第22話:ハーピィは何故おっぱい丸出しなのか?

 能力値を上げたら、今度はスキルの獲得だ。


 が、こちらはあっさり決まった。

 以前に勇者様のせいで入手し損なった『応急処置』と、新たに取得可能一覧に現れた『ギャザリング』というスキル。

 スキルポイントはレベルが奇数時の時に貰えるから、今回は3つレベルアップしたのでふたつを獲得し、おかげでこれらをゲット出来た。


 ただ『応急処置』はともかく『ギャザリング』は、なんとなく魔王様にハメられた気がする。


 だってこれ、内容が「敵の注意を自分に向けさせる」なんだもん。

 まるで囮役なあたしのためにあるようなスキルじゃないか!

 

 まぁ、他のスキルはどうにも縁が無かったり、もっとスキルポイントが必要だったりしたので結局これを選んだのだけれど、その時に一瞬浮かべた魔王様の「よく分かってるじゃないか」的な微笑になんだか上手くやり込められた気がしないでもない。


 ま、それはともかく。


 能力値を上げて、スキルを獲得すると本格的にあたしはやることがなくなってしまった!


「ねぇ、魔王様ぁ。CHA魅力を上げられるのなら、あたしも経験値稼ぎしたいー」

「さっきのは特例だ。それにキィも戦闘に加わると、経験値が勇者と折半になってしまうではないか。それでは勇者の成長が遅れて、余が待たされる時間も長くなってしまう。却下だ」


 魔王様はドラコちゃんの横に寝そべりながら、つれないことを言う。

 魔王様が何を考えているのか全然分からないけれど、ここに来た目的は勇者様を強くすることだけのようで、本人はいたってのんびりとしたもんだ。


「それよりキィも日光浴をするとよい。陽の力は骨を丈夫にすると言うぞ」


 日光浴って……魔王様のイメージがますます崩れるなぁ。

 それでも別にやることもないし、あたしはしぶしぶ傍らに腰掛けた。地面と近くなり、草の匂いが鼻につく。でも、嫌いな匂いではなかった。


「腰掛けるだけでよいのか? 寝そべると気持ちがよいぞ?」

「……ねぇ、魔王様」


 あたしは魔王様の問いかけを無視して、逆に思い切って気になっていたことを質問してみる。


「魔王様って魔族の王様ですよね?」

「そうであるな」

「でもって、人間の敵」

「……ふむ」


 魔王様が一呼吸遅れて肯定する。


「なのに、どうして人間である勇者様に肩入れするんですか?」


 噴水の畔では相変わらずスライムで経験値稼ぎしている勇者様の姿が見える。

 蘇ったばかりの貧弱さはとうに消え去り、力を取り戻しているのが遠くからでも分かった。

 多分、もうレベル60ぐらい行ってるんじゃないかな。


「おかしな話ですよね? それにあそこで勇者様にボコられてるスライムって魔王様の仲間でしょ? どうして仲間を犠牲にしてまで、勇者様を育て上げるんです?」


 返事をしない魔王様に、あたしはさらに問いかける。

 よし、この際だからアレにも切りこんじゃえ。


「そもそも魔王様の野望って」

「キィ、お前は思い違いをしているぞ」


 うっ。今度はこちらの話の鼻を折られた。


「余は確かに魔族の王である。が、モンスターの王ではない」

「え? えーと、あれ、魔族とモンスターって一緒じゃないの?」

「違うな。魔族はモンスターと違って言葉を操るし、なによりほれ」


 魔王様が指差す方を見ると、噴水から勢いよく虹色スライムが飛び出すところだった。


「あのような無限復活なんぞ出来ん。我らも普通の人間と同じ、一度死ねば復活なぞ出来ぬのだ」


 だと言うのにお前たちは魔族もモンスターも関係なく皆殺しにしようとする、と魔王様が続ける。

 あたしは言葉もなく、ただ驚くばかりだった。


 だって魔族もモンスターも呼び方が違うだけで、同じものだとばかり思っていたもん。

 それは多分、私だけじゃない。きっと勇者様も、他の冒険者たちも、世界中の人が私と同じ認識のはずだ。


 それにモンスターは無限に復活するけど、魔族は一度死ねば復活が出来ないって……それはつまり!


