第21話:隠しステータスOPI
魔王様の野望が一体どういうものなのか、あたしにはさっぱり分からない。
ドラコちゃんの知識が必要で。
さらに力を付けた勇者様も欠かせないと言う。
確かに魔王様の元にそのふたりが加わったら天下無敵だと思う。
でも、だからといって釈然とはしない。
だって魔王様はきっと地上最強なんだもん。ドラコちゃんや勇者様の力を借りる必要なんてないじゃん。
それに勇者様へステイタスカードを返しちゃったのもわけわからない。
アレは文字通り、勇者様を制御する手綱だったはずだ。
もしかしたらステイタスカードなんてなくても、勇者様を自分の思い通りに出来ると思っているのかなぁ。
だとしたら、魔王様はまだ勇者様のことをよく分かってない。
あの人はおバカで、エロくて、自己中心的で、そしてとことん単純なんだ。
「世界をひれ伏す力を身に付けよ」なんて言われたら、その気になって本当にそんな力を身につけてしまってもおかしくない。
そしてそうなった時、勇者様が最初にやることと言ったら……。
あまり考えたくはない。
それに考えたところで、あたしに一体何が出来るというのだろう?
来るかどうか分からない未来に怯えるのも嫌だし、だからあたしは努めていつものように振る舞うのだった。
「ねぇ、魔王様。ホントにSTRを上げちゃダメなんですか?」
「くどい。STRとは言うならば筋肉の増強ではないか。確実に体のバランスが崩れる」
ぴょこん!
ばしん!
「ううっ。だ、だったら
「運が良いにも関わらず、不器用というところもまた能力の秘訣かもしれん。却下だ」
ぴょこたん!
ばしし!!
「ん、んじゃ、せめて
「案外、おバカなところが深く関わっているかもな。計算では成り立たない、あの有り得なさを見ているとそう感じるところがある」
ぴょっこり!
ずばばんっ!!!
「もう、だったら一体どうすればーっ!」
「だから先ほどから……おい、勇者よ、もう少し静かに経験値稼ぎは出来ぬのか!?」
ついに魔王様がツッコミを入れた。
噴水の畔でレベルアップに勤しむ勇者様から十分距離を取っているのに、虹色スライムの登場音と、勇者様の攻撃する音が私たちまで聞こえてくる。
ドラコちゃんはそんなのお構いなしに爆睡中だけど、ぶっちゃけうるさい。
特にスライムの登場音は仕方ないとしても、勇者様の攻撃音は……。
でも、そんな魔王様の抗議に両肩を上げて「どーしよーもねぇ」とゼスチャーする勇者様。
そして噴水の水辺に隠されていたスイッチを踏みつけると、
ぺったんっ!
ちょっとオマヌケな音と共に、虹色スライムが噴水から勢いよく飛び出してきた。
すかさず勇者様の攻撃。
「かっきーん!」
どこかで拾ったらしい木の棒をスライムめがけて水平に振り絞りながら、勇者様が気持ち良さそうにその攻撃音を口ずさんだ。
「お前は子供かっ!?」
魔王様のツッコミもどこ吹く風とばかりに、それからも勇者様による「どがしゃーん!」とか「ずがらぼん!」とか「オラオラオラオラオラ!!!」とかの攻撃音が繰り広げられた。
そう、勇者様に正論を言っても無駄なんだ。
あたしがツッコミを入れなかったのは長い付き合いからそれを学んでいたから。
魔王様も今回の件で分かったんじゃないかな、うんうん。
「って、そんなことよりも」
いまだ不満そうな表情を浮かべる魔王様を無理矢理振り向かせて、あたしはさらなる嘆願を試みた。
だってねー、せっかくレベルがみっつも上がったのに能力を上げられないなんて、そんな殺生な話ってないじゃん。
「何かひとつぐらい上げてもいい能力ってないんですかー? あたしの大切な能力ポイントなんですから、魔王様も反対ばかりしないでよく考えてみてくださいよぅ」
これでダメなら「良い上司とは部下の意見にすぐ反対せず、どうにかして実現出来ないかを考えられるものだ」って話をしてやろうかと思う。
「くどい。そんな都合のいいものがあるわけ……いや、待てよ。あれなら問題ないか……」
おおっ、マジデスカ!?
