第五話
ジークが言っていた
金属だって鉱物、つまり鉱石の一種だろう。
だったらこの日本円の硬貨って……。
「なあジーク。ちょっとこれ見てくれ」
「あぁ? どうした」
まだリィナと言い合っていたジークに俺は100円玉硬貨を一枚見せた。
すると、
「なっ……」
急に目の色を変えて大口を開けたジーク。
「なんだぁそりゃ!? ギンジョー、それは……ッ!?」
「ああ、俺の世界のお金で……通貨と言った方がいいのかな。あれ、そういえばこの世界の通貨ってどういう」
「ええいっ! いいからそれをもっと見せろや!!」
ジークがすごい勢いで俺の手から100円玉をひったくっていった。
おいおい、そんなに興奮することか。
「なんだこれなんだこれ……。ここまで綺麗な円形のメタル鉱なんて見たことも聞いたこともねえぞ。それにこの光沢。しかもこれ、数字となんか模様まであるぞ」
「そりゃ100円玉だからなあ。あとそれはメタル鉱じゃなくて金属っていって」
「おいギンジョー! これは本当にリビルドで生まれたものじゃないんだな!?」
「だから俺の世界にはリビルドなんて無いって」
まったく。
人の話を全然聞こうとしないな。
「これが天然物だってんならもしかしてこのメタル鉱……サイズは小さいがレアメタル鉱かもしれねえ。だとしたらAランクの……いや、もしかしたらSランクの
「Aランク? Sランク? なにそれ」
「説明は後だ! そうと決まりゃあさっそくリビルドするぜコレ!! いいよなぁ、ギンジョー!?」
「はいはい、好きにしてくれ」
どの道俺じゃあ扱えないしな。
100円玉一枚で一人でに盛り上がっているジークに呆れていると、後ろからリィナが申し訳なさそうにゴメンねと声をかけてきた。
「アイツすぐ突っ走るとこあるから」
「いいよもう。いい加減分かってきた」
「でもねギンジョー君。もしホントにアレがレアメタル鉱だったら凄いわよ! アタシ達、一気にお金持ちになっちゃうかも!」
「へえ。そんなにスゴイんだ、そのレアメタル鉱って」
どうやらこの世界では相当価値のあるものらしい。
ジークだけでなくリィナもどこか興奮気味の様子だ。
(しかしそうなると……)
俺の財布にはまだ50枚近くもの100円硬貨が詰まっている。
本当にあの100円玉が全部そうなのだとしたら……。
さすがの俺も少しだけ緊張してきた。
「おいお前ら! 何ごちゃごちゃ言ってんだ! いくぞ見とけよ!」
右手の手のひらに100円玉を乗せたジークが叫ぶ。
ついにやるようだ。
俺とリィナが固唾をのんで見守る中でジークはしっかりと腕を伸ばすと、手のひらの上に乗せた100円玉をぎゅっと力強く握りしめた。
そして──、
「メルト!!」
気合の入ったジークのかけ声が部屋に響き渡る。
さて結果は──、
しーーーーん。
「だあクソッ! やっぱリビルド済みじゃねえか、ギンジョー!」
静寂に耐えかねた様子のジークが逆ギレしてきた。
あれ、ダメだったのか。
「お前さてはオレをからかったのか!? あん!?」
「違う違う。勝手にお前が自爆しただけ」
「んだとお~!? こんにゃろ~!!」
「ぼ、暴力は反対なり」
俺の胸ぐらを両手で掴んでブンブンと揺すってくるジークに、せめてもの抵抗と非暴力主義を主張する俺。
そんな俺たちを見てリィナが大笑いしていた。
「アッハッハ! も~そんな都合のいい話なんてあるわけないじゃないジーク。ほら、気は済んだでしょ? もうすぐ村に着くんだからさっさと支度してよ」
「ちぇっ! だが、そうだな……っと、その前に運転席のロロウェイの様子だけ見てくるぜ」
俺から手を離したジークは、キシシっとまた癖のある笑い顔を見せると、
「悪かったなギンジョー。ほら、返すぜコレ」
「ああ」
ジークはそう言ってカウンターの上に100円硬貨を置くと、運転席に直接つながるドアを開けて部屋から出て行った。
ふん。騒がしいやつめ。
そんな風に俺がため息をついているとリィナがアハハっと朗らかに笑った。
「そのメタル鉱、残念だったね~ギンジョー君」
「うーん……いけると思ったんだけどなあ」
「切り替えていこ! それじゃあちょっとこのままここで待っててくれる? 村に着いたら荷物下ろすからその時また手伝ってちょうだいね」
「げ……荷物下ろしか。まあ雑用係だもんな俺。うむ、了解」
「またあとでね」
エプロンを脱いだリィナはそれだけ言うと、運転席とは反対側にある部屋の扉から出て行ってしまった。
あっちには男女別々の団員用の小部屋があるってさっきジークが言ってたな。
身支度でもするのだろう。
(もう少しこの世界のこと聞きたかったが……。後にするか)
急に一人になってしまったな。
俺はカウンターに突っ伏すと、さっきジークが置いていった100円玉を手に取りおもむろに手の上でコロコロと転がしたりし始めた。
(これだって鉱物なのになあ。なんでリビルドできなかったんだろ)
なにか法則とかでもあるのだろうか。
それとも異世界の物は元々ダメなのかもしれない。
(お前らも俺と同じ、この世界では役に立たない異物扱い……か)
やや自虐ぎみに100円玉に向かってそんなことを考えている俺はやっぱり疲れているのだろう。
なんとなくさっきのジークの姿が頭の中に残ってて、俺はボーっとしたままなんとなくさっきのジークと同じように右手を伸ばした。
そしてそのまま100円玉を握りしめると、
「メル……」
と、そこまで口にした瞬間だった。
──ゾクゾクゾクッ!
なにか悪寒のようなものが身体の底から一気に這いあがってきて俺はすぐに手を離した。
なんだ。
今の感覚は……いったい。
(まさか……)
ごくり、と生唾を飲み込んだあと、俺は意を決してもう一度100円玉を手の中に握り込んだ。
そして──、
「おいお前ら大変だ! 村が!」
いきなり運転席につながるドアが勢いよく開いたかと思うと、ジークが血相を変えてそんなことを叫んだのだった。
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