第三話

§


 どんな世界、いつの時代だろうと。

 人がいるかぎりその欲望に際限はありえない。 


 鉱物を、別の物質へ。

 そんな物理法則がまかり通るのが当たり前の世界。

 世界各地に存在する鉱山や採掘場を巡って、一攫千金を狙う者、手に入れた鉱物で力を求める者、はたまた酔狂な冒険家などが数多く跋扈ばっこし、世界はいまだ混迷の時代にあった。


 そんな中、ある一人の男が彗星のごとく現れ瞬く間に世界を制覇した。

 その名もヴィンセント・シルバ。

 世界中にある全ての鉱石を手に入れ採掘王とまで呼ばれた男は、人々の前でこう叫んだ──、


『探せ! この世の全てをそこに置いてきた!』


 ……とは、流石に言わなかったが。

 誰も見たことがないような虹色に輝く鉱石を掲げながら、ヴィンセントは高らかに宣言したという。


『世界に平和と健全な発展を』

 

 彼の発言に世界中の人々が湧いた。

 そしてヴィンセントはこれまでの長い採掘探検の末に手にいれた莫大な財宝と人脈を使い、採掘団の仲間たちとともに一つの大きな国を建国。

 自らを王として君臨する王都を築き上げると、軍隊を組織し、王都を中心に世界各地の鉱山・鉱床などの厳しい取り締まりを始めたのだった。

 

 これによって鉱石を巡って争う無法者たちの動きが沈静化。

 動乱の世はみるみるうちに治まりをみせていった。

 世界に訪れた平和の兆し。

 人々はヴィンセントを偉大なる英雄と崇め、財貨・栄光・権力、この世界の全てを手にした者の称号として改めて彼を採掘王と呼んだのであった。


 だがそれから数十年後。

 突如、ヴィンセント・シルバは失踪した。


 王のいない玉座。

 空いた採掘王の座を狙って、なりを潜めていた採掘者たちがこぞって動きを始める。

 世界は再び、鉱石を巡る動乱のうねりに飲み込まれてゆくのであった──。


§

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