こちらが奥の手を出す前に何かを思いつかれるとは、さすがは魔王様、やれば出来る子!
「え、どれどれ、どの能力上げていいの?」
「
「えー、CHAですかぁ? これまた戦闘では何の役にも立たない能力じゃないですかーっ!?」
そういうのじゃなくて、あたしは戦闘で役立つ能力を上げたいんだっ!
そりゃあドラコちゃんと戦った時みたいに攻撃は他の人に任せて、あたしは囮になるのが役目だってのは理解してるよ……素直には受け入れ難いけど。
それでもさ、せめてひとりでもそれなりに戦える力って必要だと思うんだよー。
いつまた戦闘をふっかけられてもちゃんと戦えるよう、自信が持てるぐらいの戦闘能力が欲しいんだってば。だってほら、あたしも一応冒険者なんだからっ!
「仕方なかろう。キィの戦闘で活躍したいという無駄に積極的な姿勢は評価してやりたいが、そもそもお前は戦闘にはむいておらぬのだ。それに冒険から離れれば、LUKもCHAも生活面では役立つ能力だぞ」
「んー、そうかなぁ」
あたしは頭を捻って、これまでのことを思い出そうとする。
LUKが高いのだから、それなりに良い想い出がありそうなものだけれど、残念ながらちっとも思い浮かばなかった。
あ、でもCHAはLUKと違って見た目に影響が出るからなぁ。もっと効果は実感できるかもしんない。
例えば雑貨屋さんで何か買い物をしたら「キィちゃんカワイイからオマケしとくよ」って感じで回復薬を貰えたり、とか……。
「ビミョーだなぁ」
思わず呟く。すると魔王様が
「ならば今回の能力アップは諦めるのだな」
と、あたしの手からステイタスカードを素早くひったくって胸ポケットにしまおうとした。
「うわん。ちょっと待って魔王様、誰も能力アップしないなんて言ってないよー」
「だったらぶつくさ言わずに素直にCHAを上げるがよい」
苦笑いを浮かべながら、魔王様がステイタスカードを再度手渡してくれた。
なんか上手く魔王様にやりこめられたような気がするけど、ま、いいか。
「えーと、CHAっと……あ、でも、魔王様、これでもやっぱり肉体影響って出るんじゃないですか?」
「うむ? どういうことだ?」
「だってほら、魅力が上がるんでしょ? ってことは、きっとCHAを上げるとおっぱいもばーんって感じで」
あたしはまだ発育途上にある胸元で、キョニューンになる様子を手でゼスチャーする。
ブラボー、おおっ、おっぱいブラボー。
あ、しまったっ、魔王様に何も言わずとっととCHAを上げてしまえばよかったかも!
「それならば問題ない。CHAとおっぱいは何の関係もないようだからな」
「へ? そなの?」
「このあたりは人間の嗜好である故、キィのほうが詳しいであろう。なんでもお前たち人間の男性には、女性の胸に対して様々な嗜好があるらしいではないか」
魔王様の言わんとすることは分かる。
勇者様はボインボインな巨乳が大好きだけど、中には小さいのが好きだって人もいるわけで。昔、酒場でそんな話題で盛り上がっている他の冒険者ご一行を見たことがある(ちなみにあたしは微乳派の代表格らしい。まったくもって失礼な話だ)。
「それにおっぱいは隠しステータスOPIの管轄らしいぞ」
「ええっ!? 隠しステータスOPI? なんですか、それ?」
聞いたことないぞ、そんなの。
「OPIはどうやら十段階で、レベルが上がるほど大きくなるらしい」
「レ、レベルはどうすれば上がるんです?」
「ふむ。STRと
うわん、ここでもSTRがっ!
ってことはあたしのおっぱい、勇者様や魔王様と一緒にいる限り、もう大きくならないじゃん!
「ちなみにキィのOPIは2だ」
魔王様が何気にトドメを刺しにきた。
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