「ってことは復活した勇者様はモンスターってことですかっ!?」

「誰がモンスターだ!」


 ズドン!


 すかさず頭が体内にめり込むぐらいヘビーなゲンコツを脳天に喰らった。


「痛ぁ! ちょ、勇者さまぁ、さっきまであっちで経験値稼ぎしてたんじゃないのッ?」

「お前がボケる気配がしたので慌ててツッコミを入れに来てやったのだ。ありがたく思え。んじゃ」


 そして勇者様は再び噴水の畔の狩猟場へと戻っていく。


「うむ、今のは勇者に助けられたな。余ではあそこまで無遠慮なツッコミは出来ぬ」

「出来なくていいですっ!」


 あたしはいまだズキズキする頭をさすりながら、涙目で魔王様に訴える。


「勇者はもちろんモンスターではない。が、かといってお前たちとも少し違う、特殊な存在なのだ」


 そーですね。普通の人は女の子にあんなきっついツッコミを入れるわけないもん。


「中でもあやつは極めて珍しいパーソナルスキルを持っておる。一撃必殺キラータイトル――あのスキルならば回避率など関係なく虹色スライムを倒すことも、さらには……」


 おふざけモードから一転、魔王様の言葉を静かに拝聴する。

 だって「さらには……」の先にあたしが聞きたかった事柄があると感じたからだ。


 ところが。


「それはそうと。キィよ、お前たち人間はもっと魔族を知らなければならぬ」

「ああ、もう! 魔王様、今はそんなことよりその先の話を聞かせてくださいよっ」

「『そんなこと』とはご挨拶だな。今後我らと共に生活を送るお前は、魔族について知っておく必要がある。たとえばハーピィ。彼女達がなぜ上半身裸でおっぱい丸出しなのか知ってるか?」

「知らないよっ! てか、それよりも」

「であろう? アレにはしっかり深い理由がある。なぜならば奴らのおっぱいは……」

「もう、おっぱいはいいから! それよりも魔王様、これだけは言っておきますよ!」


 ごまかされてなるもんかと、あたしは強引に話をシリアスモードへ戻す。


「レベルを上げた勇者様が魔王様の野望を手助けするなんて考えていたら、それは甘すぎですよっ!! あの人のことだからきっと強くなったら」

「余に復讐を果たそうとするのであろう?」


 魔王様の言葉にあたしは絶句した。


「それは想定しておる、問題ない。今はそれよりもキィへの教育の方が大切だ」


 結局、あたしの忠告なんてどこ吹く風とばかりに、魔王様はあれやこれやと魔族について話し始めた。


 なんでもハーピィは魔族の回復役らしく、あのおっぱいには高品質の回復エキスが詰まっているらしい。戦闘時には彼女達が戦場を飛びまわり、他の魔族たちにその乳房を口に含ませては体力を回復させるのだそうだ。


 他にもグールは実は綺麗好きで自分の体臭を常に気にしているらしく、スケルトンは死者が中途半端に蘇ったのではなくて生まれた時から骨だらけ。

 ガーゴイルは修行僧で、石化している時は瞑想中なのだそうだ。故に瞑想を邪魔されると烈火として怒り出すのだけれど、後でそんなことで怒っていては悟りへの道はまだまだ遠いと落ち込むそうで、ぶっちゃけ面倒くさい性格だなと思った。


 ちなみにモンスターたちは彼ら魔族とそっくりだけれど、さっき魔王様もおっしゃったように言葉が通じないし、やつらは人間だけでなく魔族も襲うらしい。おかげで魔族の間では「お互いに一声掛けて確かめあう。挨拶は魔族の嗜みです」という標語があるそうな。


 うん、どーでもいいよ、そんなのっ!


 それよりも魔王様、ホントに一体何を考えているの!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る