第7話:ぽんこつメイドは語りたい

 それは冒険を始めて間もない頃。

 何故か勇者様よりも先にレベルアップしてしまったのが不幸の始まりだった。

 そう、臍を曲げた勇者様が、あたしの能力値で遊び始めたのだ。


「やはりキャラ育成というのは、一点豪華主義で行くべきだな。よし、キィはひたすらLUK幸運を高めてやるぞ」

「うわわわ、それ、一番あやふやな能力じゃないですか! やめてくださいよー。せめてSTR腕力を2つ上げて、メイド武器『竹箒』を装備させてください」

「うるさい、黙れ。お前が竹箒なぞ百年早いわ」


 かくしてあたしのSTRはいまだ3のまま。

 おかげで戦闘では全く使えず、ひたすら見ているだけのお荷物になってしまった。




 それはレベルが20に到達した頃。


「ところで勇者様? あたし、お供する必要ありますかね? 不必要でしたらお屋敷に戻って、また普通のメイドとして働きたいんですけど」


 ふとそんな提案をしてみた。


「何を言う。お前は立派に役立っているぞ」


 珍しく勇者様が優しい言葉をかけてくれる。

 なんだろう、普段が鬼畜なだけに、こんな言葉でも妙にジーンときた。


「お前のスキル、『パーティの獲得経験値上昇』と『獲得金額上昇』は、誰かが持っていないといけない必須モノだからな。あと『記憶術』のおかげでマッピングとかヒントをメモしなくていいし、便利なんだよ」


 ……本人を前にして便利とか言っちゃったよ、こいつ。


「それにお前がいなかったら、誰が危険な宝箱を開けたり、陰湿なトラップを除去するんだ? これこそLUKが高いお前の仕事だろ?」

「えー、それだったらDEX器用さを上げてくださいよぉ」

「DEXぅ?」


 さも馬鹿にしたように勇者様が鼻で笑った。


「あんなの、罠解除以外では何の役にも立たん。それよりも倒した敵がレアアイテムを落とすかもしれないLUKの方が大切だろ? それにLUKが高ければ罠が発動しても、運良く被害を最小に抑えられたりするしな!」


 ……うん、わかった。この人、ヤ○ザだ。きっとそうだ、間違いない。だってさっき見せた優しい態度だって、それってヤ○ザが囲っている愛人への常套手段だもん。


「それに最近では回避も出来るように、AGL素早さも上げてやってるんだぞ。うむ、これからもバンバン罠を発動させて、必死に避けたり、大慌てする姿を見せて、戦闘で疲れている俺様を和ませてくれ、キィ」


 ……お願いします、神様。一日も早くコイツをぶっ殺してください。




 それはとある戦闘終了後。

 LUKとAGLばかり育てられて、戦闘能力は皆無なあたし。

 それでも、戦闘に参加したかった。


 確かに戦闘の矢面に立たなくても、同じパーティということであたしにもわずかながら経験値が入ってくる。

 だけど、いくらあたしが経験値や獲得金の上昇スキルを持っていたり、罠解除が仕事だとしても、やっぱり冒険のメインである戦闘でボケーと突っ立っているのは、なんとも申し訳ない気持ちになるんだ。


 ちょっとでもいい、戦闘で何かの役に立ちたい。


 そんないたいけな気持ちがあたしのわずかな自尊心を打ち破り、勇者様に土下座までして、何か戦闘で役立つようなスキルを付けてくれるよう頼み込んだ。


「うーん、ぶっちゃけ何にもないぞ? 取得するにはある一定の能力値が必要だし、かと言って俺はお前のLUKとAGLしか上げるつもりないしな」


 素っ気無く酷いことを言うな!

 と、いつものように怒りたくなるのを我慢して、あたしはさらに深く土下座して「そこをなんとか」と懇願した。


「そうだなぁ、それじゃあ、この『応急処置』あたりでも取得しとくか?」

「ホントですか? やったー」


 土下座から素早く立ち上がって、勇者様の持っているカードを覗き見る。

 そこには『応急処置』スキルの簡単な説明が表示されていた。

 内容はぶっちゃけ微妙だけど、一応回復スキルだ。


 ああ、これでちょっとは戦闘で役立つことが出来る。

 あたしは有頂天で、思わず舞い踊った。


「あ、間違えた」


 ……ナンデスト?


 歓喜の舞を強制終了して、慌ててカードを覗き込む。


「いや、すまんすまん。思わず隣の『二刀流』を選択しちまったわ」


 勇者様の言うように、カードには『二刀流』のスキルが映し出されていた。

『二刀流』、それはつまり両手に武器を持つことが出来る、攻撃重視の戦闘スタイルスキル。戦闘マニアなら押さえておきたいスキルの一つ、なんだけど……。


「『はたき』の二刀流なんか使い道あるかーっ! 勇者様のおバカー!!」


 かくしてあたしにまたひとつ何の役にも立たないスキルが追加された。

 

 

 

 

「まったくしょうもない奴だったのだな、その勇者は!」

「そーなんです、ホントにしょーもない勇者様でした」


 魔王様の言葉に、あたしは深々と頷いた。

 驚いたことに魔王様はあたしの身の上話を親身になって聞いてくれた。

 しかも絶妙なタイミングで相槌を入れてくれるうえに、外道な勇者様の行いに対して「殺して正解だったな」と怒りを込めておっしゃってまでくれたんだ。


 そんな魔王様の反応が嬉しくて、あたしはひたすら話しまくった。

 もしここが酒場だったら、きっと今宵のお勘定はあたしが全て払わせてもらっていたに違いない。

 それぐらい気持ち良く話を聞いてもらったのだった。


「うむ、よくぞ話してくれた。キィの歪な能力の所以が理解できたぞ。礼を言う」

「いえいえ、こちらこそー。魔王様がこんなに親身になって聞いてくれるとは思ってもいませんでした。いい人ですねー、見直しました」


 あたしの言葉に魔王様はきょとんとされた。


「そうか、余がいい人か。ふむ、決してそんなことはないと思うのだが……」


 思案に暮れる魔王様。

 あ、そうか、魔王なんだから「いい人」ってのはあたしたちと違って褒め言葉なんかじゃないのかもしれない。むしろ、悪口の類なのかも。


 やばい、どーしよ。ちょっと焦る。


 でも、魔王様には悪いけれど、本当にいい人だと思うんだ。

 あたしの愚痴なんて、勇者様はもちろんのこと、逃げていった傭兵のふたりだってまともに聞いてくれなかったもん。


「まぁ、よい。そんな話をしているうちに目的地に着いたようだ」


 魔王様が思案を断ち切るように、一つの部屋の前で立ち止まった。 

 あたしたちは話をしながら、蒼い炎に導かれるままダンジョンの地下深くへと降りて来ていた。道中三つの昇降機を使い、そのうちの一つは六階層ほどすっ飛ばしていたから、おそらくここは地下十階ぐらいだろう。


 魔王様が目的地と言われた部屋には「ダンジョン探索本部」と書かれていた。

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