんだ、なあ──!」


 ジークが自身に背中を向けていたズルガンの尻をドカッと蹴り上げると、そのまま捕まっている村の人たちのいるほうに向かって走り出した。


「ギンジョー!!」

「あいよ」


 俺がすでに投げていた白い鉱石はジークの走り出した先の地点に向かって落下し、ジークが上げた右手の手のひらの中に見事にダイブした。


「い~いパスだぜ、ギンジョー!」


 おう、任せろ。

 相方が欲しいタイミングで指示通りを完璧に。

 ゲームの2onやパーティプレイの基本だ。


 そしてキャッチしたジークが鉱石を握りしめると、


「メルト……リビルド!!」


 眩しい閃光が一瞬だけ輝き、次の瞬間にはジークの手に武器が握られていた。


「げ、手斧か。まあいいや」


 小型の斧を持ったままジークが素早い身のこなしであっという間にならず者たちを切り伏せてゆく。

 はー。かっこいいな、アイツ。

 俺を助けてくれた時もそうだったが、ジークの動きに手も足も出ない相手の様子を見ているとやっぱりジークは強いのだろう。


「キッシッシ! オレ様にとっちゃこの程度なんの問題もないぜ!!」


 ほとんどの敵をダウンさせて誇らしげに笑うジーク。

 すると、先ほど蹴られて間抜けな恰好で倒れていたズルガンがようやく起き上がり、剣を構えてジークに突進してゆく。


「くそぉ! ジークてめえ!!」

「フンッ!」


 ジークはズルガンの振るった剣をあっさりと弾くと、もう一度その場でズルガンを蹴り飛ばし、


「で? 為す術が何だって?」


 そう言ってジークは尻もちをついたズルガンの喉元に刃を近づけた。


「そ、そんなバカなぁ! この俺がこんなやつにぃ……」

「オラ。あんまり動くと首が切れちまうぞ」

「ひぎぃ!!」


 ジークの洒落にならない脅しに悲鳴にも似た奇声をあげるズルガン。

 どう見ても勝負アリだった。

 

(ふう。うまくサポートできてよかった)


 なんとか事態は解決したようだな。 

 縛られている村の人たちも一安心といったところだろう。

 だがその時、俺の隣にいたリィナが何かに気付いたように声をあげたのだった。

 

「ジーク! 後ろよ、危ない!!」

「!?」

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