第17話:名は体を表す?
しかし、二度目の儀式は必要なかった。
だって勇者様ったら勝手に蘇ってきたんだもん。
焼け焦げた塊がいきなりボロボロと崩れ始めたかと思うと、中から何事もなかったかのように這い出てくる勇者様……この人、ホントに人間なの!?
「おおう! なんだ、この幼女たん。いきなり火を噴いたぞ!?」
「そりゃそうですよ。アリスローズちゃんはドラゴンだもん」
「なにっ!? ドラゴンだとぅ!?」
「ふふん、愚かな人間よ、わらわの立派なしっぽを刮目せよ!」
あたしの説明に驚く勇者様に威厳を見せつけようと、アリスローズちゃんがお尻を向けてご自慢のしっぽをどすんと地面に叩きつける。
薄紅色の鱗が松明の光に妖しく揺らいだ。
「しっぽ……」
「そうじゃ。どうだ、美しかろう?」
「こんなにカワイイのにしっぽがあるだとぅぅぅぅ!?」
アリスローズちゃんのゆらゆらと揺れるしっぽに対して、勇者様があたしの頭をがくんがくん揺らして驚きを表現する。
「うわん、勇者様やめてー。昨日のお酒がぶり返してくるぅ。ぎ、ぎもちわるい……」
「キィ、こいつは本当にドラゴンなのか?」
「だーかーらー、さっきからそう言ってるじゃんー」
ぴたり。
唐突に勇者様は揺らすのを止めた。
あたしの願いを聞き入れてくれた……なんてことはない。あるわけない。そんなに聞きわけのよい勇者様だったら、今頃あたしはもうちょっとマシな人生を過ごしているはずだもん。
勇者様が動きをストップした理由は単純明快。
感情がシフトしたんだ。驚愕から失望へと。
そして失望が怒りへ変わるのに、時間はほとんど必要なかった。
「こんなにカワイイのにドラゴンだとっ!? ふざけるなぁぁ、俺はケモノ系はダメなんだよっ!」
知らないよ、そんなこと。てか、ケモノ系って何さ?
「ええい、一度喜んだだけに余計腹が立つ。しかも名前がアリスローズ? なんだ、その俺様好みのロリィな感じの名前はっ!」
うん、さっきの行動で勇者様がロリコンの十字架を背負っているのは分かった。
でも、本人からはっきりと言われると改めてショックだ。あはは、あそこで自分はロリコンですってカミングアウトしている人、あたしの元ご主人様なんですよ……。
「よし決めた。お前の名前は今日からドラコ。俺様はドラコと呼ぶぞ!」
ついには勝手に人(?)の名前まで変えちゃった。
さすがは勇者様、唯我独尊!
でも、これにはアリスローズちゃんも黙ってはいなかった。
当たり前だと思う。相手の性的嗜好でイチャモンを付けられた挙句、勝手に名前を変えられてはたまったもんじゃないもん。
「ドラコとはなんじゃ!? この麗しいわらわを『ウンコ』と同じ三文字で呼びつけるとは愚弄にもほどがあるぞ」
出た! アリスローズちゃんのワケワカラナイ文字数理論。
しかも三文字の代表格が『ウンコ』って……あれ、ちょっと待って。てことは二文字のあたしは『ウンコ』よりもさらに下の存在ってこと?
「そうだ、お前なんかウンコだ。俺の純真さを弄びやがって。ウンコ! ウンコー!」
「ぐぬぬ。そういう御主こそ『勇者』の四文字であるから『ボケナス』、『スカタン』、『パチモン』の類ではないかっ!」
「ぬははは。姿かたちは麗しき幼女たんでも所詮はケダモノ、浅はかだなぁ。ああ、『ボケナス』で結構。貴様の『ウンコ』なんかと比べたらはるかにマシだ」
「なぬー! もう怒ったのじゃ。もう一度炎に焼け焦がされて死ぬがよい!」
「あはは、バーカ。こちとらもう死んだばっかでレベルが1になってんだ。この状態で殺されてもなんも惜しくも無いし、すぐに蘇ってやるわ!」
勇者様が「さぁ、やってみろ」とばかりに両手を上にあげ、がに股で左右に身体を揺らして挑発する。
アリスローズちゃんも息を大きく吸い込んでやる気満々だ。
ああ、勇者様、また死んだな……
「ドラコ、やめるんだ」
と、そこへ魔王様がアリスローズちゃんの頭を押さえ込んでブレスを緊急キャンセルする。
「なんじゃ、魔王、とめるでない。とゆーか、御主までもわらわを『ウンコ』呼ばわりするのかえ?」
「アリスローズよ、『ウンコ』と考えるからよくないのだ」
魔王様はアリスローズちゃんに微笑みながら、諭すように話しかける。
「三文字には他にも『華麗』『美形』『奇麗』など、お前に相応しい言葉があるではないか」
……うん、まったくの詭弁だった。魔王様、子供だましにもほどがあるよっ。
「おお、なるほど。言われればそうじゃ
な!」
でも、ころっと説得させられてしまうアリスローズちゃん。
そうかぁ、相当な年数を生きているはずなのに、おつむの方は見た目そのまんまの子供と変わらないのかぁ。
「さすがは魔王よの。普段から三文字で呼ばれているだけあって、三文字言葉に博識じゃ」
「ふむ。ちなみに余は自分のことを『無敵』『覇者』『高貴』と同じ三文字であると常にとらえておる」
ドラコちゃんに話を合わせる魔王様。するとそこへ
「へへん、勇者である俺様も日頃から『天才』『イケメン』『逸材』とみんなから言われているぞ」
何故か勇者様も負けじと俺様スゲーってところをアピールしてきた。
でも、あたし、知ってる。誰も勇者様のことを『天才』とか『イケメン』なんて呼んでいないことを。
てか、魔王様もアリスローズちゃんも勇者様の言葉に「それはない」って顔をしてるし。完全にウソがばれてるのに、ひとり自慢気な勇者様がもう憐れで仕方がない。
「まぁ、それはともかく。アリスローズよ、ドラコという愛称を持つのは悪くはないと思うぞ」
「うむ。華麗という意味での三文字であるならば、そう呼ぶのを許してやってもいいのじゃ」
アリスローズちゃん改めドラコちゃんがニコッと笑った。
よかったよかった、なんだかんだで一件落着だ。
おまけにドラコって愛称が付いたのはよかったかもしれない。なんせ
「アリスローズって名前、地味に言いにくかったもんなぁ」
「ん? キィ、何か言うたかえ?」
ドラコちゃんの地獄耳に慌ててあたしは首を横に振る。
機嫌を損ねて、せっかくの愛称が台無しになっては元も子もない。
「ドラコって響きも可愛くていいじゃないですかって言ったんですよー。でも、それにしても三文字でも色々ステキな言葉があるんですねー。あ、そうだ、私の二文字にも何かステキな言葉を当て嵌め――」
「いや、キィのは『アホ』の二文字でデフォだろ」
「余は『バカ』が相応しいと思う」
「わらわは『クソ』だと思っておったのじゃ」
「なんなんだ、あんたらー!」
何故かあたしに関しては絶妙な連携を見せる三人に、魂の咆哮が洞窟に響き渡った。
冗談じゃない、あたしはイジラレ担当じゃないぞ!
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